目のトラブル・ 高齢者に多い目の病気

 年をとるにつれ、新聞の文字が読みにくくなったり、針に糸を通しづらくなるなど、老眼が始まる人が増えてきますが、それとはまた別に、老化にともなう目の病気も徐々に忍び寄ってきます。
 さらに、こうした目の病気だけでなく、パソコンやテレビゲームなどの普及で目を酷使しがちな現代人は、大人から子供まで、さまざまな目のトラブルに悩まされています。
 今月はまず、高齢者におこりやすい目の病気からお話しします。

老人性の目の病気

 目の構造はよくカメラにたとえられます(図)。
 レンズにあたるのが「水晶体」で、外から入ってきた光を屈折させて、「網膜」のフィルムに像を結び、その刺激が「視神経」を通って脳に伝わることで、私たちはものを見ることができるのです。
 年をとるにつれ、こうした目の機能が老化すると、ものを見るのにいろいろと支障が生じてきます。高齢化に伴い、目の病気を患う人の数は年々増えており、代表的なものとしては次のようなものがあります。

〈老人性白内障〉
――高齢者に最も多く、80歳では9割近く――

 白内障は、透明な水晶体が白く濁ってしまう病気です。
 水晶体は目の表面近くにある器官なので、酸素や光にさらされて活性酸素が発生しやすく、年をとると活性酸素を消去する力が弱まってしまうために、水晶体の蛋白質が酸化・変性しやすくなってしまうのです。
 かすみ目、明るいところでまぶしくて見にくい、照明がついていても室内が暗く感じる――等が主な症状です。

〈加齢黄斑変性症〉
――欧米では成人後失明のトップ日本でも急増中――

 黄斑変性症は、網膜の中心にあって、ものを見る働きの中心的な役割を担っている黄斑部の異常でおこります。
 網膜に酸素や栄養を送っている血管が障害を受けると、それを補おうとして急ごしらえのもろい新生血管が発生し、本来は血管のない黄斑部まで伸びてきて悪さをするのが原因です。
 網膜の栄養不足で黄斑部が萎縮・変性するタイプもありますが、日本で圧倒的に多いのは前者です。
 直線が歪んで見える、視野の中心部がぼやける――等が特徴的な症状です。

〈緑内障〉
――40歳以上の30人に1人、約250万人――

 眼球内部の圧力(眼圧)が高くなって視神経が圧迫される病気です。眼圧が正常値でも視神経が弱いと緑内障になることがあり、日本人の大部分はこのような「正常眼圧緑内障」だといわれます。
 疲れ目、電灯のまわりに虹の輪が見える、視野の一部が欠ける――等が主な症状ですが、初期にはほとんど自覚症状がなく、放っておくと失明してしまいます。
糖尿病や高血圧も引き金に これらの目の病気はいずれも老化が最大の引き金になりますが、さらに促進する要因として、糖
尿病や高血圧、高脂血症などがあります。こうした病気のある人は、活性酸素の害を受けやすく、血管障害もおこしやすいからです。
 つまり、目の病気を患う人が増えている背景には、高齢化とともに、生活習慣病の増加が大きく影響しているのです。
 老化に伴う目の病気だけでなく、糖尿病や高血圧が原因でおこる眼底出血(網膜の動脈・静脈の出血)など、目の合併症もおこしやすくなってしまいます。

〈糖尿病網膜症〉
――年間約3千人が失明し、成人後失明の原因のトップ――

 糖尿病では全身の血管に障害がおこりますが、中でも特にデリケートにできている網膜の毛細血管は障害を受けやすく、糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の一つに数えられています。
 初期にはほとんど自覚症状はありませんが、網膜の血管障害がひどくなると、それを補おうとして新生血管が出現し、増殖した新生血管にひっぱられて網膜が引きはがされると(網膜剥離)、失明に至ります。
〈網膜静脈閉塞症〉
――眼底出血の中では最も頻度が高い――
 網膜の静脈に血栓がつまって出血する病気で、高血圧が引き金になるといわれます。
 自覚症状はほとんどありませんが、網膜の一番太い静脈から出血すると(網膜中心静脈閉塞症)、眼底全体に出血が広がり、急に視力が低下してしまいます。

食事・栄養療法

 このように、目の病気には全身の健康状態が深くかかわってきますが、病院では点眼薬やレーザー照射、手術など、局所的な治療が行われるのが一般的です。
 ここでは食事・栄養面から、全身の健康と目を守るための方法を考えてみましょう。

欧米型の食生活から昔ながらの和食へ

 肉、卵、牛乳、油、白砂糖などに代表される欧米型の高脂肪・高蛋白食は、肥満や糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病を招き、その結果、目にも悪影響を及ぼします。
 特に、牛乳・ヨーグルト・乳製品は白内障の引き金になる危険性があります。牛乳などに含まれる乳糖(ラクトース)が分解されるとガラクトースができますが、これがうまく代謝できない日本人は、吸収されたガラクトースが水晶体で悪さをして白内障をおこすもとになるのです。
 三度の食事は、麦・雑穀ご飯(麦2〜5割に、米は二分搗米か発芽玄米)を主食に、納豆、具沢山の味噌汁を組み合わせた伝統的な和食が基本です。
 お米と大豆の組み合わせはアミノ酸スコアが高く、良質の蛋白源となるので、網膜の毛細血管を丈夫にするのにも役立ちます。
 野菜・魚を多く食べる民族には緑内障が少ないという報告もあります。
 なお、緑内障の人は、コーヒーや茶に含まれるカフェインに眼圧を高める作用があるといわれるので、避けた方が良いでしょう。

目の健康に役立つ微量栄養素

 さらに、目の健康には次のような微量栄養素が役立ちます。
●活性酸素を消去
 活性酸素の暴発を防ぐには、抗酸化ビタミンのB、C、E、ベータ・カロチンや、SODなどの抗酸化酵素を活性化させるミネラルの亜鉛、銅、マンガン、鉄、セレニウム、さらに、ポリフェノールなどの植物性抗酸化成分をしっかりとることが大事です。
 中でも、ビタミンCは水晶体の中で濃縮され、酸化から水晶体を守るので、白内障の予防に役立ちます。
●血管を強くする
 網膜の毛細血管を丈夫にするには、野菜や果物に多いビタミンCや、柑橘類の皮に多いヘスペリジン、ルチンなどのフラボノイド化合物が役立ちます。
 ビタミンE、マグネシウムも、血管を強くするのを助けます。
●網膜のキーミネラルは亜鉛
 亜鉛は目に多いミネラルで、中でも網膜に多く含まれ、網膜の働きに重要な役割を果たしていると考えられています。
 糖尿病の人は、健康な人の2倍も亜鉛が尿中に排泄されてしまう上、食事制限による亜鉛の摂取不足で、網膜症をおこしやすくなってしまうのです。
 黄斑変性症の一因にも亜鉛の代謝異常があると考えられ、日本大学医学部の石川弘先生は、亜鉛の経口摂取で黄斑変性症の改善に成果をあげています(表)。
 亜鉛は牡蛎や米、豆類などに含まれていますが、加工食品の多い現代人には不足がちなミネラルです。サプリメント(栄養補助食品)で補う場合は、総合タイプのもので亜鉛も十分量とりましょう。
●緑内障には、
 ビタミンBとルチン
 緑内障には、視神経の働きを高めるビタミンBや、眼圧を下げるといわれるルチンを積極的にとるといいでしょう。ルチンはそばにも多く含まれています。

日常生活の注意

 紫外線からは強力な活性酸素が発生します。獨協医科大学の小原喜隆教授らの調査では、20、30代に1日平均5時間以上の屋外労働の経験がある女性は特に白内障になりやすいことが分かっており、若いうちからの紫外線対策が求められます。日差しの強い季節にはサングラスをかけたり、つばの広い帽子をかぶるなど、紫外線から目を守る工夫をしましょう。
 また、タバコも白内障や黄斑変性症の危険因子の一つです。目の健康だけでなく全身の健康のためにも、ぜひ禁煙を。
 きつくネクタイを締めたり、長時間うつむく姿勢をとると、眼圧が高まるといわれます。あまり神経質になる必要はありませんが、緑内障が心配な人は注意するとよいでしょう。
 日頃から目のチェックを心がけることも大切です。専門医は40歳を過ぎたら目の健康診断をすすめています。ご自分でも、時々片目ずつ、視野が欠けていないか、直線が歪んで見えないか――などをチェックしてみましょう。
 この他、目の健康を保つには休養・リラックスも大切で、これは眼病だけでなく眼精疲労などにも共通していえることです。
 現代人を蝕む眼精疲労など、その他の目のトラブルについては、次号でお伝えします。