物忘れ・認知症61

 国立がん研究センターと大阪大学の共同研究による「朝食抜きの習慣は、生活習慣病の先にある脳卒中のリスクを高める」という発表が、今年2月、アメリカの脳卒中専門医学誌『ストローク』に掲載されました。
 これまでも、朝の欠食は、高血圧・脂質異常・肥満・U型糖尿病といった生活習慣病のリスクを増やすという研究結果はありました。
 一方で朝は排泄の時間帯なので、欠食すべきという伝統的な民間療法の見解も根強いものがあります。
 朝食は摂るべきか? 摂らざるべきか? 庶民は結構悩むのです。
 その中での、日本人を対象とした今回の大規模調査研究の結果、朝食摂取頻度と脳卒中の関連性の研究データが出されたのは、大いに参考にすべき内容だと思われます。

ベースとなった 国立がん研・ 多目的コホート研究

 1990年に国立がん研究センターが始めた総計14万人を対象にした「多目的コホート」研究では、5年ごとに、詳細なアンケートをもとにして毎日の生活習慣と食べる食材の量と頻度を調べています。
 これをベースに大阪大学の磯博康教授らが、岩手・茨城・長野・長崎・沖縄など全国8県の45歳から74歳の男女約8万3千人を対象に、1995年から2010年まで朝食に関する追跡調査をしたのです。
 これだけの規模でこの手の調査が行われたのは日本初とのこと。その結果、この中で脳卒中を起こしていたのは3772人。
 磯先生らの研究では、この人たちを朝食を摂る頻度でグループ分けをしてみました。
 一週間のうち、朝食を摂る回数が0回から2回を@、3回から4回をA、5回から6回をB、毎日食べるをCとしたところ、このCのグループに比べ、@のグループは脳出血発症リスクが36%も高く、脳梗塞を含めた脳卒中全体で見ると18%高かったということがわかったのです。

脳出血を招く高血圧  脳出血と関係が深いトラブルに高血圧があります。

 動脈硬化ができれば血管内径は細くなるので血圧は高くなり、高血圧が続くと更に動脈硬化は進んでしまう悪循環となり、大事な血管は脆くなって破れやすくなります。このために脳の血管が破れてしまうと脳出血です。
 いわゆる脳卒中には、脳内の血管が詰まる脳梗塞というタイプと、脳血管が破れて出血する脳出血のタイプがあります。朝食を抜いていたら、脳卒中の両方のタイプともリスクが増え、特に脳出血が起きやすくなっていたのです。
 これからわかることは、朝食を抜く習慣にしていると高血圧症になりやすいということです。

早朝高血圧

 朝食を摂る人も摂らない人も、一日の中では早朝は血圧が高くなりやすい時間帯です。何故かというと、目覚めの1時間前あたりから、起きてからの活動に備えるため血圧を上昇させるためのホルモンが出てくるからです。もともと高血圧症の人は、この勢いで早朝高血圧といわれるような状態になります。そういう時に朝食を摂らないと、空腹ストレスが生まれ、自律神経を支配している脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモンも出て、結果的に血圧は起床後1時間後にピークになる人が多くなるのです。
 ここで固形の食べ物を食べると、胃壁が刺激されたり肝臓が働き出したりしてその刺激が脳下垂体、視床下部に届いたりすると血圧を上げるホルモンの分泌が止まるので、血圧は落ち着きます。つまり朝食は起床後1時間以内に摂れば良いということになります。

食後高血糖スパイク

 また、糖質を食べた直後には、血糖値はピークを迎える高まりを見せますが、日に三回食べる筈の分を、朝食抜きで昼食と夜食に集中すると、ピークはその分きつくなり、つい食べ過ぎれば高血糖スパイクといわれるほどに危険レベルになりかねません。これを三回にならせば、一回の食事でとる糖質は少なくなるので、糖尿病を誘発するようなピークは低いまま過ごすことが容易になります。
 朝食を抜くと、普通の人は、おなかが空くので昼と夜につい食べ過ぎやすくなるのです。

脳卒中は 朝方が危険タイム

 寝ている間は発汗量が一番多いので、朝方は普通、血液の粘度が高いのです。そこに血圧が高くなる原因が重なってくると、若いうちはともかく、中年過ぎると安心というわけにはいかなくなります。
 朝食抜きと朝食をきちんと摂ることの落差は意外と大きいのです。ましてや、血管の老化が進んでいる人では、ラクダの背骨を折る藁一本になりかねないほどの差になる人があるということです。
 学生のように若い人でも、朝食を抜くと血糖値が低下し過ぎて集中力が上がらず、成績が下がる、テストに失敗するということは割と知られていることです。
 年をとってきたら、社会生活も順調でないときには朝から精神的ストレスも上がりがちになる羽目になることもありがちなので、無理と油断は禁物です。

健康には早寝遅起き

 昔に比べると随分と夜、寝る時間が遅くなってきました。自律神経の交感神経が慢性的に興奮して、深く眠れないことも多いのが現代人で、こういう人が一日ごとの体内時計も狂いがちで、修正もうまくいかないで毎日を過ごしてしまいがちです。
 別の統計ですが、長生きしている人は、朝7時より前には、目が覚めていても起き上がらない人だそうです。夜は10時前には寝につき、睡眠は7時間が一番長生きだそうです。寝る前にも歯を磨き、睡眠時にも口呼吸をしない工夫をして眠りにつき、血圧が上がって脳卒中を起こさないように水分が不足しないよう枕元にはぬるま湯がいつでも飲めるようにしておき、睡眠時トイレに立つときも、ぬるま湯を一杯飲んでからトイレに行き、起床後は、そのぬるま湯でまず歯を磨き、7時過ぎの起床後1時間以内に朝食を摂る。これで体内時計もリセットする。この大事さを理解して毎日守り続けることが、脳卒中、脳出血の悲劇を招かないで天寿を全うする具体策ということです。狂ってしまった体内時計は朝食をきちんと食べる生活を取り戻せば、すぐには難しくても必ず戻ります。
 朝食は小麦は避け、糖質も取り過ぎず、人はもともと肉食動物ではなかったということを忘れず、三大栄養素、微量栄養素のバランスをしっかり守っていきましょう。