物忘れ・認知症65

 糖尿病、がん、認知症にならないで、天寿を全うしたい人々がトライし始めた糖質制限の食事が静かなブームになっています。
 カロリーになる三大栄養素の糖質・蛋白質・脂質の摂取割合は、長い間おおむね6対2対2の割合で摂取したいというのが栄養士さんの長い間の指導でした。
 しかし、増え続ける糖尿病、がん、認知症の原因は、この割合で食事すると糖質が多すぎる結果になっているせいではないかといわれ始め、この割合を普段は3対3対3程度の糖質制限食(がんになってしまったら3ヶ月程度は0対5対5)にしたらどうか? との提案が徐々に受け入れられてきました。
 この糖質制限をしつつ蛋白質と脂質のとり方に工夫すると体内でケトン体が生まれ、細胞内でミトコンドリアがブドウ糖とケトン体からエネルギー物質であるATPを持続的に生み出すハイブリッドエンジンとなって、いわゆるケトン体質になり、健康長寿に一歩近づける展望が開けるようです。

ケトン体とは

 我々はデンプンなどのブドウ糖の多糖類である糖質食品を食べると、胃腸で消化酵素によりブドウ糖に分解され、それが腸から吸収されて細胞内で共生しているミトコンドリアに食べられ、ATPと呼ばれるエネルギー物質に変換されて、そのエネルギーで生きています。
 ミトコンドリアが食べてエネルギーとなる物質は、ブドウ糖だけでなくケトン体と呼ばれるものも3種類あり、ケトン体は糖質が不足した時に肝臓で脂質が分解されてできる脂肪酸からできるアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンの総称なのです。
 おなかが空いてグーグーなる時は、このケトン体は体内に蓄積している皮下脂肪や内臓脂肪などの脂質を原料に結構生まれているといいます。逆に飽食が続いている時はケトン体は生まれません。ケトン体は抗酸化の働きもし、生まれるのは長寿に関係するサーチュイン遺伝子の発現によりますので、毎日一回は空腹感を味わう生活というのは健康長寿にとてもプラスなことなのです。
 人間の場合、まだ口から食物をとっていない新生児の血液を分析すると、ブドウ糖はほとんどなく、ケトン体が相当量検出されるので、胎児の成長エネルギー、生きる力はケトン体でまかなわれていることが最近になって解明されました。
 また、人類がアフリカでの樹上生活から地上に降りての生活を始めた頃の食生活は、遺伝子は植食動物のままなのに、肉食動物が食べ残した動物の頭蓋骨や太い骨を手にした石塊でかちわり、中の可食部を食べて生きる栄養にしていたといわれ、その約2百万年の時代は、糖質からとるエネルギーは1割程度で、死骸動物の蛋白質と脂質を合わせると9割を超えるほどのエネルギー源だった時代だったようで、ブドウ糖よりケトン体を主たるエネルギー源にしていたのだろうと推定されています。

糖質とり過ぎが健康長寿を壊す

 今から約1万年前から始まった小麦や米などの穀物の栽培で、食料事情は安定するような時代になったのですが、同時にこれは糖質偏重時代の始まりでもあったのです。それまではたまに口にすることができた美味しい糖質を日常的に豊富にとれるようになり、特に小麦の品種改良は、口当たりが良く、美味しくはなったが、グルテンがヒトの腸に慢性炎症を起こさせる内容にしてしまったといわれています。
 人間のケトン体とブドウ糖の二つを燃やして回るハイブリッドエンジンは、ブドウ糖が十分あるとケトン体を燃やさない性質があるので、栽培穀物でデンプン食品を皆が十分とれるようになったら、常時はケトン体は人々の体内で活躍していないので、いつとはなしに体内でできなくなったケトン体の研究をする人はいなくなり、意識もされなくなり、忘れ去られてしまったのです。
 約3万年前まで、現地球人のクロマニヨン人と共生していたネアンデルタール人は、十分なケトン体をつくる遺伝子がなかったために、気候変動などによる食料危機に適応できず生き延びられなかったといわれています。体内に蓄積した脂肪からケトン体ができれば食料危機などで絶食せざるを得なくなっても、かなりの時間生き延びられるのです。ところが定期的にデンプンを食せるようになってブドウ糖体質になると、ブドウ糖の体内蓄積はわずかなので、もし何らかの事情でケトン体をつくる能力を失えば、ご飯・パン・麺類などが食べられないピンチになれば、体内の蛋白質を壊してブドウ糖を生み出す糖新生でしかブドウ糖をまかなえなくなるので、筋肉などの蛋白質が壊れていって、やがて移動も労働もままならぬ滅びの道をたどるようになってしまうのです。これこそケトン体がつくれなかったネアンデルタール人のたどった絶滅の道です。幸いなるかな現地球人の我々クロマニヨン人は、今はたっぷりの糖質摂取のためにケトン体がつくれない体質になっていても、糖質制限をしっかりやって、体内でケトン体に転換してくれる中鎖脂肪酸を適宜摂取していると、また、ケトン体とブドウ糖で
動くハイブリッドエンジンがミトコンドリアで稼働するように、遺伝子にスイッチが入り、糖尿病、がん、認知症とは縁ができにくいケトン体質が獲得されるのです。廃用性萎縮でこのケトン体をつくる遺伝子が消え去る前に、お腹が空いてから食事をする習慣を維持してケトン体がつくれる遺伝子の能力を失わないようにしたいものです。 a 糖質制限で病気知らずに b  ブドウ糖の多糖類であるデンプン食品は、今の日本人のカロリー摂取の6割を超えており、人類の食性と歴史を考えると異常なほどのとり過ぎになっています。しかし、日本では主食という名前でデンプン食品を食事の中心に据え、それを食べるのが当たり前となっている食文化ですから、多くの人が疑う余地なく糖質過剰の食事をしています。ましてや、食生活の欧米化が浸透していますから、小麦を口にする機会がどうしても増えます。小麦は今や食べた人の腸に慢性炎症を起こさせて腸内細菌の体内侵入を許したりアレルギー体質にするグルテンの摂取元として欧米の医師・栄養学者からも糾弾されている食品ですが、まだまだその怖さは多くの人には認識されていません。グルテンの心配がないお米のご飯でもとり過ぎたら、
uドウ糖体質になり、ケトン体ができなくなるので疲れやすく、スタミナのない生活になるだけでなく、糖尿病・がん・認知症になりやすくなります。血糖値が高くなる糖尿病は、血管の障害が起こりやすく、動脈硬化・高血圧のベースになる生活習慣病ですが、ケトン体ができるほどの糖質制限をしていたら、まず糖尿病にはならないのです。すでに糖尿病の方も食後1時間血糖値が140を超える血糖値スパイクの人も糖質摂取量をとりあえず従来の半量にする程度の糖質制限を心がければ、血管の老化は年相応程度で済ますことができ、血管の早老化による様々な生活習慣病に躓かなくて済みます。 a 脂質のとり方の注意すべきポイント b  ケトン体は食品でとる栄養素ではなく、糖質制限をすると体内でつくられるもので、その材料として中鎖脂肪酸があげられます。認知症が治ると評判のココナツオイルはこの中鎖脂肪酸です。自然食品店やスーパーの食用油売り場で見かけるMCTオイルも中鎖脂肪酸です。どちらかを毎日大さじ2杯程度とり続けたいものです。  ただし、脂質は高カロリー食品ですから、良いものだからといって沢山食べていたら太ります。  脂質の摂取で注意すべきこと
は、オメガ3系の脂質、たとえば魚のEPA、DHAを毎日やはり大さじ1杯はとらないといけないことを忘れないことです。この系統の油を植物油でとろうと思ったら、加熱していないエゴマ油、アマニ油、麻実油などを毎日大さじ1杯とり続けることです。