腎臓病・

――食事・栄養療法――

 前回お話ししたように、糖尿病や高血圧など生活習慣病に伴う腎臓病が増えていること、腎炎の一因にアレルギーのような免疫反応の異常が指摘されていることなどから、腎臓病の改善と進行の予防には食事療法がとても重要になります。
 また、腎臓に障害があると体内の微量栄養素のバランスを崩しやすく、それがまた病気の悪化につながるので、微量栄養素をきちんと補う必要があります。

食事療法
||低蛋白・低脂肪・低塩分||
蛋白質は植物性を中心に

 低蛋白になりやすいネフローゼ症候群は、以前は高蛋白食がすすめられていましたが、蛋白質が分解されてできる窒素系老廃物(尿素、尿酸、クレアチニンなど)が増え、かえって腎臓に排泄の負担がかかることから、現在は1日0・6g/kg体重程度の低蛋白食がすすめられています(図1)。
 蛋白源は、卵・牛乳・肉などの動物性蛋白質より、穀類・豆類などの植物性蛋白質の方が腎臓へのダメージが少ないといわれます。動物実験では、牛乳蛋白のカゼインを大豆蛋白に置き換えると慢性腎炎の進行が緩やかになると報告されています。
 植物性食品は食物繊維が豊富なので、少量で満腹感が得られるというメリットもあります。
 また、動物性高蛋白食はリンが多く、リンのとり過ぎは腎臓へのカルシウム沈着を招いて腎障害を進行させます。植物性低蛋白食はリンの抑制にもつながります。
 リンは食品添加物としてハム・ソーセージやかまぼこ、清涼飲料水などにも広く用いられているので、こうした加工食品の摂取にも注意が必要です(表1)。

n―6系とn―3系の脂肪酸のバランスが鍵

 高脂血症も腎臓病の進行を早める一因です。脂肪の摂取量は全体的に抑えましょう。
 油のとり方では、紅花油などの植物油に多いリノール酸(n―6)系列と、シソ油や亜麻仁油、魚油などに多いα―リノレン酸(n―3)系列の脂肪酸のバランスも大切です。
 n―6系列の脂肪酸のとり過ぎは、腎臓病の発症・悪化につながる高血圧や動脈硬化、アレルギーなどを招き、一方、n―3系列の脂肪酸にはそれを抑える働きがあります。n―6系とn―3系の摂取比率は、2対1〜1対1が理想的です。
 動物実験では、魚油のEPA(エイコサペンタエン酸)が腎臓の炎症を軽減させ、腎臓の保護に働くことが報告されています。
ナトリウム過剰は、むくみ・高血圧のもと
 腎臓病では塩分(ナトリウム)を1日6〜7gに制限するよう指導されます。これは、腎機能が衰えるとナトリウムの排泄が低下し、むくみや高血圧がおこってくるためです。高血圧は腎臓に負担をかけ、加速度的に腎機能を低下させてしまいます。
 塩分を上手に減らすには、次のようなポイントがあります。
・漬け物や佃煮などの高塩分食を制限。麺類の汁は残す。
・食品添加物としてナトリウムが多用されているインスタント食品・加工食品も避ける。
・調味料は、減塩・無塩のものを。煮物や汁物は、煮ている間に水分が蒸発して味が濃くなるので、出来上がり直前に味を調える。
・昆布、鰹節、キノコ類などでだしをとり、天然のうまみを活用。
・柚やレモンの絞り汁、お酢の酸味や、カレー粉、わさび、しょうがなどの香辛料を利用すると、薄味でもおいしく食べられる。
 なお、ナトリウム同様、腎臓病ではカリウムの排泄能力も低下するので、カリウム制限が必要になります。カリウムは、野菜類、果物類、豆類、芋類、海藻類など、植物性食品に多く含まれていますが、流水にさらすだけでも減少し、ゆでこぼすことで効率よく減らすことができます(表2)。
 水分のとり方は 水分が不足して血液が濃くなると、血液を濾過する腎臓に大きな負担がかかります。高齢者は特に水分不足が心配されます。
 一方、尿量が極端に減少している場合や、むくみが出ているときは、逆に水分制限が必要になります。

栄養療法

 腎臓病で体液のミネラル濃度の調整がうまくいかなくなると人工透析が行われますが、透析を受けている人は、
・腎臓からの排泄能力の低下
・透析液や透析器具からの汚染
・腸管からの吸収力の低下
・食事制限――などで微量元素の異常をおこしやすく、それがまた健康障害を招く恐れがあると、東京医科大学の中尾俊之先生は指摘しています(『自然食ニュース』272号参照)。
 腎臓病では次のような微量栄養素が重要です。
〈亜鉛・セレンの確保〉
 透析患者は亜鉛やセレンの不足傾向があることが明らかになっています(図2・3)。
 亜鉛もセレンも免疫や抗酸化能力に関わるミネラルです。不足すると膀胱炎や腎盂炎などの尿路感染症にかかりやすくなったり、糸球体を形成する毛細血管に動脈硬化をおこす恐れがあります。十分な摂取を心がけましょう。
〈カルシウムの確保〉
 カルシウムの吸収を助けるホルモンは腎臓でつくられるので、腎臓病ではカルシウムも不足しやすいミネラルの一つです。
〈炎症を鎮める〉
 腎臓でおきている炎症を鎮めるには、抗酸化ビタミン(ビタミンC、E、ベータカロチンなど)や、抗酸化酵素を活性化させるミネラル(セレン、亜鉛、銅、マンガン、鉄など)、植物性抗酸化物質(ポリフェノールなど)を総合的にとることが大事です。
〈血管を強くする〉
 腎臓の糸球体は、全身の毛細血管の中でも最もデリケートです。ビタミンCや、ビタミンPと呼ばれるフラボノイド化合物(柑橘類の皮に多いヘスペリジン、そばに含まれるルチンなど)には、血管を強くする作用があります。
〈有害物質の解毒〉
 腎臓に障害があると、食品添加物、残留農薬、有害金属、環境汚染物質などの排泄がうまくいかず、有害物質が体内にたまりやすくなります。
 30年前には、透析液に混入していたアルミニウムが原因で、透析患者に痴呆を伴うアルミニウム脳症(透析脳症)が発生。最近も、胃薬の制酸剤に含まれるアルミニウムで、透析患者が痴呆になった例が報告されています。腎臓病の人は有害物質の摂取に特に注意が必要です。
 有害物質の毒性を減らし、排泄を促すには、セレン、亜鉛、マグネシウム、ビタミンC、食物繊維などが役立ちます。
 日常生活の注意・呼吸法 急性腎炎は扁桃炎などの感染症がきっかけで発症することが多く、一方、慢性腎炎の発症には免疫異常があるといわれています。また、風邪・扁桃炎などの感染症は腎臓の機能を悪化させるもとにもなります。
 免疫異常を招き、感染症にかかりやすくなる原因の一つとして、東大医学部口腔外科の西原克成先生は"口呼吸"の危険性を指摘しています。口呼吸をしていると、喉と鼻の奥(鼻咽腔)にある白血球をつくる扁桃リンパ輪が乾燥してウイルスや菌がはびこり、白血球がそれをとり込んで全身に運ぶ結果、さまざまな免疫病が引き起こされると説明しています。
 口呼吸のクセをなくし、"鼻呼吸"に直す方法としては、市販のマスクを濡らし、鼻をおおう部分だけ外側に折り曲げた「濡れマスク」をつけて寝るのがおすすめです。口呼吸が制限されて自然に鼻呼吸になると共に、喉の周辺の扁桃群が乾燥から守られます。
・過労 疲労の積み重ねは腎臓に大きな負担をかけます。十分に休養をとり、無理をしない生活を心がけましょう。
・運動 腎臓が悪い人は発汗・脱水に伴って腎機能が低下しやすいので、大量に汗をかくような激しいスポーツや炎天下での運動は禁物です。体力維持や気分転換にはウォーキングなどの軽めの運動を。
・冷え 冷えは腎臓の大敵です。体を冷やさないよう心がけ、夏場でも過剰冷房や乾燥などに注意しましょう。