『もう肉も卵も牛乳もいらない!」』 を読もう

第十回 世界飢餓

 エリック・マーカス著

『もう肉も卵も牛乳もいらない!』(早川書房)の徹底紹介を重ねて来ましたが、今月はパート3の「食卓を超えて」の紹介です。是非、この本を書店で求め、座右の書の一冊にして戴きたいとの思いでの逐章紹介です。
 この章の扉に「ヴィーガニズム(完全菜食主義)は単なる受身の克己ではありません。むしろ積極的な社会変革に先鞭をつける行為であり、常に最高の理想を追い求めるものです。」というジョアンヌ・ステパニアックの言葉が紹介されています。私たちに誇りを持たせてくれる含蓄のある言葉ですね。
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世界飢餓

 世界人口は一九三〇年には二〇億人、一九六〇年には三〇億人、一九七
五年には四〇億人、一九
九〇年には五〇億人に達した。そして一九九九年の後半に、世界人口は六〇億人に達した。一九七〇年は人口増加率が歴史上最高だった年だが、この時には世界人口は三四年ごとに倍増する勢いだった。その後、人口増加率は少しは減ったが(現在の人口倍増のサイクル
は四〇年)、世界人口はいまも、一日当たり二五万人ずつ増えている。

地球の資源を知る

 ケンダルとピメンテルは、地球はいったい何人の人間を支えられるのかという、実に根本的な研究をした。彼らの分析は非常に複雑だが、論文の構成はごく単純だ。まず人口増加の現況を調べ、次に地球の耕作能力について分析したのである。分析は、収穫を決定する三要素──耕地、水、そしてエネルギー──に基づいている。

農地

 人口増加に応じて食料を供給するもっとも当たり前の方法は、耕作地を増やすことである。そこでケンダルとピメンテルは、今後どれだけ農地が増やせるかということから研究を始めた。結論は不吉だった。地表の三〇%は凍結しているか砂漠か人間が到達できないなどの理由で農地に向かない。さらに一〇%の土地は、農地以外の用途に使われていた。住宅、道路、工業地域、都市などである。米国人が一人増えるたびに、〇・四ヘクタールずつ新たな土地が必要になる。住宅、道路、工業地や商業地のためだ。貧国の人々も、アメリカ人ほどではない
が、それでも土地を必要とする。二〇二〇年までに地球の人口が二五億人増えたら、このように土地もさらに必要になるので、耕作用地は四億ヘクタール減る──それがケンダルとピメンテルの試算だった。
 さらに驚くべきこともわかった。膨大な耕作地が著しく浸食されていることである。表土は耕作に欠かせない。しかし残念ながら、世界の耕作地の表土は減り続けている。世界的に、表土は自然に再生できる割合の一六倍から三〇〇倍の勢いで失われている。
 こうした限界を考えて、ケンダルとピメンテルは、地球の耕作地は、三分の一以上増やすことはできないと結論している。来る五〇年の間に世界人口が倍増する見込みを考えると、ゆゆしき結論である。

 二人は次に、将来の水供給を分析した。その結果、米国でも他の地域でも、水という貴重な資源の供給は減っていることがわかった。もっとも深刻な枯渇問題は米国中西部で起きている。
 約一〇〇年ほど前に開拓者たちが中西部に入植したとき、無尽蔵と思われる水が地下に眠っていた。オガラーラ帯水層である。これはサウスダコタからテキサスまでに及ぶ大地底湖で、面積も深さも膨大だったので、いくら汲み上げても大丈夫そうだった。
 しかしディーゼル動力の汲み上げポンプが、オガラーラの将来に暗雲をもたらした。一分当たり三〇〇〇リットル以上汲み上げられるディーゼル動力ポンプは、腕に止まった蚊が血を吸うようだった汲み上げを、動脈破裂に変えた。農民たちは後先を考えずにポンプを使った。そしていまやオガラーラの残り少ない水は枯渇まぎわである。この地下帯水層は大半の地域で四〇年以内に干上がってしまうだろう。
 灌漑は収穫を飛躍的に増大させるが、世界の主要な穀倉地帯では、水不足によってますます灌漑が難しくなっている。中国の小麦とトウモロコシの穀倉地帯では、地下水の水位が年に四メートルずつ下がっている。地下水位の低下は、同じくインドや他の数カ国でも起きている。このように世界規模で水資源が枯渇していることによって、人口当たりの灌漑耕作面積は、一九七八年以来すでに六%減っている。そしてピメンテルの予測では、これもほんの始まりに過ぎない。

化石燃料と農業

「現代的な農業において石油が表土や水と同じくらい大切な生産要素になっていることは見過ごされています。世界の表土は浸食によって失われつつあるが、石油から作る肥料や農薬のおかげで、それを補って余りある増産が可能になっているのです。そして生産性の高い農場では、ディーゼル農機具が使われています」
 「今日的な農業は、どれくらい石油を使うのでしょう?」
 「わずか一ヘクタールのトウモロコシ畑を耕作するのに、約一三二五リットルの石油が必要です。トラクターの燃料や農薬にも使いますが、大部分は肥料のためです。今日の肥料や農薬の大半は、石油から作られているのです。つまり、収穫は事実上、石油に左右されているのです」 しかし、やがて石油価格が高騰するとピメンテルは予測しています。
 「したがって私たちは、限りある石油とその他のエネルギー源に、食料生産体系を徹頭徹尾、頼っているわけです。今のところ、現代的農業の高生産性はおおむね安い石油のおかげです。石油価格が上がり始めたらおそらく二〇〇五年から二〇一五年の間にそうなるでしょうが、畑にたっぷりと施肥する資源はなくなります」

地球はいったい 何人を養えるか?

 地球が現在、まがりなりにも六〇億人を、そのうち相当数の人々は不十分ながらも食ベさせていることは明らかである。しかし地球では、今後の五〇年から一〇〇年にかけて、六〇億人から八〇億人が食べていけるのだろうか?「では、化石燃料の使用を減らし、持続型農業を行ない、エコロジーに配慮したとします。さて、地球には何人が住めるのでしょう?」
 ピメンテルは言った。「それらの持続性の条件が揃えば、地球は最大で二〇億人を養っていけるでしょう」
 二〇億人は、現在の世界人口の三分の一にも満たない。

植物性の食事は 資源消費が少ない

 こうした暗い予測には、まばゆい一条の光が射し込んでいる。人口を管理することの可能性はほぼ絶望的だが、ピメンテルとケンダルは、世界の食料供給をすぐさま大幅に改善する方法があると考えている。人間が食べるべき穀物資源が、驚くほど大量に家畜の飼料になっているとわかったからだ。
 二人によると、世界の穀物の三八%は家畜の餌になっている。「たとえば米国では、家畜の餌に使われる穀物は、年間生産量三億一二〇〇万トンのうち一億三五〇〇万トンに及びます。これはヴェジタリアン四億人を十分に養っていける量です。もし人間、とりわけ動物性蛋白質をたっぷりと含む食事をしている先進国の人々が、植物性蛋白質中心の食事に切り換えれば、かなりの量の穀物を人間の消費に差し向けることが可能なのです」

マスコミの目覚め

 今日の平均的な人々は、五〇年前の平均的な人々の二倍も肉類を食べているのだ。家畜による環境破壊に対する意識は、広くマスコミに注目され始めている。《タイム》誌の一九九九年のある記事は、環境上の問題によってまた肉が食べられない時代がやって来るかもしれないと主張している。「ちょうどタバコが経済や社会全体にどれほどのコストを強いているかに目覚めたように、世論はやがて、牛、鶏、豚、羊、そして魚類の大量生産に関わるコストはもはや助成することも無視することもできないと気づくだろう。コストとは、新鮮な水や土地な
どの資源のひどく低効率な利用法、家畜の糞による深刻な汚染、心臓疾患をはじめとする各種の退行性疾患の増加、そして地球のさまざまな命を支えている森林の大規模な破壊などである」