物忘れ・認知症

ダイアン研究

 これまでいったん始まったら進行を食い止める事はできないといわれてきたアルツハイマー病について、アメリカのワシントン大学では6年前からモリス教授が責任者となり米・独・伊などの研究者からなるダイアン研究チームをつくりました。それまで誰も気づかなかった家族性アルツハイマー病に注目し、治療法から予防法までの手がかりをつかむことに成功、今、世界から熱く注目されています。
 アルツハイマーを発症した人の脳にはアミロイドベータという黒い染み状の蛋白が点々と現れていることは前々から知られていました。
 ダイアン研究の結果、それは発症する25年も前から徐々に脳内に蓄積されてくることが明らかにされたのです。アルツハイマー病は70歳を過ぎると急激に増えてきます。70歳の25年前というと45歳つまり40代の半ばには、知らないうちにそんな変化が進んでいくのです。
 アミロイドベータ蛋白は、脳神経細胞が活動するとつくってしまう老廃物です。普通の人では、睡眠時間中に徐々に脳内から静脈血管を経て脳外に排出されています。しかし、アルツハイマーになる人は、それがうまくいかず、脳脊髄液中にアミロイド蛋白が次第にたまってくると、脳神経のシナプスに炎症を起こさせて傷つけます。アミロイドベータ蛋白がたまるようになってから、約十年たつと、今度はタウ蛋白というものが、その傷ついたシナプスから入り脳神経内にたまり始め、それが脳神経の中でよじれてたまるようになると、脳神経は次第に
死んで数を減らしていきます。
 そして神経細胞にとどめを刺すのはアミロイドベータ蛋白ではなく、このタウ蛋白ということもわかってきたのです。そのタウ蛋白に侵されて死に至る神経細胞の量が増えるに従い、それまで脳神経で満たされて記憶を担当していた海馬は、次第に萎縮するようになり、脳全体も萎縮していくに従い、記憶力・認知力の減退はいちじるしくなり、軽い物忘れではすまされず生活に重大な支障を来すようになります。この段階がアルツハイマー病の発症です。ダイアン研究によってこの長期にわたる過程、全体像が明らかになりました。

薬の研究

 この流れの上で、アミロイドベータ蛋白がたまらないように散らしたり、神経細胞内でよじれ始めたタウ蛋白を分解して消してしまう方法、特に薬の研究・新薬創造の開発競争が今、懸命に繰り広げられているのです。
 先月号でご紹介した、計算とか言葉遊びなどで頭を使いながら体を動かす方法は、海馬の中でダメージを受けて神経細胞が減りつつある中で、海馬そのものを鍛えたり、神経細胞の数を増やして海馬の萎縮を防ぎアルツハイマーの進行に確実にストップをかける優れた方法です。しかし、医薬品メーカーは、アミロイドベータ蛋白やタウ蛋白を散らしてしまう薬の開発に躍起です。
 ダイアン研究が本格化するまでの薬は、あまり効果があがらないとか、重大な副作用が出て使い物にならないとか、開発に手間取っていたようですが、この研究の結果、ターゲットが明確になったので、イギリスとアメリカを中心として、希望の持てる薬の開発に成功しつつあるようです。
 番組では、アミロイドベータ蛋白を散らしてしまう薬としてはスイス・ロシュ社の「ガンテネルマブ」、タウ蛋白を分解してしまう薬としてはアメリカとイギリスで治験が進んでいる「LMTX」が紹介されました。
 薬の開発はフェーズT、フェーズU、フェーズVと臨床試験の段階を踏んでいくので時間がかかりますが、イギリスとアメリカで研究開発が進められている「LMTX」という薬は脳神経細胞にたまり始めたタウ蛋白を分解してしまう薬で、今のところ重大な副作用もなく、約80%の患者に効果があって、あと二年でフェーズVといわれる治験の最終段階を通過できれば、2016年には米英では実用化する、つまり、医師が処方できる薬になるといわれています。この薬の治験のフェーズUで、アルツハイマー発症後この薬を十年近く朝晩二回飲み続け
て、普通なら介護生活数年後に死に至っていた筈の老女が全く介護の世話にならず、多少の物忘れはするものの元気に夫婦だけで生活している実例が紹介されていました。

日本での研究

 日本でも大阪大学の高木淳一教授らを中心として脳内のアミロイドベータ蛋白を分解してくれるソーラ(sorLA)蛋白質を脳内で増やすような遺伝子操作をする研究を進めていることがマスコミで報じられています。
 日本はいったんターゲットが定まり、競争状態に入ると思いのほか開発が早まるということが多い国なので、大いに期待できると思われます。山中博士によってiPS細胞で幹細胞が人の手によってつくられて、みんなで驚いていたら、すぐ、もっと簡単に人の幹細胞がつくられそうなSTAP細胞がうら若い女性研究者により生み出されました。この流れで世界に輸出できるアルツハイマー・認知症の薬がつくられて、世界に輸出できるようになれば、日本の借金もかせぐに追いつく貧乏なしの話になるかも知れません。
 他国の事情はともかく、世界に先駆けて、日本では団塊の世代がもう数年で七十歳に達し始め、二千万人を超える認知症の患者が出ると予測されています。認知症の介護は他の病気と比べて、経済的にとても多額の負担を社会全体にかけざるを得ないので、国レベルで経済の大混乱を引き起こす病気ともいわれています。
今の認知症治療薬は認知症の進行を遅らせるだけ
 今ある認知症の治療薬といわれているものは、進行を遅らせる薬であって、認知症を治してくれるわけではありません。今、日本でアルツハイマー病の治療薬として認められているドネペジル・ガランタミン・リバスチグミン・メマンチンはみなそうです。認知症を治してくれるわけではありません。しかも、この薬でさえ、日本では悪名高き「ドラッグ・ラグ」で厚労省がストップをかけていたので海外とは十年遅れでやっと使えるようになった薬です。この「ドラッグ・ラグ」は日本で慣例になってしまっているので、アルツハイマー病が本格的に治
ることが期待できる新しい薬も、海外に比べ十年位は遅れるかも知れないともいわれています。が、借金大国日本は、製薬メーカー保護にしかならないそんな悠長なことは、いっている余裕はない筈です。認知症の老人が認知症の老人を介護している老々介護・認々介護を何とかするためには、一方で前回ご紹介した日本の長寿研が開発した課題消化運動をみんなで定期的に楽しくやることと、ダイアン研究に基づいた薬が米英独スイスから出たら、「ドラッグ・ラグ」をはねのけてすぐ使わせろという運動を起こし世論を沸騰させることが必要と思われま
す。

ノック棒・巴朗夢

 あと、薬ではありませんが、認知症予防に「ノック棒」をお忘れなく。これを使うことによって血液がサラサラになること、つまり、酸素を運ぶ赤血球が脳の毛細血管の中も巧みに動き回るようになることは科学的手法で観察されており、このことが脳の神経細胞を活気づけることは誰でもわかる理屈です。
 1ミリのチューブにサラサラした水を通すのも容易ではありません。
 水と管の間にすごい摩擦が生まれるからです。普通の力ではまず通りません。それなのに、1ミリの千分の5しかない脳の毛細血管に、酸素を持った直径千分の5ミリの赤血球が血液とともにスムースに流れるのは、血管の内側と赤血球の外側がともに先端に負の電荷を帯びたシアル酸という糖鎖によって接触面が、マイナス電子同士の反発力で摩擦が起きないからです。
 ノック棒で軽くコツコツと頭を叩けば、それで生まれるピエゾ電子が血管内壁と赤血球外壁をマイナス電子で満たすのです。また「不思議パワー」の「巴朗夢」の香りを嗅げば、単に半日は朗らか気分でいられるというだけでなく、血液がサラサラになっているというのも科学的手法で観察されています。
 つまり頭をノック棒で軽く叩くのと同様の、脳の毛細血管に、酸素に満ちた赤血球が流れ込んでいくことが期待できるのです。ノック棒も「巴朗夢」も認知症予防ということを念じてつくられていることを決してお忘れなく。
 認知症になりたくなかったら、血管、特に動脈の若さを保つことにも留意してください。これには豚とか牛などの哺乳動物の肉はできるだけ食べないのに越したことはありません。これらの肉を食べると現代人の血液中にヒトが270万年前からつくらなくなった豚・牛由来のGc(Nグリコリルノイラミン酸)が入り込み、これが食べた人が起こす免疫反応の対象となって、血管は免疫反応の主体の白血球が出す活性酸素で、内側から傷ついてしまい、そこから血管壁内にコレステロールが入り込んで動脈硬化を起こし、血流が悪くなる結果、脳神経細
胞に必要な酸素や栄養分が供給されにくくなって、脳血管性認知症になる危険性が増えるからです。老後の蛋白質補給は蒸した大豆などの植物性蛋白質をメインに、動物性の蛋白質は魚で補給することを中心に考えたいものです。肉でないととれないという血清アルブミンは酒粕で十分とれます。