物忘れ・認知症F

認知症にならない工夫あれこれ

脳の予備能力

 アルツハイマー病になってしまった人の脳には、一つには「老人斑」というシミが見られ、これは抗酸化ミネラルの一つ、セレニウムの定期的な適量摂取でかなり抑えられるという話、もう一つは脳のタンパク質が変性を起こしてタウ蛋白が糸くずのようにつながって「神経原線維変化」を起こし、神経細胞を傷つけており、これは脳を含む体温を38度まで週2回とか定期的に1時間くらい上げてやるとヒートショックプロテインが脳細胞内でもできてタウ蛋白が姿を消していくことが期待できるという話は知る人ぞ知る興味深い話です。
 そして老化にともない、脳細胞にタウ蛋白が糸くず状にたまり始めたということになれば、その人は必ず呆けるか、というと必ずしもそうではないと希望が持てる話もあります。
 今回はこの話をご紹介してみたいと思います。タウ蛋白がたまり始め、アルツハイマー病の特徴が出だしたと診断されても、まだ悲観することはない、治る可能性もあるということにつながるうれしい話です。
 実際、かなり呆けていた爺ちゃん婆ちゃん方が、戻ってきた話があるということを聞いた人は結構いらっしゃるのではないでしょうか?

ある修道女集団の研究

 1986年にアメリカのケンタッキー大学のスノウドン教授が始めた「ナン・スタディ」というのがあります。これは約700名に及ぶカトリック修道女の協力によるもので、死後に脳の献体に同意した彼女たちに、毎年認知機能テストを受けてもらい、その認知機能と死体解剖による脳病変の関係を明らかにしつつあります。生きていた時の認知機能や認知症としての症状や程度と、その人の脳の病理学的所見とが対比されるわけです。
 82歳で天に召されたシスター・マリアの場合、0から6までの7段階で評価する神経原線維変化の脳内の広がりが2という軽い程度であったのに、実際には親しい友人の顔も認識できないほどの重度の呆けを見せていました。
 一方、84歳で心臓発作で召されたシスター・バーナデットは、神経原線維変化の脳内の広がりは6という典型的なアルツハイマー病の特徴が見られたのに、その知的能力は全く異常を見せなかった、つまり呆けていなかったというのです。
 つまり認知症の重症度と脳病変の進行度は、必ずしも一致しないことがある。そこで考えられるのがそれぞれのシスターの脳の予備能力です。

カッツマン教授の研究

 カリフォルニア大学のカッツマン教授は、平均85歳の死亡者137名の脳を解剖して、アルツハイマー特有の脳の病変と生前の認知機能の関係を調べたところ、病変が顕著でも、脳に重量がしっかりとあり、かつ、脳神経細胞の密度が高かった10名は認知機能が大変優れていたことを見出しました。
 脳に健全な部分が残されていれば、脳に病変があっても、それをカバーして認知機能を保持する能力を脳の予備能力としたのです。
 脳の病変が同程度で、認知症の症状が重く出る人、軽く済んでいる人がいるのは、前者が予備能力が低い人であり、後者は予備能力の高い人ということになります。
 シスター・マリアは予備能力が低かった人、シスター・バーナデットは予備能力が高かった人ということになります。
 脳の予備能力が十分にあれば、呆けといわれないで過ごせる期間が長くなるということですから、脳の予備能力をつけておくというのは大事だなと思いますよね。

脳の予備能力は どうすれば つけられるか?

 既に、予備能力を十分持っている人の特徴はといえば、@幼少期に快適な環境で十分遊んだり学んだりできた、A学歴が高い、B頭脳労働をしてきた、C中年を過ぎても多彩な社会関係の中で活動的な生活をしてきた──などのことがあげられるそうですが、これらはその人にとっては過去の話で、老年期を迎え、これからの呆けが心配になっている人にとっては、今さらどうしようもありません。問題はこれからどう過ごすかです。
 これは、この4項目の共通点、脳に刺激となるシャワーを浴びるということが脳の予備能力を増やすと思って日々工夫を重ねつつ送日するのが一番良いようです。
 生涯を通じての脳への刺激量の合計をいかに多くするかが予備能力の決め手というわけですね。
 よく周りに引っ張られる人生より、周りを引っ張る人生をといわれますが、脳の刺激シャワー度は両者で決定的に違うでしょう。
 これを生涯通じて心掛けようと思ったら、これから先の人生で何を成し遂げてからこの世を卒業したいのか、目標の旗をしっかりと掲げることが一番ともいわれています。
 我々の脳は不思議な性質があって、この旗を明確に掲げると自然とそれが実現していくように縁ができてくる、戦略も自ずと頭に浮かんでくるようになるといわれています。入ってくる情報も然りとか。必要な情報が必要な時に入ってくるようになるから心配するなというのです。
 漫然とテレビを見て、毎日配達してくれる新聞を読みふけっても頭が良くなるとか脳の予備能力が育つということは期待できないそうです。
 しかし、生きる目的を自覚し、何とかそれを達成しようと念じていると、それに必要な情報が向こうから飛び込んできて様々な縁ができ、脳の必要部署が活性化してきて、予備能力も自ずからついてくるような仕掛けになっているそうです。
 どうすれば人生の目標が達成できるか、寝ても覚めても考えるようになると、次から次に小さい解決策が湧いてきて、やがて大きな問題も乗り越えられるようになり、頭もそれにふさわしく良くなってくるそうです。
 この「何のために生きるのか」を明確にして、それを達成しようと頑張ることこそ生き甲斐が持てて、呆けない脳になり、予備能力も自ずとついてくる王道だそうです。

海馬がショックで おかしくならないように

 たとえアルツハイマー病変や脳血管疾患があったとしても、脳の重量が増すほどにニューロンを増やす生き方をし、予備能力を十分に持っているように心掛けることが、呆けを現実化させない、あるいは遅らせるなら、他にも認知症を現実化しないか遅らせる要因はないものでしょうか? そういう意味で、認知症のリスクを低くする要因としては、記憶を担当する海馬のダメージを受けにくくする、きついダメージを軽くする工夫というのも呆けのリスクを少ない方向に変える要因といえるそうです。それは主として心理的ストレスというか苦痛を軽く
することに他なりません。
 先月号で述べた認知症になりやすい性格との関連では、内向的で非社交的な傾向の人は予備能力をつきにくくしてしまう人であり、神経症的な傾向を帯びる人は心理的ストレス・苦痛に負けやすい人ということになると思われます。
 ストレスをため込みやすい人は、この際、会社や組織で上からの圧力に対しては、「逆らわず、いつもニコニコ、従わず」というかわし方が海馬をいためつける心理的ストレスを上手にやり過ごす処世方法だといわれていることを参考にしていただきたいものです。
 そうでなくても、殆どの病気の始まりはストレスだということですから、社会生活にともなうストレスで困った時には、ひょいとそれをかわす工夫、知恵を授かりたいものですね。
 これが必要な時に授かるためには、その人なりの人生の目的の旗を掲げ、その実現に邁進していることがきわめて有利だというのです。

食生活と栄養の工夫も大事

 『自然食ニュース』の97年8月号(bQ84)には、アルツハイマー病にならないための山田通夫先生のインタビューで、ビタミンB12を十二分にとり続けましょうという特集が組まれていました。
 ヒトの食性が植物食性というのでベジタリアンに徹しているとビタミンB12の摂取量がかなり少なくなってしまうという批判がよくされます。
 愛と慈悲の心で動物性食品を食べないで、結果的に若くして呆けてはかないませんね。
 私どもは、ビタミンB12の不足がアルツハイマーの一つの原因だとするならば、ビタミンB12を含む微量栄養素群のすべてが何一つ欠けることなく十分とれる総合サプリメントを普段の食事の度に摂っておけば大丈夫、ビタミンB12も動物性食品の常食よりかなり多めに十分とれると考えて実行しています。
 サプリメントは抗酸化というか抗活性酸素の機能に特化したものに飛びつく人が多いのですが、やはりストレスが多いこの世で健康を崩さず天寿を全うしようと思ったら、単に過剰な活性酸素による障害から身を守る抗酸化サプリメントというのではなく、それは当然のこととして、それを含むかたちで、日々の新陳代謝を順調に進める栄養バランスを全うするのに必要な微量栄養素をすべて含むサプリメントを食事の一部としてとり続ける工夫が、実は健康を総合的に支え、ストレスや苦痛に負けない力を自ずとつけさせる基になると確信しています。
そして、これこそが認知症になりにくくするもう一つの要因だと考えています。