うつ病(2)
食事・栄養療法

微量栄養素の欠乏は うつ病を引き起こし、悪化させる

 前回お話ししたように、うつ病の一因には神経伝達系、自律神経系、内分泌系などの異常があり、ビタミン・ミネラルの欠乏やアンバランスが深く関係しています。微量栄養素を消耗させる要因としては、食生活の問題の他、不安や緊張などの精神的ストレス、大気・水質・土壌の汚染、化学物質による汚染、アルコールの大量摂取、薬物の服用――等があります。
 また、うつの症状として精神・身体の活動力が低下し、食欲不振になったり健康状態が悪くなったりすると、体にとって必要な栄養素はさらに欠乏して、うつ病の症状を深刻化させるという悪循環に陥っていきます。この悪循環を断ち切るためには、正しい食事、総合的な微量栄養素の補助が不可欠です。
 今月はうつ病の改善に重要な食事・栄養療法について解説します。

食生活上の注意
ブドウ糖は脳のエネルギー源

 脳細胞ではブドウ糖を唯一のエネルギー源として大量に利用していますが、その材料となる炭水化物は、未精白の穀類やイモ類からとるように心掛けましょう。白米などの精製穀物からは糖を代謝するビタミンB群が取り去られているため、糖が脳で有効利用できないばかりか、体内の他の作用に必要なビタミンB群まで消耗されてしまいます。
 特に、白砂糖は厳禁です。精白糖(白砂糖)は砂糖キビなどの原材料から糖分だけを抽出した、食品よりは化学薬品に近いもので、この糖分の純粋結晶物は、血糖値を急激に上昇させる反動で低血糖症を引き起こし、それに伴ってうつ症状が現れます(図)。

神経伝達物質の材料になるアミノ酸

 また、神経細胞間の刺激を伝達し、感情や思考などに重要な役割を果たす神経伝達物質は、食物中の蛋白質の構成要素であるアミノ酸を原料に、ビタミン・ミネラルの作用によって体内で合成されています。必須アミノ酸は体内では合成できないので食物から適切に摂取する必要がありますが、蛋白質は穀類や豆類などの植物性のものからとるのがベストです。動物性蛋白質にはリンが多く、カルシウムの排泄を促すので、カルシウム不足によるうつ症状がおこる危険性があります。
 必須アミノ酸のトリプトファンからは、精神安定作用のある神経伝達物質セロトニンが、同じく必須アミノ酸のフェニルアラニンからは、精神を高揚させる興奮性の神経伝達物質ドーパミンやノルアドレナリンが生成されます。また、フェニルアラニンから神経伝達物質がつくられる過程で、フェニルアラニンはまずアミノ酸のチロシンに転換されますが、チロシンの補充も気分を快活にさせ、うつ症状の改善に有効であることが示唆されています。
 この他、アミノ酸のグルタミン酸は、脳でブドウ糖の分解を促進して脳機能を活発にするガンマアミノ酪酸(GABA)という神経伝達物質の材料になり、必須アミノ酸のメチオニンは即効性のある抗うつ剤として知られています。

精神・神経系に重要な ビタミン・ミネラル

〈ビタミンB群〉脳細胞ではブドウ糖を唯一のエネルギー源として大量に利用しており、糖の代謝に働くビタミンB群は脳にエネルギーを供給するのに不可欠です。その他にも、うつ病の改善に有効な様々な作用があります(表1)。
〈カルシウム〉99%は骨や歯に貯えられていますが、残りの1%は血液中や筋肉、神経細胞などに存在し、緊張・興奮を鎮めて気分をリラックスさせる働きをしています。しかし、摂取不足や他のミネラルとのアンバランスによってカルシウムが骨から溶け出し、神経細胞内に蓄積されると、イライラや神経過敏が引き起こされます。
 カルシウムを補給するのに牛乳が良いと思っている人がいますが、日本人のほとんどは乳糖不耐症のため、これを上手に吸収することはできず、逆に牛乳にはカルシウムの吸収を妨害し、排泄を促すリンが多いため逆効果になるおそれがあります(表2)。うつを脱し、神経を正常化させるには牛乳は飲むのをやめた方が良いのです。
〈リン〉ビタミンB群同様、糖を代謝して脳で有効利用できるエネルギーを産生します。しかし、リンを多く含む加工食品や牛乳、清涼飲料水、肉などを大量に摂取すると、カルシウムとリンのバランスが崩れ、カルシウム欠乏によるうつ症状を引き起こします。
〈ビタミンD〉カルシウムやリンの吸収を促進したり、血液中のカルシウム濃度を一定に保つ作用があります。
〈マグネシウム〉ビタミンB群とともに、精神・神経系の安定に働きます。また、カルシウム濃度を調節し、カルシウムが細胞内に流れ込みすぎて毒性を発揮するのを防ぎます。
〈マンガン〉ビタミンB群と協力して、糖の代謝に働きます。
〈バナジウム〉インスリン抵抗性を解決し、低血糖症によるうつを予防します。
〈クロム〉インスリン分泌をコントロールし、低血糖症によるうつを予防します。
〈鉄〉ヘモグロビンの構成成分として酸素を運ぶ役割をしており、不足すると脳が酸欠状態になって、気力の落ち込みや集中力、思考力の低下を引き起こします。
〈ビタミンC〉アドレナリンの合成に関与し、副腎の消耗を防いでストレスに強い体をつくります。また、鉛や水銀、カドミウムなどの有害重金属の毒性を抑えたり、鉄の吸収を促進することも、うつ症状の予防・改善につながります。
〈亜鉛〉有害重金属の毒性を抑え、神経障害を緩和します。
〈セレニウム〉有害重金属の排泄を促進します。
〈銅〉有害重金属の毒性を抑え、神経障害を緩和します。また、鉄の吸収を高めたり、ドーパミンの生成にも関与しています。
〈ヨウ素〉甲状腺ホルモンの成分となり、交感神経を刺激して精神活動を活発にします。
〈リチウム〉自律神経の機能に関与し、躁うつ病の治療薬として用いられています。