膠原病・

――自己免疫疾患がおこるしくみ――

 「膠原病」は、皮膚や関節など、全身の結合組織(膠原線維)に炎症がおきる病気で、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症など、8種があります。
 原因不明の自己免疫疾患といわれ、根本的な治療法がまだ確立されていないところから、その多くが国の特定疾患(難病)に認定されています。しかし、最新の免疫学の研究で発病のしくみも少しずつ明らかになり、予防・改善にも光が見えてきました。 膠原病とは 膠原病は、
・全身の膠原線維(コラーゲン)に炎症がおこる「結合組織疾患」
・骨や関節、筋肉に痛みやこわばりを来す「リウマチ性疾患」
・自分自身の体の成分に対して免疫反応をおこす「自己免疫疾患」
――という3つの特徴を併せもつ病気の総称です。
 膠原線維は細胞と細胞をつなぐ結合組織の成分で、皮膚・関節・筋肉・血管・臓器等に分布してその構造を支えています。そのため、免疫系の攻撃によって膠原線維が冒されると、皮膚や関節、筋肉など、全身に様々な症状がおこってきます。

〈慢性関節リウマチ〉

 関節の変形、腫れ、起床時のこわばり等が左右対称にあらわれます。進行すると関節が破壊され、その機能が失われてしまいます。
 膠原病の中で最も患者数が多く(約100万人)、40歳前後の女性に多発します。

〈全身性エリテマトーデス〉

 発熱、関節痛、皮膚の紅斑等があらわれ、特に、両頬に蝶が羽を広げたような形の蝶形紅斑が特徴的です。発疹等の皮膚症状は日光に当たると出やすくなります。
 腎臓障害(ネフローゼ症候群)をはじめ内臓にも障害がおこりやすく、また、うつなどの精神症状がみられることもあります。
 リウマチに次いで患者数が多く(約4万6千人)、20〜30歳代の若い女性に多発します。

〈強皮症〉

 皮膚や内臓の膠原線維が硬くなる病気で、寒冷にさらされた時などに手指の先が白や紫に変色するレイノー症から始まります。手指の腫れやむくみ、皮膚の硬化の他、傷が治りにくく、壊死・潰瘍をおこしやすい状態になります。
 食道、腸、肺、腎臓などが冒されると、逆流性食道炎、便秘、下痢、咳、高血圧などをおこします。
 中年女性に多発します。

〈多発性筋炎、皮膚筋炎〉

 全身の筋肉に炎症がおこる病気で、階段の上り下りや、物を持ち上げる、立ち上がるなどの動作が困難になります。上瞼や関節部に紅斑が出る場合は「皮膚筋炎」、紅斑がない場合は「多発性筋炎」と診断されます。
 子供と40歳以上の中高年女性に多く、中高年の皮膚筋炎では乳がんや胃がん、肺がんなどを合併しやすいので要注意です。

〈結節性多発動脈炎〉

 中〜細い動脈壁に炎症がおこって血流が悪くなる結果、末梢神経障害や腎臓障害などをおこします。発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状もみられます。
 中年男性にやや多い病気です。

〈シェーグレン症候群〉

 唾液腺や涙腺などの外分泌器官が冒されて唾液や涙が出にくくなり、食物を飲み込みにくくなったり、目が乾燥して痛んだりします。
 患者の9割は女性で、40歳代に発病のピークがあります。

〈混合性結合組織病〉

 全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎(皮膚筋炎)など、いくつかの膠原病の症状が混合しているものをいいます。
 20〜30歳代の女性に多くみられます。

〈リウマチ熱〉

 「A群β溶血性連鎖球菌」の感染でおこり、咽頭炎、発熱、移動性の関節炎、心臓障害(弁膜症・心筋炎)などがあらわれます。
 15歳以下の発症が多いのですが、学童期の検診で予防できるので患者数は減少傾向にあります。
 膠原病の中で唯一原因が分かっているため、リウマチ熱を膠原病に含めない考え方もあります。 自己免疫疾患とは 自己免疫疾患は、本来ならウイルスや細菌などの異物から生体を守るはずの免疫が、自分自身の体を攻撃してしまう病気です。
 膠原病患者の血液中には、自分の体の成分に対する自己抗体が多く存在し、また、リンパ球も直接自分の細胞や組織を攻撃すると考えられています。
 自己抗体をつくりやすい体質は遺伝することが分かっており、この素因をもつ人に、感染、過労、妊娠・出産、外傷、日光――等、何らかの誘因が加わると膠原病の発症につながるといわれます。
 自己免疫疾患はこれまで、原因不明で治療困難な病気とされてきましたが、最新の研究で発症のしくみも少しずつ明らかになり、解決への糸口が見えてきました。自律神経の
アンバランスが引き金に 胸腺外分化T細胞の役割 免疫系には、自分自身を攻撃するリンパ球(自己反応性T細胞)を胸腺で排除するシステムが備わっており、自己免疫疾患では従来、胸腺で排除しきれなかったT細胞が悪さをすると考えられていました。
 しかし、今月号巻頭インタビューに御登場いただいた新潟大学医学部の安保徹教授は、
「自己反応性T細胞の出現は、胸腺での排除の失敗によるものではなく、胸腺外分化T細胞の過剰活性の結果である」とし、
「自己免疫疾患は、顆粒球と古いタイプのリンパ球(胸腺外分化T細胞やNK細胞など)が交互に生体組織を攻撃する病気」と説明しています。
 胸腺外分化T細胞には次のような特徴があります。
・胸腺以外の場所で分化する
 T細胞は胸腺でのみ分化するものと考えられていましたが、90年に安保先生が肝臓で独自に分化するT細胞を発見され、この他にも、腸管や子宮粘膜などで分化するT細胞がみつかっています。
 この発見によって、リンパ球が「NK細胞↓胸腺外分化T細胞↓胸腺由来T細胞」の順に進化したことが明らかになりました。
・交感神経優位時に働く
 古いタイプのリンパ球であるNK細胞と胸腺外分化T細胞は、顆粒球と同じようにアドレナリンレセプターを持ち、アドレナリンが分泌される自律神経の交感神経優位時に働きます。
・自己反応性がある
 胸腺外分化T細胞には自己反応性(自己応答性)があり、自爆死したり細菌感染でやられたような異常な自己細胞を除去する役割を果たしていると考えられます。 交感神経の緊張が続くと危険 老化、感染症、ストレス、妊娠、発がんなどは、いずれも自律神経の交感神経優位の状態にあり、胸腺が萎縮して通常の免疫システムが抑制されます。その代わり、胸腺外分化T細胞やNK細胞の活性化が認められ、これは、ウイルスやストレスによって生じる異常な自己細胞を速やかに排除するための、生体にとって有利な反応と考えられます。
 しかし、交感神経の緊張状態が続くと、その自己反応性がむしろ生体に不利に働くようになり、さらに、顆粒球の増加による活性酸素の放出と相まって、自己免疫疾患の発症を招くと安保先生は指摘しています。
 実際、膠原病の発症前に風邪の症状や過労、精神的ストレスがあったという患者は多くみられます。また、慢性関節リウマチ患者の末梢血ではリンパ球の減少と共に顆粒球の増加が認められ、関節液中の炎症細胞も95%以上が顆粒球で、残り5%も胸腺外分化T細胞が大部分を占めることが確認されています。
 つまり、"交感神経を緊張させる因子を避け、副交感神経優位の状態にすること"が、自己免疫疾患解決の鍵となるわけです。

膠原病患者はNKT細胞が少ない

 なお、胸腺外分化T細胞の中にはNKマーカー陽性のものがあり、これはNKT細胞と呼ばれています。
 膠原病患者の血液中にはNKT細胞が少ないことから、NKT細胞は自己免疫疾患の抑制に働くのではないかと注目されていますが(図)、NKT細胞も自己反応性をもつので、ある場面では自己免疫疾患の促進因子になる可能性があると、安保先生は指摘しています。

間違った体の使い方が免疫病を招く

・口呼吸
 本誌連載中の日本免疫病治療研究会会長の西原克成先生は、間違った体の使い方、特に口呼吸が免疫病の最大の危険因子だと警告しています(表)。
 鼻呼吸には粘液で細菌をとらえたり空気を加湿する役割がありますが、口呼吸をしているとこの鼻の機能が低下し、鼻と喉の奥にある白血球をつくる扁桃リンパ輪が乾燥して、そこにバイ菌やウイルスがはびこりやすくなります。
 免疫力とは「白血球による消化力」のことですが、扁桃リンパ輪に多くの細菌が巣くうようになると白血球の中に消化しきれないバイ菌が入り込み、バイ菌の遺伝子と白血球の遺伝子との複合作用で、本来の白血球の核酸とは少し性質の違う細胞ができます。
 すると、これを抗原とする抗体、つまり自分自身に対する自己抗体がつくられ、自己免疫疾患を引き起こすと考えられます(表※)。
・寝相・短時間睡眠
 骨髄には免疫の要の造血の場があるので、横向き寝や俯せ寝で背骨が曲がるとさらに免疫病になりやすくなります。
 しかも、人間は立っているときは体を支えることにエネルギーが使われ、仰向け寝で骨休め(休養)しているときだけ骨髄で造血が行われるので、3〜4時間の短時間睡眠では白血球が十分につくられず、バイ菌を消化するどころか逆にバイ菌をうつされて、骨髄や全身の関節頭の白血球造血巣にバイ菌が蔓延してしまいます。
 骨は単なる骨格ではなくエネルギー物質でできているので、細胞レベルのエネルギー代謝が障害される免疫病では、主として骨や軟骨、その基であるコラーゲンが冒されるのだと、西原先生は説明しています。
 そこで、自己免疫疾患の予防・改善には、"免疫系にダメージを与える生活習慣の見直し"が重要になります。
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 難病とされる自己免疫疾患も、発症のしくみを正しく理解することで予防・改善への道が見えてきます。
 今回ご紹介した最新の免疫学の研究をもとに、次回は食事・栄養や生活習慣の改善などから、膠原病対策を考えてみたいと思います。