微量栄養素と健康
自然食ニュースが提唱する 『日本人の食事指針』について

―主食は未精白穀類―

バイオミネラル研究所所長 仙石紘二

自然食ニュースの 基本的考え方

 いよいよ一九九〇年、二十一世紀に向けてカウントダウンが始まりました。昨年のドラスティックな世界の変わりようを見た後なので、これから十一年の間に何が起こるか、興味深々ですね。去年の天安門事件から東欧諸国までのベター デッド ザン レッド運動(共産主義による圧政下で生きるくらいなら死んだほうがまし)の成行きをみていると、一年の間に五十年分の歴史的内容があったといわれます。しかし、これは偶然ではなく、これからの毎年は一昔前の五十年分もの内容の有る変わり方をしていくということなのでしょう。
 地球の環境汚染は、人口増加の抑制をしないとどうしようもない瀬戸際にさしかかっていますが、開発途上国の産児制限はうまくいかない可能性が高いので、これからは、エイズ、都市スラムでのドラッグ、オゾンホールの影響による短命化、原発事故、独裁政治にまつわる戦争・内戦等などでの大量死で人口爆発に歯止めをかけられるのでしょうか。
 結果として歯止めがかかっても、かけられなくても、どっちみち阿修羅の世界になりそうです。人類が落ち込んでいく渦の先が滅亡の二字でなければ幸いです。まあなんとか破綻が来なかったとして、二十一世紀を迎えるその日に元気でいられるかどうかというのは、お互い一人一人の運の良し悪しと健康づくりの努力にかかっているのではないでしょうか。
 かの水野南北によれば運命の吉凶は日常の食べ物の選択結果によるところ大ということです。いずれにしろ、食べ物や栄養の知識無くしては元気に二十一世紀を迎えることは、ラクダが針の穴を通るより難しいと言わなくてはなりません。本誌を通してお互い学びあおうではありませんか。
 私たちに基本的な考え方は、「自然食ニュースが提唱する日本人の食事指針」に食生活改善の具体的なプランとして提案としてあります。
 今月からしばらくの間、何故こういう指針だと元気で長寿を実現するのにいいのかについてご一緒に考えてみたいと思います。

主食がなく、 主菜が肉の洋食

 まず「主食には未精白の穀物を」とあります。主食という考え方を採ります。洋食には主菜(メーンディッシュ)はあっても、主食というのは無いのです。パンを食べるわけですが、ほんの添え物的感覚です。我々の感覚でいうおかずが幅をきかせて主(メーン)の地位を獲得しているわけです。彼等のおかずの中心は肉です。肉を沢山食べるところが、彼等の健康面での泣き所なのです。肉の一見豊富な蛋白質もアミノ酸バランスはさほど良くないので栄養的価値は多くの人に思われているほどありません。かえって腸の中で腐敗して酸毒をもたらしたり、アレルギーになりやすいという致命的欠
陥を持っています。
 そこに気がつくと欧米人でも菜食にします。工夫すれば、菜食でも栄養は摂れるし、心臓病にしろ、ガンにしろ、かかる確率はグンと下がります。アメリカ人でも宗教の教えで菜食を守っているモルモン教徒やセブンスデーアドベンティストの人たちにはこういう病気は少なく、健康で長寿を実現する人が多いのはよく知られています。
 しかし、多くの西洋人は肉食をしないと食事をした気にならないというのは、小さい頃からの習慣になっているからです。ソースとマッチすると濃厚な味がしておいしいと感じるし(人間は三才頃までになじんだ味を一生美味しいと感じるようです)、噛みごたえもある。蛋白質が豊富で体も暖まるし栄養もある。肉食で育つと体は大きく逞しくなるし、肉食によるホルモン刺激でせずにはいられないセックスでの消耗も、肉食をすると回復が早いというわけで、肉がメーンディッシュになってしまうわけです。

肉食性短絡思考と シェーム運動

 今年新年早々の新聞に、ニューヨークで毛皮のコートを着て歩いている女性に動物愛護を主張する団体のメンバーが「シェーム、シェーム」(恥を知れ)と囃す街頭行動を起こしているという記事がありました。
 毛皮は可愛い動物達の悲鳴と血なくしては得られないから、そんなものを着てシャナリシヤナリと歩くのは恥かしいことだと思えというのです。毛皮コートが恥かしいというからには皮製品はいけません。ワニ皮のバッグなんかとんでもない。勿論ワニのステーキを食べるパリッシュにも「シェーム」と反省を求めましょう。
 そして、理の当然として、ワニに限らず牛のステーキをメーンディシュにしている圧倒的多数のアメリカ人は恥を知らなければならなくなるのではないでしょうか。
 その内、至る所にあるレストラン街でも「シェーム、シェーム」の大合唱が聞えるようになって、そうなると飼料穀物でしこたま儲けているメジャーの差し向けるMIB(メン イン ブラック‖テロリスト)に沈黙させられる日が来ないとも限りませんね。
 ルーマニアのチャウシェスク先生は国の対外債務を一刻も早く返済するため国民の生活水準を、従って肉食を最低限に抑え込むためテロさえ辞せずでしたが、アメリカは国民の肉食反対を最低限に抑込むためテロさえ辞せずという裏返しのルーマニアになる可能性もありそうです。
 アメリカの国民はおおむね陽気でフェアでないことをシェームとする一面、自由と民主主義の国ですが、マフィア、クー・クラックス・クラン、歴代大統領暗殺で知られているように、自分の存在を明白に危うくする相手は有無を言わせず暗殺することも平気という一面も持っています。これは自由と民主主義の公式だけでは説明がつかない今回のパナマの事件とそれにたいするアメリカ国民の支持ぶりをみてもわかります。
 これこそ肉食性短絡思考の結果と衝動だという人もいます。今後、毛皮美人に対する「シェーム」運動がどうなっていくか注意を払っていきたいと思います。
 少し、話しが飛び過ぎました。

主食である無精白 穀類は、食事の半分 以上の量を

 穀物を主食にするとは、食事毎にその半分以上を穀物で摂るということです。穀物は未精白を原則とします。米なら玄米。麦なら玄麦。蒔けば芽が出る穀物が未精白の穀物です。
 あの逞しい競馬の馬には玄米や玄麦などは与えません。その理由は未精白の穀物は高蛋白の濃厚飼料だからです。太ってしまって速く走れなくなるほどの栄養分です。その上、命が宿っているということは、微量栄養素をなに一つ欠けること無くバランス良く持っていることの説明です。そうでなければ、適度の温度と水分などが与えられた時、芽や根を出すわけがないのです。

一物全体主義に 適した穀類

 自然食の原則の一つに、一物全体主義というのがあります。これは命を持つものを丸ごと食べなさいということです。おいしいところだけを部分的に摂ると栄養の偏りがでますよ、というのです。とすると、小粒で丸ごと食べられる未精白穀類は最適ということになります。
 消化器の入口である口の歯は、その動物が歴史的にどんな食物に一番適応してきたかを示していますが、人間の場合、門歯と臼歯からみて、穀物と野菜がこれにあたります。(肉食動物の歯は猫や犬のようにとがった歯ばかりです。)人間は穀物と野菜を食べて生活するのが、生理的に一番合っているということです。
 ところで、一物全体主義は、今はよしとする以外ありませんが、未来まで続く主義とは思えません。動物の命を否定するのがいやだという心を推し進めれば、条件さえ整えば植物の命も殺してしまうのもシェームだ、という心情にならざるをえないからです。
 ずっと先には人間の関心は食と性から離れ、食事は今でいう命には由来しない生きたサプリメントの様なものを、数粒摂取するようになるといわれています。こうなれば、グルメとか一物全体主義というのは野蛮時代の人間のたわごとだったということにもなりかねません。
 それはともかく、動物性食品を避けて、穀物と野菜を中心に栄養を摂ろうとすると、今は微量栄養素を何一つ欠かさず満遍なく持っている穀物の種子を丸ごと主食にするのが現実的なのです。加工して白米や白パンにしては駄目だということです。玄米御飯もまた、肉とは違いますが、蛋白質も豊富で濃厚な味がしますし、噛みごたえもあるではないですか。