急増する食中毒

増えている食中毒 今や年間通してシーズン

 衛生環境が昔に比べて格段に良くなっているにもかかわらず、食中毒が減ることはなく、ここ10年間ではむしろ急増傾向にあります(図1・2、表1)。
 季節もこれまで高温多湿の6〜9月に集中していたのが、O157などは年間通して、またSRSVなどウイルス性の食中毒は冬に多発とオールシーズン起こっています。
 こうした背景には、・同一食品の大量供給システムの確立(1996年の堺市の給食によるO157事件、2000年の雪印乳業事件など食中毒事件の大型化)、・海外旅行や輸入食品の普及、・冷蔵庫や冷凍食品の過信等が指摘されています。
 さらに隠れた背景として、・抗生物質の乱用や、・過労やストレス、・食生活の欧米化、・冷たい物の過食、・過度の清潔志向などがもたらす腸内環境の悪化、免疫力の低下が指摘されています。

飲食物を介して起こる

 中毒・感染症 食中毒は飲食物を介しておこる中毒や感染症のことで、原因別に・細菌やウイルスなど病原微生物による食中毒(主に細菌性)、
・自然毒による食中毒(フグ毒やキノコ毒など)、
・化学物質による食中毒(重金属や農薬など有害物質が含まれた食品による中毒)||の3つに大別されます(表1・3)。
 大半が細菌性食中毒〈9割以上は細菌性〉 その中で細菌性食中毒は食中毒の大半を占め、ウイルス性を含め微生物による食中毒は9割以上にのぼります。
 食中毒菌は感染力が弱く、普通は人から人にうつることはなく、菌数も体の中に10万〜1000万個入って初めて発症し(但しO157は感染力が強く、菌数も数百個程度で発症)、さらに後天免疫(獲得免疫)はほとんどないとされています。
 尚、日本では食中毒(食品衛生法)と赤痢やコレラなどの法定伝染病(伝染病予防法)は分けて分類されていますが、欧米では、コレラや赤痢も「食・水媒介性腸管感染症」として一括されています。

〈発症機序により2つのタイプ〉
細菌性食中毒は、さらに感染型と毒素型に分けられます。

・感染型 食品に付着した食品中や腸の中で増殖することで起き、潜伏時間は12〜72時間で、多くは38度前後の発熱を伴います。
 サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター菌が代表的なものです。
・毒素型 食品や腸の中で細菌が毒素を産生するために起きます。数時間で症状が現れ、発熱はあっても微熱です。
 ボツリヌス菌、ブドウ球菌が代表的なものです。
〈症状〉 食中毒菌が怖いのは、腐敗菌と違って、菌が食べ物の中で増えていても、味や臭いが変わらないことにあります。
 主な症状は下痢、腹痛、おう吐ですが、発熱、倦怠感など風邪に似た症状もあり、乳幼児や高齢者、抵抗力の弱った時などは貧血や尿毒症を併発して命にかかわることもあります(表2)。
〈代表的な食中毒(表2・3)〉・サルモネラ|卵には要注意|
 O157が猛威をふるった96年も、発生数のトップはサルモネラ中毒でした。サルモネラはどこにでもいる雑菌で、その種類は2千を超えますが、食中毒をおこす主な原因菌はサルモネラ・エンテリティディス(SE)と呼ばれるものです。
 SEの主な感染源は鶏卵です。この菌は「イン・エッグ型」で、産卵のために輸入されたヒヨコがSEに感染していて、菌が卵管などに定着してしまい、卵ができるときに菌が卵の中に入りこんでしまうのです。このため、卵の中で菌が増殖してしまい、それを食べた人が食中毒を起こすのです。
 サルモネラは細胞内増殖菌で、免疫力が落ちていると、腸内感染から全身感染に移行してしまい、症状が重くなります。
 卵は摂取しないに越したことはありませんが、使用する際には十分に注意したいものです。
・腸炎ビブリオ
 腸炎ビブリオは海水中にいる細菌で、刺身やあじのたたき、寿司などから発症します。
 この菌がついた魚や貝をさばいた包丁やまな板をきちんと洗わないと、暑い日などは30分くらいで菌が増殖してしまい、汚染されたまな板の上で野菜などを刻むと、その野菜についてまた増えてしまいます。もともと海の中にいる菌ですので塩にも強く、3%くらいの塩水でも増殖します。
 腸炎ビブリオはサルモネラより死亡率が高く、この菌が怖いのは、できた毒素が心臓に回って活動をとめる場合があることです。
 6月から10月いっぱいまでは、生の魚は食べないようにすることが、一番の予防になります。
 どうしても生で食べる際には、魚は真水または酢水でよく洗い、調理に使用した包丁やまな板、ふきんなどはしっかり洗って消毒し、つくった料理は時間を置かずに食べるようにしましょう。
・病原性大腸菌
 |O157の原因は牛|
 大腸菌は人間や動物の腸ばかりでなく、土や水中にも、ごく普通にいる細菌ですが、O157のように人間に食中毒などを起こす特別な大腸菌も存在します。
 米国では、牛糞で汚染された食品が原因ということが常識になっています。豚にも存在しますが、豚のO157は何故か人間には感染せず、牛が感染源となります。以前カイワレ大根が原因といわれたことがありましたが、これは肥料に牛糞などを用いたために汚染されたと見られています。
・黄色ブドウ球菌
 毒素型食中毒の代表的なもので、通常料理人の皮膚あるいは皮膚の傷口で生きていた細菌が、食物に付着することによって起こります。
 00年夏に1万3000人を超す被害を出した雪印乳業大規模食中毒事件の原因菌で、この菌が食物中で生産した毒素エンテロトキシンA型は、摂氏100℃で30分間加熱しても死滅しません。この菌による食中毒はおう吐が激しく、食中毒の中でも一番といっていいほど苦しいものだそうです。
 手に傷があったら、おにぎりは作らないようにしましょう。

・ボツリヌス菌
|命の危険が高い食中毒症|

 ボツリヌス中毒の原因としては、84年に熊本で11人が亡くなった辛子レンコンの他、北海道や東北地方でつくられる飯寿司などが知られています。
 また、1歳以下の赤ちゃんにハチミツを与えると乳幼児ボツリヌス症を起こすことがあります。赤ちゃんの腸は未完成なため、ハチミツのなかにときどき含まれているボツリヌス菌の芽胞(タネ)を吸収してしまうのだそうです。
 この菌の出す毒素は神経毒で、進行すると、やがて呼吸筋のマヒを起こして窒息し、死亡するという、きわめて危険な食中毒です。 その他の食中毒〈自然毒による食中毒〉 ふぐの内臓、肝臓、卵巣に多いテトロドトキシンによる中毒、じゃが芋の新芽や青い部分に発生するソラニンによる中毒、青梅の青酸中毒、毒キノコの中毒がよく知られています。
〈化学物質による食中毒〉 ヒ素・カドミウム・鉛・水銀など重金属に汚染された魚類を食べたり、着色料・保存料・殺虫剤・農薬などが汚染、混入した食品を食べることによって起こります。
〈その他〉 油脂の酸敗(過酸化脂質化)や、
マグロやサバ、カツオなど血合いの多い魚によるヒスタミン中毒があります。
 ヒスタミン中毒は鮮度が落ちることで起炎物質のヒスタミンが増え、じんましん、激しい動悸、呼吸困難などを起こすアレルギー様の食中毒です。サバが腐りやすいのもヒスタミンの増加によるものではないかといわれています。
表3食中毒病因物質の分類(平成11年12月28日・厚生労働省公示より作表)1サルモネラ属菌感染型。感染源は食肉・鶏肉及びその加工品など。主な原因菌のSE(サルモネラ・エンテリティディス)は鶏卵が原因のケースが多い。2ぶどう球菌毒素型。おにぎり、サンドイッチ他素手で扱う食品が原因。健康な人の皮膚や鼻やのど、頭髪に付着。手指の化膿した傷口や鼻水などから二次感染する場合が多い。3ボツリヌス菌毒素型。主な原因は缶詰など保存食、燻製。無酸素状態時のみ生育。
芽胞を作るため、長時間の加熱に強い。4腸炎ビブリオ感染型。生食の魚介海産物と、その加工食品から感染。真水に弱い。5腸管出血性大腸菌感染型。別名ベロ毒素産生大腸菌。O157が代表的。6その他の病原大腸菌感染型。牛肉料理(ハンバーガーなど)、井戸水などから感染。7ウエルシュ菌感染型。カレー、シチュー、スープなど、作り置き食品が原因。
芽胞を作るため熱に強く、100℃1時間の加熱でも死滅しない。
無酸素環境で増殖する。8セレウス菌毒素型。残りご飯、焼飯、スパゲティなど、穀物を材料にした食品が原因。嘔吐型と下痢型の2タイプがある。9エルシニア・
エンテロコリチカ感染型。牛乳、チーズなどの乳製品、豚肉から感染。健康な家畜、犬や猫などのペットが保菌。5℃以下の低温でもゆっくり増殖する。10カンピロバクター・
ジェジュニ/コリ感染型。加熱不十分の肉(特に鶏肉)、飲料水、生野菜、牛乳などから少量でも感染。健康な家畜・ペットが保菌。乾燥・高温に弱い。11ナグビブリオ感染型。輸入魚介類(カニ、エビ、生かきなど)・生水などから感染。コレラの仲間。(法定伝染病)12コレラ菌13赤痢菌14チフス菌15パラチフスA菌16その他の細菌エロモナス・ヒドロフィラ、エロモナス・ソブリア、プレシオモナス・シゲロイデス、ビブリオ・フルビアリス、リステリア・モノサイトゲネスなど。17小型球形ウイルス生の食品からウイルス感染。ウイルスのため食品中では増殖しない。18その他のウイルスA型肝炎ウイルスなど。19化学物質メタノール、ヒスタミン、ヒ素、鉛、カドミウム、銅、アンチモンなどの無機物、ヒ素石灰などの無
機化合物、有機水銀、ホルマリン、パラチオンなど。20植物性自然毒麦角成分(エルゴタミン)、ばれいしょ芽毒成分(ソラニン)、生銀杏及び生梅の有毒成分(シアン)、彼岸花毒成分(リコリン)、毒うつぎ成分(コリアミルチン、ツチン)、朝鮮朝顔毒成分(アトロピン、ヒヨスチアミン、スコポラミン)、とりかぶと及びやまとりかぶとの毒成分(アコニチン)、毒きのこの毒成分(ムスカリン、アマニチン、ファリン、ランプテロールなど)、やまごぼうの根毒成分(フィトラッカトキシン)、ヒルガオ科植物種子(ファルビチン)、その他植物に自然に含まれる毒成分。21動物性自然毒ふぐ毒(テトロドトキシン)、シガテラ毒、麻痺性貝毒(PSP)、下痢性貝毒(DSP)、テトラミン、神経性貝毒(NSP)、ドウモイ酸、その他動・br> ィに自然に含まれる毒成分。22その他クリプトスポリジウム、サイクロスポラ、アニサキスなど。23不明