ドライシンドローム

――乾燥症候群――
乾燥から身を守る

 ドライシンドロームは体の各部位に不快な乾燥症状をもたらすだけでなく、バリア(防御)機構を備えている皮膚や口腔や咽喉の粘膜が乾燥すると、風邪はもとよりアトピー性皮膚炎や、さまざまな免疫疾患にもかかりやすくなります。
 乾燥から身を守り、潤いを保つには、食事・栄養をはじめ、さまざまな生活環境を整えることが大事です。

健康な皮膚と粘膜を つくる食事・栄養療法水分の補給と血液サラサラ食
――血液ドロドロの

 欧米型食生活は乾燥を招く――〈水分を切らさない〉
 みずみずしい健康的な皮膚や粘膜を保つには、何といっても、水分を絶やさないことが一番です。
 水分は常時チビチビと切らさずに摂取しましょう。脱水症状を起こしやすい夜間や入浴時の対策は、寝る前と朝の起床時、入浴前後は必ずコップ1杯のぬるま湯を心がけます。
 アルコールやカフェイン飲料は利尿作用があるので、とりすぎは乾燥の元です。
 逆に果物は肌をみずみずしく若々しくしてくれます。糖分過剰にならないように適量摂取、特に朝はとると良いでしょう。
〈伝統的な和食のすすめ〉
 肉・卵・牛乳・油・白砂糖などに代表される欧米型の高脂肪・高蛋白食は、血液をドロドロにして血流を悪くします。その結果、各細胞に十分な水分や栄養が行き届かず、皮膚や粘膜の乾燥を促進します。乾燥対策にも野菜中心に魚少々といった伝統的な和食が一番なのです(図)。
 和食は必須脂肪酸のリノール酸系(n―6系)/αリノレン酸系(n―3系)比のバランスも良く、血流を良くすると共に、アトピー性皮膚炎や喘息などの炎症を鎮めるのにも役立ちます。
 なお、血流を促す食品としては、野菜など植物性食品全般の中でも特に、納豆、ニンニク、玉ネギ、梅肉エキスが血流促進効果が強いことで知られています。

皮膚や粘膜を保護する

 ビタミン・ミネラルビタミンAは目のビタミンとも呼ばれ、目の粘膜をはじめ、全身の粘膜や皮膚を保護する働きがあります。
 ビタミンCは細胞の結合組織であるコラーゲンの合成に働き、皮膚や粘膜を強くします。
 ビタミンEは血流を良くします。
 ビオチン(ビタミンH)は"皮膚のビタミン"といわれ、ビオチンが不足するとアトピーのひっかいた傷が治りにくくなります。ビオチンは体内で腸内細菌によって合成されますが、卵の白身に含まれるアンビジンという蛋白質にはビオチンの働きを阻
害する作用があるので要注意です。
 亜鉛には細胞の新生を促す作用があり、新陳代謝の活発な皮膚や粘膜の健康に役立ちます。亜鉛は、植物性食品では白米、大豆、納豆、ひじきやワカメなどに多く含まれています。
 疲れ目の大半はドライアイが原因といわれますが、目の疲れに優れた効果を発揮するのが、ブルーベリーやその野生種のビルベリーに豊富な青色色素のアントシアニン。マリーゴールドやケールなどに多いルテインも効果的です。
 この他、視神経の機能を高めるビタミンB群や、網膜に多い亜鉛、網膜の神経細胞に多いアミノ酸のタウリンなども疲れ目の解消に役立ちます。
 これらのビタミン・ミネラルを総合的にバランスよく補うには、"総合サプリメント(栄養補助食品)"の利用がすすめられます。

乾燥を防ぐ生活環境

口呼吸を防ぎ、
よく噛んで唾液の分泌を促す 口呼吸は鼻や咽喉、口腔の粘膜を乾燥させ、ドライマウスをはじめ、風邪、喘息、アトピー性皮膚炎、シェーグレン症候群など、多くのドライシンドロームの引き金になります。
 睡眠時は特に口唇の筋肉がゆるんで口呼吸になりやすいので、紙絆創膏(サージカルテープ)などで開口を防ぎ、鼻呼吸しやすいよう鼻孔や鼻腔を広げるノーズリフトの使用をおすすめします(写真・イラスト)。
 東京予防歯科研究会ではドライマウス対策として、よく噛んで食事する、定期的にガムを噛む、水分を頻繁にとる――などをアドバイスしています。ぬれマスク(イラスト)も有効です。
 噛むと唾液の分泌が促され、口腔の乾燥が予防されます。左右の奥歯を均等に使って1口最低30回は噛む習慣をつけましょう。
 なお、顎を動かすと目のまわりの神経に刺激が伝わるため、まばたきの不足でおこるドライアイの改善にも効果があります。

ストレス↓自律神経の失調↓

交感神経の亢進↓乾燥を促進 ストレスがかかると自律神経の交感神経が緊張状態になり、副交感神経が司っている涙や唾液の分泌が抑えられ、血流も阻害され、乾燥を促進します。
 自律神経のバランスを整え、交感神経の緊張を鎮めて副交感神経を優位にするには、趣味やスポーツなどで自分なりの上手なストレス解消法をみつけ、よく笑うことを心がけましょう。そして、何事もプラス思考で考え、ゆったりとした気持ちをもつことが肝心です。
 新潟大学の安保徹先生と福田医院の福田稔先生による「福田―安保理論」による自律神経免疫療法をもとに編み出された「爪もみ療法」も自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。
室内の乾燥を防ぐ 暖房・冷房共に乾燥の原因になります。特に冬場はエアコン、電気ごたつ、ホットカーペットなど、特に電気による暖房器具の使いすぎには注意しましょう。室温は19〜20度、夜は約17度、湿度は50〜55%が理想的です。
 電気毛布は体の水分を奪うので、寝具を十分に温めたあとはスイッチは切るか、湯たんぽをすすめます。特に老人の方は湯たんぽ(面倒なら電気アンカを弱に)など足先の暖房がすすめられます。
 部屋の湿度を保つには、加湿器を利用する場合は、室温に合わせてウイルスの繁殖を抑えるのに最適な湿度を選べるタイプや、肌の水分吸収を2倍以上に高めるタイプ、湿ったフィルターにかびが生えるのを防ぐため、抗菌加工を施したタイプも開発されています。また、室内に濡れタオルを干すのも役立ちます。ただし、雑菌が繁殖しやすくなるので、換気が大切です。

洗 浄

〈洗い方〉
 皮膚の健全な生理機能を保つには肌を清潔に保つことが大事ですが、皮脂膜を除去するお湯や、ゴシゴシと強く肌をこすったり、アカ擦りなどは厳禁です。
〈洗浄剤〉
 皮膚のバリアとなる角質を破壊する合成界面活性剤入りのシャンプーやボディーソープの使用は避け、香料や添加物を一切使用していない無添加の石鹸が一番です。肌を濡らしてから、十分に泡立てて洗います。
 食器洗いも合成界面活性剤入りの洗剤は避け、洗剤不要のスポンジや、弱酸性の台所洗剤を。ゴム手袋はムレて角質にダメージを与えるので、使用する場合は薄い木綿の手袋の上に使用します。
〈入浴〉
 半身浴や蒸気浴(ミストサウナ)は血行を良くしたり、リラックス効果があるだけでなく、汗をかいて皮膚の角質層に水分を行き渡らせるのにも効果的です。
 シャワーしか浴びない人は汗をかきにくく、皮膚が乾燥しやすくなります。
〈洗った後のケア〉
 洗い落とされた皮脂膜は自然に回復してきますが、この力が弱まっている人は、尿素入り軟膏や、美肌水(イラスト)、酸化しにくいホホバ油などを適量ぬるといいでしょう。尿素には空気中や体の中から送られてくる水分を角質層で取り込む保湿作用があります。ただし、空気中のダニのカスなどが皮膚に入り込むのを促進する可能性もあるので、アトピーの人は慎重に使用すべきです。皮膚の薄い乳児や高齢者は、尿素の濃度があまり高くないものを選びましょう。

うがいの励行

 起床、外出後、寝る前、薄い塩水で目・鼻・喉のうがいを励行するのも大事です(イラスト)。
衣類の工夫
 最近は保湿性と発汗性を兼ねた肌に優しい合成繊維のものもありますが、できれば肌着は、皮膚への刺激が強い合成繊維は避け、冬は保温性と換気性を兼ね備えた絹、オーガニックコットン、ウールなど天然繊維を選びます。
 皮膚がこすれないよう、ゆったりとしたものを身につけることも大切です。
コンピューター作業 ドライアイには、コンピュータ作業の環境を整えることが第一です(イラスト)。長時間コンピュータを使うときは30分に一度は目を休め、目薬をさす場合は、防腐剤や血管収縮剤が無添加のものを選びましょう。
シェーグレン症候群対策 免疫の正常化をはかることが肝心です。西原研究所の西原克成先生は、免疫系にダメージを与える生活習慣として、口呼吸や片噛みと共に、間違った寝相・短時間睡眠などをあげています。腹式の鼻呼吸、両側の歯で一口30回の咀嚼といった注意に加え、仰向け寝の8〜9時間睡眠を心がけましょう。
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◎参考文献
・『自然食ニュース』267号(96・3)、永田良隆先生インタビュー
・『自然食ニュース』320号(00・8)、奥山治美先生インタビュー
・『自然食ニュース』329号(01・5)、西原克成先生インタビュー
・『自然食ニュース』336号(01・12)、福田稔先生インタビュー
・『乾燥するカラダ』
坪田一男著、宝島社刊
・他