糖尿病合併症・ 糖尿病合併症とは

 厚生省が97年秋に行った初の「糖尿病実態調査」によると、糖尿病とみられる人は690万人、40歳以上のほぼ10人に1人が糖尿病で、予備軍も含めると1370万人に達すると推計されています。
 今や"国民病"となった糖尿病ですが、現実には、多くの人が自分が糖尿病であることに気づいていなかったり、そのまま糖尿病を放置してしまっています。
 糖尿病が恐ろしいと言われるのは、全身にさまざまな合併症が引き起こされるためなのですが…。

どのような合併症があるかじわじわと忍び寄る慢性の合併症

 糖尿病の合併症には、急性のものと慢性のものがあります(表)。
 急性の合併症には、急に血糖値が高くなるためにおこるケトアシドーシスや高浸透圧性非ケトン性昏睡などがありますが、その数は少なく、おこりやすいのは何といっても慢性の合併症の方です。
 慢性の合併症(表・図)は、全身の血管や神経が、高血糖などが原因でじわじわと侵される結果おこり、ふつう糖尿病になって10〜20年近くたってから発症します。
 厄介なのは、初期には痛みなどの自覚症状がほとんどないということで、体の異常に気づくころには病気がかなり進んでいる恐れがあります。

毛細血管の障害
|網膜症、腎症、神経障害|

 糖尿病では血管に障害がおこりやすく、血糖値の高い状態が続くと、全身に張り巡らされている細い血管が次第につまったり、もろくなって出血しやすくなってしまいます(細小血管症)。
 特に、人間の体の中で最もデリケートにできているのが目の網膜と腎臓の毛細血管だと言われます。糖尿病網膜症は成人になってからの失明原因の第1位として恐れられており、糖尿病性腎症も新たに人工透析をはじめる原因の第2位を占めています。
 また、神経細胞に栄養が行き届かなくなると、手足のしびれや痛みなどの神経障害がおこります。
 網膜症、腎症、神経障害は、糖尿病合併症の中でも特におこりやすく、糖尿病の三大合併症と言われています。

大血管の障害 |動脈硬化症|

 また、糖尿病では動脈のような大きな血管にも異常がおこりやすく(大血管症)、高血圧や動脈硬化を招きます。こうした太い血管の異常は心筋梗塞や脳梗塞など命とりにつながる大変危険な病気につながります。
 足に動脈硬化(下肢閉塞性動脈硬化症)がおこると、歩く時に痛みでびっこをひくようになりますが、これを放っておくと足の先から腐り始める糖尿病性の壊疽になり、足を切断しなければならなくなる場合もあります。
 なお、壊疽は血管の障害の他、神経障害や感染症がベースになっておこります。感染症も大変おこりやすい合併症の一つです。

合併症がおこる原因は?

 何故、糖尿病ではこうしたさまざまな合併症がおこるのでしょうか。原因は複雑に絡み合っていますが、主に次のような理由が考えられます。
・高血糖
 糖尿病では、細胞の中に入ることのできないブドウ糖(グルコース)が血液中に増えてしまいますが、ブドウ糖はとてもベタベタしていて、まわりのものにくっつきやすいという困った性質を持っています。
 ベタベタしているブドウ糖同士がくっついて固まると血管をつまらせてしまいますし、血液中のコレステロールや中性脂肪にくっつくと、動脈硬化をおこしやすくなってしまいます。
 さらに、万病の元と言われる活性酸素を消去していくのに必要な抗酸化酵素や抗酸化ビタミン・ミネラルにブドウ糖が絡みつくと、活性酸素の被害をくいとめられなくなり、血管壁や神経細胞の細胞膜が傷つけられてしまいます。
 ブドウ糖が体の中でさまざまな組織の蛋白質にくっついて、蛋白質の性質そのものを変化させてしまうことも合併症の一因です。
 糖尿病の合併症を予防するには、血糖値が高くなりすぎないようにコントロールすることが肝心です。
・高インスリン血症
 糖尿病には・型(インスリン依存型)と・型(インスリン非依存型)があり、糖尿病の9割以上を占める・型は、インスリンは必要量出ているにもかかわらず、糖の代謝が異常になってしまうタイプです。境界型と言われる初期にはむしろ、高くなった血糖値を下げるためにインスリンが普通より多く出ている「高インスリン血症」が多いことが分かっています。
 過剰なインスリンには動脈硬化をもたらす作用があるので、"境界型糖尿病"や"糖尿病予備軍"の人は「まだまだ大丈夫」などと油断していてはいけません。動脈硬化はすでに始まっているのです。
・亜鉛・マグネシウムの不足
 糖尿病対策では、食事療法と運動療法が二本柱になりますが、食事療法で単なるカロリー制限に徹すると、体に必要なビタミン・ミネラルも当然不足してしまいます。その上、糖尿病の人の尿には、亜鉛やマグネシウムが健康な人の2倍も捨てられてしまうことが報告されていて、亜鉛・マグネシウムはますます不足していってしまいます。
 実は、この亜鉛・マグネシウムの不足がさまざまな合併症の引き金になるのです。
 食事療法では、亜鉛・マグネシウムを含む微量栄養素をサプリメント(栄養補助食品)で総合的にしっかりとらなければ、合併症の予防にはなりません。
・脂質代謝の異常
 糖の代謝だけでなく、同様に脂質の代謝にも異常がおこりやすくなります。糖尿病ではVLDL(超低比重リポ蛋白)という脂質が増加しやすく、動脈硬化のリスクを高めます。
・血小板の異常
 出血時に自然に血が止まるのは血液中の血小板という成分のお蔭ですが、糖尿病ではこの血小板の働きが異常になり、血液が固まって血のめぐりが悪くなってしまいます。
・ソルビトールの蓄積
 血糖が高い状態が長く続くと、ブドウ糖からつくられるソルビトールという物質が増え、細胞の中にたまります。ソルビトールは細胞内に水を呼び込み、他の重要な成分を追い出してしまうため、細胞が正しく働かなくなってしまい、神経毒性を発揮することが知られています。
 ビタミンCにはソルビトールの合成を防ぎ、分解を促す作用があると報告されています。