『もう肉も卵も牛乳もいらない!」』を読む

第一回 狂牛病の恐普\の章@

著者は元牧場主

 この本はアメリカ人の元牧場主で、家畜肥育場経営者のエリック・マーカス氏が、その肉食ゆえになった脊髄腫瘍と半身不随で死の寸前まで行ったとき、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読み、自分の歩んできた道の間違いに気がつき、「食糧供給システムの危険な現状を広く知らしめることを残された人生の究極の目標」と定め、その一環として書き下ろした本です。日本国民必見の書として本誌愛読者の皆様にお勧めします。

原題はヴィーガン

 原著の題は『VEGAN(純菜食主義者)』で、本は「この食事の摂り方が私たちの身体的ニーズ、深い思いやり、地球上で生き延びていく力ともっとも調和する生き方です。植物食品中心の食事法への移管は思うよりずっと簡単で、より優しく、健康で、幸福な生き方への扉を開いてくれます」というイントロダクションから始まります。
 肉類を国民食というくらいに中心としてきたアメリカでも、菜食主義者(ベジタリアン)の人々が増えつつあるという話は聞いていました。心臓病で突然死ぬのはミサの儀式なしでこの世とお別れなので、キリスト教でいう天国に行けないとの信仰を素朴に持っている多くの国民は、何よりその死に方が怖い。それで肉食が心臓発作による突然死のもとと知って、肉を食べない人が増えてきたといわれ始めたのはだいぶ昔のことです。
 もっとも、ベジタリアンは肉を食べない人という意味で使われますので、血を流さない牛乳や卵は食べる菜食主義とか、魚は食べる菜食主義というのもあるわけです。
 そこで菜食主義の中でも、肉だけでなく卵も牛乳も魚も含む一切の動物性食品を排除する人々をヴィーガンと呼んで区別しますが、これもこの本によると増えつつあるそうです。

心臓発作が なくなるメリット

 「健康でいたいから」、「地球とそこに生きとし生けるものに対する思慮から」と理由は様々ですが、この本のパート1では、アメリカ人がもっとも恐れるハートアタック(心臓発作)による突然死が低脂肪のヴィーガン食で殆どなくなるメリットを説きます。
 そして、その5章ではアメリカでも多くの専門家が指摘している狂牛病が発生する危険性と、狂牛病になった牛をヒトが食べてうつるクロイツフェルト・ヤコブ病感染の危険性にかなりのページをさいています。その中で狂牛病とかヤコブ病とはどういう病気かと、最初に狂牛病の大流行をみたイギリスの事情を詳しく紹介しています。
 ところで今、日本はアメリカから狂牛病の恐れを理由とする牛肉輸入の解禁を緊急の政治テーマとして強く迫られています。ブッシュ大統領、ライス国務長官から直接強面で迫られて、日本政府はオタオタしているようにもみえます。
 しかし、当のアメリカ自身、カナダからの牛肉輸入を狂牛病の恐れありという理由で断っていますし、アメリカ自身の調査でもアメリカの牛肥育業者はその70%が狂牛病対策はしっかりやっているとはいえないと認めているというのです。狂牛病の恐れがある間は、輸入再開はできませんとキッパリ断ってほしいものです。
 ところが、政治的思惑から独立しているという建前の日本の「食品安全委員会」は、米日政権当局からの強い政治的圧力と、信じられないほど意志決定が遅い、もっとスピードアップせよとの厳しい注文を受けて、ライス訪日の段階では、ついに限定的に、「狂牛病の恐れが無視できるほど小さい、年の若い生後20ヶ月までの牛は検査なしで輸入を認めましょう」という結論を出す寸前までになっています。

ズサンな アメリカの管理

 生まれた牛の管理がずさんなアメリカでは、「生後20ヶ月以下かどうかは殺してみたときの肉の色を見て判断します」といっています。
 牛の頭に釘を打ち込んで殺して解体するアメリカの労働者の組合責任者が、殺された牛の肉の色を見たって、牛の年なんか正確にはわからないと言明しているにもかかわらず、アメリカ政府は色でわかると日本向けに強弁しています。

奇形プリオンの 感染

 若くても奇形プリオンが感染した牛には濃厚ではないにしても奇形プリオンはいて、次第に増殖しますから、その牛を食べた人間に乗り移った奇形プリオンも時間をかけて濃厚に増殖していく危険はあるのです。
 脳に釘を打ち込まれて頭を割られたら、脳神経の中で増殖中のプリオンは全身の肉に飛び散って付着しますし、死の直前の血液・リンパ液の流れでも全身に回りますから、危険部位か安全部位かなどの議論は茶番に過ぎません。
 濃度の差はあれ、牛の肉には感染プリオンは存在しうるのです。感染プリオンは奇形蛋白質で、誰もが持つまともなプリオンにその奇形づくりを感染して濃厚にさせていく力がありますし、これは調理で煮ても焼いても消毒できません。どうであれ、その感染の危険は牛を食べた国民が負担するのです。

形づくり情報の つたわり

 雪は遺伝子がなくとも似たような六角形の結晶をつくるように、物理的な形は必ずしも完全な型枠を経由することなく、相互影響して奇形のものがあると、周辺の正常な形に折り込まれた蛋白質が奇形になってくる影響力を持っているというのです。何か朱に交われば赤くなるの話に似ていますね。
 国民が消費者のレベルで自主的に牛肉は食べないということにならない限り、数十年後はアメリカ人も日本人もヤコブ病だらけということになりかねない瀬戸際なのに、国民の殆どは脳天気。吉野屋の牛丼再開になれaば殺到する気分です。

自己責任での選択を

 この瀬戸際のタイミングゆえに、今回から数回で「狂牛病の恐怖」の章の紹介からさせていただきます。
 狂牛病で脳がスカスカになる前に、しっかり学習して牛は食べないと一人一人が自分で決めておかないと危ないからです。
 何事も先送り体質の政府は、何十年先のヤコブ病の増加は、今は手を打つ必要性など感じていないのでしょう。心配は、そこを国民につかれたときに人気が落ちて政権を手放さざるをえなくなることだけなのかも知れません。