物忘れ・認知症64

 いま、血栓によって脳梗塞や心筋梗塞になってしまう人が、年間10万人以上います。突然死や後遺症で身体の長期不自由につながる困った事態に陥ることを防ぐため、熱い視線を浴びているのが、こうなった時に血栓を溶かす方法と予防法です。
 ヒトは脳と心臓に血栓ができるとなぜ致命傷になるのでしょうか?
 それは、脳と心臓だけが終動脈といって、動脈の構造が縦のつながりだけで次第に細く分かれて広がっていくような構造になっており、血管同士の横の連絡がないので、下脚や不整脈の心臓などから血栓が流れ出ると、次第に細くなっていく血管のどこかでスポッとはまり、血液の流れを止めますが、脳と心臓の血管だけは、別の血管から血が流れてくることがないので、止まった先には血液が行きません。そして致命的トラブルになるのです。

4時間半が生死を分けます

 脳梗塞、心筋梗塞による死を防ぐため、ヒトは血栓で塞がれた先に、脇の血管から新しい血管をつくって伸ばしてつながらせて血を流そうとしますが、時間がかかります。4時間半以内に新血管ができるか、血栓が溶けて、血流が再開できなければ死が待っているのです。
 しかし4時間半以内に血栓を溶かして流すことができる特効薬の注射が間に合い、血栓が溶けてくれれば、後遺症もなく生き延びることができるのです。

血栓を溶かす特効薬「t-PA」

 脳梗塞の治療に使われる特効薬は「t-PA」というものです。救急の患者にこの薬を注射すると、脳の血栓を溶かして後遺症を防ぐことが期待できます。
 実は、このt-PA、もともとは私たちの血管の内皮細胞から血液中に分泌されている物質です。何らかの事情で血液が固まり始め、血栓ができると速やかにこれを溶かし、血管が詰まらないようにしてくれているのです。このt-PAの生化学合成に成功したものが特効薬「t-PA」です。
 このt-PAが、傷ついた時の出血時とか、恐怖を感じたなどのストレスがかかって血が固まりやすくなった時とか、何らかの事情で血液が(普段は血液の中を流れてガードマンの役割をしているフィブリンで)固まりやすくなった時、必要以上の血栓ができないようフィブリンを溶かしてくれるのです。

血が固まりやすくなるのは? 固まりにくくなるには?

 血栓ができるほど、血が固まりやすくなるのは、傷による出血とか強いストレスの他には、長時間じっとしている時と水分不足の時と言われます。睡眠中もこれに当たります。
 寝る前に程良く温かい水分を補給するのは、とても大事なことです。
 血栓ができにくくなるほど、血が固まりにくくなるには、じっとしていないで、歩くなどの「軽く体を動かす有酸素運動」をすると良いのです。その時、血栓を溶かすt-PAは血管壁から自然と分泌され、これが十分量あればそのパワーで、脳卒中・心筋梗塞のリスクをかなり減らせることもわかっています。

血栓の功罪

 血管に詰まって脳梗塞や心筋梗塞を起こしてしまう「血栓」をつくる血の固まりやすさも、もともとは、ケガをしたり、血管の内側が傷ついたりした時に、すばやく傷口をカバーして出血を止め、かさぶたになって患部を保護してくれる働きをしてくれるので、ありがたいものです。
 しかし、必要以上に固まりやすくなって血栓が沢山発生したり、巨大化すると致命傷となります。
 その原因の一つに、現実の出血とは関係のない驚きや恐怖の「ストレス」もあるのですが、これは普段意識していない人が多いのです。
 誰でも、命の恐怖を感じると、次にくる出血に備えて血は固まりやすくなるよう変わるのです。これはヒトの祖先が自然の中で生きていた太古の時代、ケガなどで出血した際には、瞬時に血液を固めて出血を止めないと命にかかわるので、血液は、「ケガをするかもしれない状況」、つまり強敵に出くわして恐怖を感じると、いち早く状況を察知して、「固まる準備をする」よう進化したためと考えられています。これは恐怖に限ったことだけではなく、現代人は強烈な興奮やストレスでも血液は固まりやすくなります。
 人に深刻な恐怖を与えた時に血液はどうなるか? を実験観察した結果、深刻な恐怖を与えたあとは、約3割方も血液が固まりやすくなることがわかりました。ショック死はこれに当たります。アメリカで心筋梗塞が多いのはクリスマスシーズンですが、これは強烈な喜びの興奮のせいとも言われています。

血栓を溶かす能力を上げるには?

 血栓を溶かす能力を上げるには、有酸素運動が効果的です。ウォーキングなど、息が切れない位の軽い運動の習慣があれば良いのです。1日30分位、できるなら毎日行いましょう。血栓を溶かす自前のt-PAがより沢山分泌され作用しやすくなります。普段、運動を殆どしない人ほど効果が期待できるので是非試してみてください。

ロングフライト症候群対策

 噴火や大地震の被災地では、自宅にいられないので、やむを得ず車上生活をする方が多いのですが、そうすると足の血管に血栓ができてしまう、いわゆる「ロングフライト症候群」が大きな問題になります。飛行機などで長時間座っているとなるトラブルです。血栓は、血流が滞った場所でできやすいのです。最近は新幹線でも長時間乗る場合、座りきりだと危ないと言われるようになってきました。
 長時間体を動かさないで、血が固まりやすくなっても、すぐに梗塞などの症状が出るとは限りません。しかし、その時「血栓のタネ」が血管や心臓内につくられると、しばらくしてから、場合によっては数年も経った後に大きな問題となることもあります。
 あっ、座ったきりだ!と気がついたら早めに足の運動をするなど対策されますように!
 特にお年寄りなど、普段から体をあまり動かさない方は、少しでもよいので、まずはゆっくり歩く時間をつくることを心がけましょう。
 眠る時にも、足が低い位置にあると、血栓をつくる大きな誘因となりますから、足が低い位置にならないよう、例えば丸めたタオルとか段ボールなどを足の下に敷くとかして、足の血が心臓に戻る方向に動きやすいようにしておきましょう。
 起きて歩き始めた時、下脚にできた血栓が動き出すと、肺や脳に詰まり肺塞栓や脳塞栓で命を落とす人もいるからです。