子供や若い女性達に 不足しがちな鉄

貧血

 血液中の赤血球の数が減少したり、赤血球に含まれる赤色色素のヘモグロビンが不足した状態を貧血と言います。
 ヘモグロビンは全身の細胞に酸素を運ぶ役割を担っているので、貧血になると体内の各臓器や組織が酸欠状態になり、動悸、息切れ、めまい、頭痛、全身倦怠感などの症状があらわれ、顔色が青白くなります。爪の変形や舌炎、口角炎を伴うこともあり、さらには病気に対する抵抗力も低下してしまいます。

鉄欠乏性貧血

 貧血は様々な要因でおこりますが、最も多いのが鉄欠乏性貧血で、貧血患者の7割以上、女性の貧血の9割が鉄不足によるものです。
 赤血球中のヘモグロビンは、ヘムという鉄を含んだ色素とグロビンという蛋白質からできており、体内にある鉄の6〜7割はヘモグロビンを構成する機能鉄として働いています。残りは貯蔵鉄として肝臓や脾臓、骨髄などに貯えられ、機能鉄が不足したときに補う役割を果たしています。
 貧血は、この貯蔵鉄が底をついた時に初めておこります。自分では気づいていなくてもすでに機能鉄は不足して貧血の一歩手前という"潜在性鉄欠乏"の人も多く、思春期の女性では半数近くが貧血予備軍だとも言われます。深刻な貧血の症状をきたす前に対策が必要です。

なぜ鉄が不足するのか

 鉄分不足を招く原因としては、次のようなものがあります。
・摂取不足
 鉄は吸収率が悪く、欠乏しやすいミネラルです。特に若い女性は、無理なダイエットによる食事制限、朝食抜き、外食依存型の食生活の影響で鉄の摂取が少なくなりがち。厚生省の国民栄養調査でも、20〜30代の女性はカルシウムと並んで鉄分が不足している実態が浮き彫りになっています。
・必要量の増加
 乳児期や思春期などの急激な成長期には、血液量の増加や筋肉の発達に伴って鉄の必要量も増加します。また、妊娠・授乳中の女性も、赤ちゃんに鉄分を与えなければならないため、鉄分を多く必要とします。
・過剰な喪失
 月経で毎月血液を失う女性は鉄が不足しがちです。特に、子宮筋腫などのトラブルで月経過多の女性は要注意です。
 また、がんや潰瘍、痔など、出血を伴う疾患がある場合も鉄を失います。貧血の背後には思わぬ病気が潜んでいることもあるので、決して軽視してはいけません。
・吸収不良
 鉄分はしっかり摂取していても、胃酸の分泌がなければ鉄の吸収は悪くなります。そのため、胃腸障害があったり胃を切除した人は貧血になりやすくなります。
 また、コーヒーやお茶に含まれるタンニン、牛乳に多いカルシウムとリン、アスピリンなどの薬剤は鉄の吸収を妨げます。

鉄をしっかり確保しよう

 鉄欠乏性貧血対策としては、原因となる疾患がある場合はその治療が先決ですが、最大のポイントはなんと言っても鉄の摂取です。
 鉄には、レバーなどの動物性食品に含まれるヘム鉄と、ひじきや豆類などの植物性食品に含まれる非ヘム鉄があります。吸収率が高いのはヘム鉄の方ですが、非ヘム鉄もビタミンCと一緒にとると吸収率が高まります。動物性蛋白質の弊害を考えると、植物性食品の方が鉄の理想的な摂取源と言えるでしょう。
 また、ヘモグロビンは鉄と蛋白質で構成されているので、蛋白質が不足していると鉄を補っても貧血は改善されません。良質の蛋白質を十分にとるという意味でも、納豆や豆腐などの大豆製品は優れています。
 なお、調理に昔ながらの鉄鍋や鉄の包丁を用いるのも、鉄分補給に役立ちます。

ビタミンB12、葉酸の欠乏による悪性貧血

 造血ビタミンと言われるビタミンB12や葉酸の欠乏は、悪性貧血を引き起こします。悪性貧血とは、骨髄から健康な赤血球が産生されなくなる病気で、赤血球数が減少したり、酸素運搬能力の低い巨大な赤血球がつくられてしまうことから、貧血の症状があらわれます。
 ビタミンB12は動物性食品に多く含まれているので、厳格な菜食主義者では欠乏しがちです。サプリメントを用いてビタミンB12を摂取することが望まれます。
 また、ビタミンB12が吸収されるには、胃液に含まれる内因子が必要なので、胃液分泌に異常がある人や胃を切除した人はビタミンB12を有効利用できず、悪性貧血をおこす危険性が高くなります。
 一方、葉酸はほうれん草などの緑黄色野菜に豊富に含まれ、野菜不足の食生活では不足しがちになります。また、葉酸は細胞増殖を促進させるのに重要なビタミンなので、妊婦は胎児の成長のために葉酸が消耗されます。
 悪性貧血を改善するには、ビタミンB12と葉酸を一緒にとらなければいけません。

総合的な微量栄養素の確保を

 貧血は、いくつかの栄養素の欠乏が複雑にからみあって生じてきます。鉄、ビタミンB12、葉酸だけでなく、総合的に微量栄養素を確保することが貧血の予防・改善につながります。
・銅 鉄がヘモグロビンの構成成分として利用されるには、銅が不可欠です。
・亜鉛 ヘモグロビンの蛋白質の部分を合成するのを助けます。
・コバルト ビタミンB12の構成成分として不可欠で、悪性貧血の予防に役立ちます。
・ビタミンA 鉄の代謝にかかわり、造血作用を促進します。
・ビタミンB群 骨髄での赤血球産生や胃酸の産生を助ける働きをします。特にビタミンBが不足すると、鉄が十分にとられていてもヘモグロビンをつくることができず、貧血を招きます。
・ビタミンC ビタミンCはヘモグロビンの合成を助けたり、鉄や銅の吸収を促進させます。また、ビタミンCが欠乏すると血管や皮膚がもろくなり、皮下出血、貧血などを伴う壊血病をおこします。
・ビタミンE 抗酸化作用で赤血球膜を酸化の害から守ります。

日常生活での注意

 健康な毎日を送るには適度な運動が欠かせませんが、激しい運動は赤血球の破壊を促進します。また、汗からも鉄が失われます。スポ
ーツ選手や運動部員の人達は、三度三度の食事で必要な栄養素をきちんと確保していないと、赤血球の産生がおいつかなくなるので、特に気をつけなければいけません。
 また、ストレスも微量栄養素を消耗したり、吸収をさまたげる要因になります。十分な睡眠や休息は、貧血対策の基本です。
 貧血は本人に自覚がないまま徐々に進行するので、日頃から献血などで血液の状態をチェックすることも大切です。