微量栄養素と健康

自然食ニュースが提唱する 『日本人の食事指針』について
― 味噌、納豆など腸内有用菌を繁殖させる発酵食品を欠かさず摂る。
ヌカミソを 適量水に溶かして飲むのも良い。
低分子物質も積極的に摂りましょう。―

バイオミネラル研究所所長 仙石紘二

発酵食品を欠かさず 摂りましょう。

 私たちは食べ物をいろいろな方法で調理して食べますが、発酵させてから食べるというのもその一つです。地方ごとに郷土色豊かな独特の発酵食品がありますが、これは日本だけに限らず、世界中どこにいっても、どの民族も発酵過程をとおらせた特有の食べもの、飲み物を持っています。
 日本にも、味噌、醤油、漬け物、しおから、納豆、甘酒、日本酒、魚のなれずし、鰹節などいろいろありますね。
 外国では、チーズ、ヨーグルトなどは代表的な乳発酵食品です。ビール、ワインなども勿論発酵させて作っています。パンも作るときいったん発酵をさせますし、紅茶も発酵過程をとおらさせて作ります。
 発酵食品は保存という実用的な要請から生まれたものもありますが、なんといっても人気があるのは特有の美味しさ、風味を持っているからでしょう。
 産地の風土とマッチして、独特の懐かしい郷土の味、民族の味と歴史をつくりだします。
 発酵は、生物素材に麹菌などの微生物を成育させて、その酵素反応を活用して独特の食品をつくることです。
 例えば、味噌は大豆を主原料にして麹菌の酵素で加水分解して、旨味のあるアミノ酸やペプチド(アミノ酸の低分子連合体)を大量につくって仕上げます。蛋白質というのは、もともとがアミノ酸の高分子連合体ですから、上手に分解してやればグルタミン酸とかの美味しさを感じさせるアミノ酸が多量に得られるわけです。
 そして麹菌は蛋白質を分解するだけでなく、多糖類や脂肪類も分解して各種多様の低分子物質、芳香成分が混然一体となったものをつくります。
 発酵は微生物の人為的制御という高度のバイオテクノロジーの実用化です。
 発酵によってどんなものができるか、これは原料、菌種、製法、技術によって千差万別です。発酵過程でできる成分によっては薬理効果を示すものができたとしても、決して不思議でも何でもありません。しかし、多元的な要素で微妙に左右される発酵によって一定の品質のものを作るのは至難の技です。その中でもっともっと有用なものが出来るよう今後の発酵バイオテクノロジーの格段の進歩に期待を寄せていきたいと思います。

発酵で得られるもの

 さて、このように発酵は一口ではいえない複雑さ、面白さをもっていますが、私たちの健康づくりという観点から概括すると次の二点に整理されると思います。
 まず、良い発酵食品を摂ると私たちの腸内菌叢(きんそう)がとても良くなるということです。
 もう一点は体内で各種の酵素活動を活性化させる低分子物質が豊富に摂れるということです。
 食物の消化吸収の働きをしてくれる腸には何と百兆個を越える細菌が棲みついて、その個所ごとに菌叢をつくっています。
 私達の肉体は体重六十キロの人で大体六十兆個の細胞から成立っています。その数を聞いただけでも吃驚なのに、その倍近くもの数の細菌が腸のなかに棲みついており、大便の大半は腸内細菌とその死骸だというのです。
 私たちは六十兆の細胞に栄養を供給するために食事をしているとばっかり思っていたら、それ以上の数の腸内細菌を養うためにせっせと食事を摂っていたというわけです。しかし物は考えようです。その菌叢が百兆もの強い援軍としていつも腹のなかで黙って味方してくれているとしたら、こんなに力強いものはありません。ありがたいことです。
 私たちは生まれて来るときは腸の中は無菌状態で生まれてくるのですが、生後数時間で腸内に各種の菌類が棲みつくようになります。無菌室で無菌食品だけを食べていれば腸内にも菌類はゼロで育ちますし、長寿が可能となります。しかし、現実には人間の場合実験以外には無理です。どうせ入ってくるならば体に良い菌に先に入ってもらいたいものです。
 菌類には私たちを病気にしてしまう有害なものもいますし、逆に有用な働きをしてくれるものもいます。代表的な菌類は十二種族ほどですが、有用菌として知られているのはビフィズス菌、乳酸桿菌、カテナバクテリウムです。この有用菌がしっかりとした菌叢をつくっていれば、各種食中毒菌などが口から入って来ても、腸内で菌どうしの闘いがはじまり、負けることはまずありません。しかし、油断は禁物です。人間と細菌、細菌と細菌のバランスが崩れると劣勢の有害菌が勝って、下痢をしたり、体内まで侵襲されかねません。
 一般的に有用菌の代表格はビフィズス菌とされ、有害菌の代表はウエルシュ菌とされます。両者のバランスは年をとるほどウエルシュ菌の数が増えていきます。
 食生活も両者のバランスにおおいに影響し、一般的に肉食が多くなるにつれ、有害菌は繁殖しやすくなります。逆に良い発酵食品は有用菌の勢力を力づけるのです。
 なお、肉食をすると便秘しがちになりますが、大腸内で滞留時間が長くなるにつれよく噛まなかった肉などは腐敗し、有害分解物がつくられて腸から吸収され肝臓や腎臓を痛める他、血管も痙攣させて脳卒中の原因になったりします。糞便の水分が七十%以下になって硬くなり、排便に苦痛を感じるようになることを便秘といいますが、トイレで脳卒中という例は排便時に血圧があがる便秘に関係していることが多いのです。また、脳卒中の時は何より先に潅腸をするべしといわれるのは、腸内の腐敗物を一刻もはやく排出させたいからです。
 菌類は腸に流れてくる食べ物を次から次へと分解してくれます。これは消化の一部と考えていい位です。菌類は、その一部を摂りながら生活するわけですが、その中で自らもビタミン類などを分泌するので、人間はそれを自分の栄養源として吸収することもあります。
 発酵食品は半ば消化が進行している食品ですから単においしいというだけでなくとても吸収がいいのです。
 ところで最近、健康食品でオリゴ糖入りと書いてあるものが増えていますが、オリゴ糖は腸内のビフィズス菌の勢力を強める餌なのです。ビフィズス菌を摂っても胃酸でやられるケースが多く、どこまでたどり着くか覚束ないのですが、餌を与えればすでに棲みついているビフィズス菌がどんどん増殖してくれるので、このほうが腸内で善良菌をふやすのには効率的です。
 そういう意味では発酵食品を欠かさず摂るということは、有用腸内細菌が棲みやすくなりその数を増やしてくれることにつながります。どの民族も特有の発酵食品、飲み物を持っているということは単に美味しいからという以上に、お腹の調子が良くなる、健康と長寿を得るのにそれが必要だという理由があったに違いありません。
 加工食品が氾濫し、たいがいのものに防腐剤が添加されていますが、これは腸の中でも効いて腸内細菌叢の乱れを招きます。また、抗生物質を口から入れた時はそれ以上に大きな大きな影響をもたらします。肉や卵、養殖魚には抗生物質が残留しているものがあるので生食の時は特に警戒したいものです。(つづく)