アルミニウムの害

アルツハイマー病だけではなく、 子供の神経系にも悪影響

 台所にはアルミ製のやかんやなべ、自動販売機にはアルミ缶飲料、意外なところでは、なすの漬け物に使うみょうばんや胃薬の制酸剤など、私たちの身のまわりには様々な形でアルミニウムが使われ、生活に溶けこんでいます(表)。
 背景には、"アルミニウムは人体には必要ないミネラルだが、とりたてて毒性もない"という考えがあったのですが、近年、アルミニウムのもつ毒性が次々と明らかになってきています。
 私たちはアルミニウムの摂取に対して、あまりにも不用心なのではないでしょうか。

アルミニウムが引き金となる3大疾患

 アルミニウムの毒性が初めて指摘されたのは、1970年代のことです。アルミニウムの混入した透析液を受けた腎不全の患者さんに、痴呆やけいれんを伴う透析脳症が発生したのがきっかけでした。
 その後、飲料水中のアルミニウム濃度が高い地域には、全身の筋力がなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、アルツハイマー型痴呆症が多いことも報告されました。
 いずれの疾患の場合も、患者さんの脳からは健康な人に比べて非常に多くのアルミニウムが検出され、脳の神経細胞が変性していたことが確認されています。
 記憶力が減退したり、老化のスピードアップもアルミニウムの毒性のせいということが次第にわかってきました。
※アルミニウムとアルツハイマー病について本誌では、元東京大学医学部の湯本昌先生らの研究を、226(92・10)号、227(92・11)号、269(96・5)号で取り上げています。

子供の神経・精神系にも悪影響

 このような有害なアルミニウムを、調理器具や食品添加物等を通じて体内に取り込み続けていると、少なからずその被害を受けていることが予想されます。特に子供たちは有害物質の毒性を受けやすく、子供の記憶力・学習能力の低下、集中力がない、落ち着きがない、問題行動などの一因に、アルミニウムの影響が疑われています。
 毛髪分析をすると、注意欠陥・多動障害(ADHD)や自閉症、てんかんなどの子供たちは、アルミニウムや鉛、水銀などの有害金属が高率で検出されています。
 また、米国では犯罪者のアルミニウム濃度が高いことが報告されており、日本の調査でも、非行少年の毛髪中のアルミニウム濃度は普通の少年よりかなり高いことが分かっています(図・岩手大学名誉教授の大沢博先生の研究)。
 先月号の最新微量栄養素情報では、「子供たちがキレる原因には、ジュース類や菓子類の多食が招く"現代型栄養失調"と"低血糖症"がある」という福山市立女子短期大学の鈴木雅子教授のお話を取り上げましたが、ジュースや菓子に合成着色料として含まれるアルミニウムや、中身だけでなく外身のアルミ缶やアルミ箔も、キレる子供をつくる一因となっているようです。
 また、最近の研究によると、早産児に栄養分などを与えるための静脈注射液には製造や保存の過程でアルミニウムが混入してしまうらしく、それによって子供の精神の発達が遅れる可能性が報告されています(米シュライナー小児病院のN・J・ビショップ博士ら)。

アルミニウムの毒性

 それでは、アルミニウムはどのように神経・精神障害を引き起こすのでしょう。
・神経毒性
 脳には脳血液関門という有毒物質が脳に入るのを防ぐ関所があり、本来ならばアルミニウムのような有害金属は脳内には侵入できません。しかし、アルミニウムは血液中で鉄輸送蛋白質のトランスフェリンにくっつき、酸素呼吸のために脳で大量に必要とされる鉄に代わって脳内に侵入して、神経細胞を障害することが確認されています。さしずめ、アルミニウムは偽造パスポートを持った密航者と言えるでしょう。
 さらに、鉄は赤血球のヘモグロビンの構成成分として脳や全身に酸素を運ぶ働きをしているので、アルミニウムが鉄の働きを邪魔して脳が酸素不足になることも、脳が正常に働けなくなる一因と考えられます。
・骨からカルシウムを奪う(脱灰)
 アルミニウムは副甲状腺を刺激し、骨からカルシウムを溶出(脱灰)するパラソルモンというホルモンの分泌を促進します。カルシウムは、緊張・興奮を鎮めて気分をリラックスさせるのに不可欠ですが、骨から溶け出したカルシウムが神経細胞内にたまり過ぎると、イライラや神経過敏の原因になります。
 また、アルミニウムはカルシウムと性質が似ているため、カルシウムの代わりに骨の中に入り込んでしまい、骨軟化症や骨変性症、骨粗鬆症の引き金にもなります。

アルミニウム対策は…

 アルミニウムの毒性を防ぐには、次のような方法が考えられます。
・摂取を避ける
 アルミニウム摂取源を絶つことが第一です(14頁表参照)。調理用具には、鉄分の確保もできる鉄製のものがおすすめです。
 アルミ缶飲料は、砂糖のとり過ぎやアルミニウムの摂取につながるだけでなく、アルミ缶のコーティングに使われているエポキシ系塗料からは、環境ホルモンのビスフェノールAが溶け出すことも分かっています。環境問題の面からも、アルミ缶リサイクルはエネルギーがかかるのでかえって地球環境にマイナスだと言われます。
・排泄を促す
 カルシウムとマグネシウムはアルミニウムと同じ軽金属で、体内での働きは全く違いますが性質はよく似ています。そのため、体内でアルミニウムが過剰になるとカルシウム・マグネシウムは失われてしまいますが、反対にカルシウム・マグネシウムを十分にとれば、体内に蓄積したアルミニウムを排出することができます。
 セレン、亜鉛、銅、ビタミンC、食物繊維も有害金属の排泄に役立ちます。
 また、アルミニウムは尿や汗に排泄されるので、運動や酵素風呂などを利用して発汗を促進するのも良いでしょう。
・毒性を打ち消す
 アルミニウムは脳内に蓄積して神経細胞を過酸化脂質化します。脳細胞の酸化を防ぐには、ベータカロチン、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンE、セレンなどの抗酸化物質をしっかりとることが大切です。

表 アルミニウムの摂取源

・なべ、釜、やかん等の調理器具やアルミホイル(酸や塩分、加熱の条件が加わると溶出率が高まる)
・アルミ缶
・菓子類やレトルト食品の包装に使われるアルミ箔・アルミパック
・ふくらし粉、みょうばん、合成着色料等の食品添加物
・胃薬に含まれる制酸剤
・歯磨き粉の研磨剤
・スポーツ選手や女性が汗を抑えるのに使う制汗剤
・飲料水(土壌中のアルミニウムや水道水の浄化に使用される硫酸アルミニウムが、酸性雨の影響で溶出する)