寝たきりにならないために!!

史上最悪の糖尿病医師が編み出した「血管若返りの3つの習慣」メタボ数値が劇的改善・寝たきり半減!

長野市国保大岡診療所所長 内場廉先生


「史上最悪の糖尿病医師」自ら範を示し、寝たきりは半減に

 
北アルプスを望む長野県長野市大岡地区は、人口約1200人の半分が65歳以上。高齢化が進んだこの山間の診療所を拠点に、内場廉先生は「寝たきりをなくそう」というユニークな活動を続けています。  2000年に診療所に赴任した最初の5年間だけで、脳卒中などで半身不随になった高齢者は16人。  内場先生は、患者も家族にとっても辛い、「寝たきり」を防ごうと、フォルム(血圧脈波検査装置)による血管機能の無料測定をはじめ、保健師、管理栄養士、健康運動指導士と連帯した生活習慣の改善を推進、その結果、脳卒中で寝たきりにな
る人は激減、その数はほぼ半分になりました。  こうした成果の陰には当時、体重は122kg、HbA1cは11・1%、担当医から「5年生存率50%」と告げられ、「史上最悪の糖尿病患者だった」と語る内場先生が自ら、半年で42 kgもの減量に成功、血管年齢を大幅に引き下げた努力が大きかったようです(写真)。  内場先生が考案された、寝たきりにならないための「血管若返りの3つの習慣」とは、朝起床時の体重測定と血圧測定に、食前野菜療法を組み合わせたもの。  無理なく、楽に、継続できることをモットーに考案されたこの「3つ・br> フ習慣」ではメタボ等の数値が劇的に改善、「日本一の長寿県・長野」の実現にも一役買っています。

血圧、血糖… "ちょっと高め”の放置が    血管をボロボロにする  人間ドック学会の      基準値緩和は!?

──この4月、日本人間ドック学会と健保組合が発表した「新たな健診の基本検査の基準範囲」では、血圧、血糖、脂質等、概ね数値が緩和されています。一般の人は混乱し、従来の専門学会基準値は「病気でない人まで病人にしている」という批判も一部にはあるようですが。
内場 血圧を例にとると、今年、高血圧学会の発表したガイドラインでは、140/90以上を高血圧とし、生活習慣病の改善、減塩、あるいは薬による治療を勧めています。
 これに対し、人間ドック学会は健康と思われる人の上の(収縮期)血圧は88〜147であったと報告しています。147までは大丈夫だと思いがちですが、実はこの基準には「この範囲にいることが将来の健康を保証するものではない」という但し書きがあります。
 血圧が160でも元気な方は大勢います。人間ドック学会の数値は、そうした健康(既往症のない)人を対象にして出した数値であるのに対し、専門学会の基準値は、「久山町研究」や「大迫研究」など、「血圧が高い人がどういう運命になるか」ということを年月かけて丁寧に調べた疫学研究の最近の結果から出した数値です。
 今、医者が予防的に使える薬は骨粗鬆症と血圧の薬だけです。それはなぜか、120を超えた段階から脳卒中や心筋梗塞などの事故が増えるからです。だから、120未満を至適血圧にして、130、140と区切り、140を超えたら高血圧ですよ、血圧を下げましょうということなんです。

「要注意」は本当に、要注意!

内場 脳卒中や心筋梗塞などの血管病は、動脈硬化がベースになっています。
 動脈硬化は日本人の場合、特に脳にダメージを起こしやすく、寝たきり原因トップの脳卒中(中でも脳梗塞)や、認知症などをもたらします(図1)。
 危険因子が重なるほど動脈硬化の発症リスクが高まりますが、脳梗塞では高血圧というたった一つのリスクでも起こる可能性が高く、しかも、上が130、140という「ちょっと高め」の人が多い。
 また、糖尿病予備軍の人は、糖尿病の人と同じくらい、動脈硬化が進みます。糖尿病と予備軍はともに、後の脳梗塞や心筋梗塞の起きやすさに差がないことが、山形県舟形町の研究でわかっています。
 血圧が、血糖が、ちょっと高い、という人は、病気の人と同じくらい、動脈硬化が進んでいると思うべきです。
10年間放置した私の糖尿病

  血糖値が安定した今でも 次々に合併症 ──日本人に多い やせの糖尿病はさらに危ない!

内場 私自身、30歳で高血糖を指摘されても何の不自由も感じなかったために、その後の10年間不規則な生活(4時間睡眠のハードな勤務、好きな物を食べ放題・飲み放題)を続け、腎機能が悪くなるまで放置していました。
 食前野菜療法で血糖値が正常になった後も、今も人工透析は欠かせず、新たな合併症も出ています(図2・表1)。それでも私の場合、欧米人に多い肥満タイプだったのでまだ良かったといえます。
 2型糖尿病は、遺伝因子に環境(生活)因子が加わって、インスリンの分泌低下やインスリン抵抗性が引き起こされて発症します。インスリン抵抗性は環境改善で良くなりますが、日本人の多くは、肥満になる前に発症するインスリン分泌低下で起きます。
 痩せの糖尿病はもともと分泌能力が低下しているので、環境を良くしても血糖コントロールがあまりうまくできない。一方、肥満の人は太るためのホルモン、それが実はインスリンで、インスリンを出せる人は脂肪細胞が余った糖を脂肪として貯えるので、ある程度は血糖が抑えられます。
 肉食で進化し、たっぷりの脂肪細胞に糖を貯えられる欧米人と違い、穀類と芋類を食べて進化した日本人は、インスリンの分泌能力が欧米人の半分から7割くらいしかないところに、この60年間、インスリン分泌能力を超えて、膵臓に鞭打つような、糖質・脂質たっぷりの食生活を送ってきたから、これだけ糖尿病人口が増え(予備軍含め2200万人超)、動脈硬化は進み、寝たきりのリスクは増すばかりなのです。
 糖尿病は、血管ボロボロの
最大の危険因子
 ──初期からの厳格な
    血糖コントロールが鍵
内場 動脈硬化三大危険因子の中でも、最大の危険因子が糖尿病です。血糖が急上昇するだけで血管内側の内皮細胞は傷つきますから、高血糖状態が長く続けば血管はボロボロになってしまいます。
 「UKPDS(英国糖尿病前向き研究)」では、観察期間10年の時点で、インスリンなどを用いた強化療法群は従来療法群と比べて、総死亡や心筋梗塞などのリスクの低下はなく、大血管障害の抑制効果は認められませんでした。しかし、観察期間終了後の10年間の追跡調査では、合併症のない初期から強化療法を行った群は従来療法群に比べ、血糖値には差がないのに、総死亡のリスクが13%、心筋梗塞のリスクが15%も低下していました。
 この現象は、予備軍や境界型と呼ばれる段階から良好な血糖コントロールを保てば、その効果を後まで引き継ぐ「正の遺産効果(Legacy Effect)」をもたらすことを意味しています。
 一方で、放置していると、最終的には組織にAGE(終末糖化産物:血管から糖が浸出し蛋白質と結合してできる)という糖の残りカスのようなものが沈着し、組織を攻撃し、炎症反応を起こします。AGEはなかなか代謝しないので、後でいくら強力に血糖を下げても、体は組織を攻撃し続けるという「負の遺産効果」をもたらします。血糖値が正常になっても、いろいろな合併症を引き起こすことは、私自身が身を以て体験したことです。
 血管若返りの3つの習慣
  血管は若返る!
──「自覚」と「食生活」の変革
内場 血管は年齢に比例して硬くなります(図3)。
 一方で、血管は生活習慣次第で若返ることができます。50歳で食べものを変えただけで、10年後の60歳のときに血管が若返っていたという例はよくあることです。
 私が大岡地区で生活習慣の指導を始めて10年、赴任した2000年から5年間で脳卒中で倒れた人は診療所の患者さんでは16人。「3つの生活習慣」のお願いをするようになった2005年からの5年間で、脳卒中の発症は5人と3分の1に減りました。生活習慣で確実に血管の老化を遅くすることができるということです。
 それにはまず、自覚することが先決であり、重要です。
 健康診断は、病気にかかっていないかを確認するだけではなく、将来の病気を防ぐことも目的の一つなのです(図4参照)。
 また、大岡診療所では来院の度に、フォルム(血圧脈波検査装置)で血管の弾力を測ります。そうすると、自分の体がどう変わってくるかが目でわかり、結果的に中長期で血管が若返っています。
 日常生活では、血圧、体重の変動を記録し、反省し、修正し、自分を病気にしないことです。
 1.毎朝血圧を計る
内場 高血圧の予防改善には、毎朝血圧を計ります。何より、「血圧を高くしないため」に計ります。
 血圧が140を超えていたら、塩分量を減らそうとなります。また、前日よりも血圧が上がっていたら、または下がっていたら、「あれをやったのがまずかった」とか、「よかった」とか、生活習慣のコツがつかめてきます。
 診療所では、「血圧が高いかもしれない」、あるいは「健診で血圧が高めだった」という人に、2週間、早朝血圧を計って記録をつけてもらっただけで、薬を飲まずに、血圧が5〜10 mmHg下がっていく例を何度も見てきました。
 時間帯は、「朝起きて、排尿後」。この時間帯は脳卒中で倒れる人がいちばん多く、この時間帯の血圧が正常に保たれているかどうかが重要です。
 目標は、130を超えない。岩手県大迫町で行われた「大迫研究」では、朝起きて排尿後の上の血圧が135を超える人は、超えていない人より2・86倍の脳卒中などの事故が起こりやすいことがわかりました。
 血圧計は、上腕で計るタイプ。血圧計を使用し、最初の数値は必ずメモすること。
 記録は、カレンダーかノートに書き込む。それだけで意識が変わります。
 2.毎朝体重を計る。
内場 毎日体重を計り、それを記録すると、体重と食生活との関係がダイレクトにわかり、自然と食生活を見直します。
 自然と体重が減り、体重が減るとそれだけ心臓が全身に血液を送る労力が軽くなり、血圧の安定にもつながります。
 時間帯は、血圧と同じ「朝起きて排尿の後」。1日で一番体重が軽い朝は、前日の食事や運動から最も時間がたっており、行動がそのまま数値に出るので言い訳できません。
 血圧計、体重計の傍にはカレンダーとペンを用意。計ったらその場で書き込むのは血圧と同じ。
3."最初に野菜”の「食前野菜食」
 ──内場家では1人、
   1回350g・1日1kg
内場 食事の最初に野菜をたくさん食べる。そうすることで、
・血糖の急上昇を抑える。
 野菜に多い食物繊維により、糖質の吸収が遅くなり、動脈硬化を進行させてしまう血糖値の上昇が抑えられます。
 野菜食で血糖値の上昇が緩やかになれば、膵臓にも負担がかかりません(図5)。
・食べ過ぎを防ぐ。
 満腹中枢が働いて、脳がお腹いっぱいと感じるのに30分かかります。ファストフードだと5分で食べ終わる。物足らない分、デザートか、ラーメンなら餃子とかになってしまいがちです。
・脂質の過剰摂取が抑えられ、
 高血圧・高血糖・悪玉コレステ ロールを抑える。
 糖尿病が増加したのは、単に炭水化物だけが悪者なのではない。大きな原因の一つに、脂質の過剰摂取があります。野菜を増やし、脂質を控えることは、血管の若返り、糖尿病予防には欠かすことのできない大秘策です(図6)。
 私は、塩分の入った調味料は極力使わず、塩分を1日6g未満に抑えるようにしています(日本人の平均塩分摂取量1日11〜12g)が、野菜に多いカリウムは過剰な塩分を排出してくれます。
 我が家の野菜の摂取量は、1回350gを基準に、1日1人1kgを目標にしています。但し、腎臓に不安のある方は、お医者さんとよく相談して下さい。
 野菜を塩分や油に頼らず、たくさん食べるには、色や香りを使う。最低5色の野菜を揃えて、香辛料や酢などを効果的に用い、美味しく食べることが、長続きのコツ。
 メニューの一例では、昼は診療所隣接の自宅で作る「5色彩りタップリ野菜丼」。3分搗米ご飯100gの上に、細かく刻んだ野菜──キュウリ(緑)、ダイコン(白)、大豆の水煮(黄)、新ショウガ(黄)、動物蛋白は干しエビ(赤)とか、魚肉ソーセージ(赤)とか、肉そぼろ(黒)とか、これに、紫蘇や海苔、韓国唐辛子小さじ1杯、ゴマ油小さじ1杯等を混ぜ合わせてのせます。
 そして、長続きの究極のコツは、「5勝2敗の法則」。1週間のうち2日は負けてもOK。大事なことは、負ける予定を生むために勝ち続けること。ご褒美を用意しておくのです。ガチガチに枠をはめず、楽しみながらやる。2敗の日は、サプリメントや野菜ジュースを利用するのも一つの手です。
 最後に、"誰もが知っている”という現象が起こらないと、世の中の常識は変わりません。ですから私はこの「3つの習慣」を本当に流行らせたい。この中で、"「野菜から食べる」が当たり前”は、一般の間に大分浸透してきたのは嬉しいことですね。
 そうして、賢い食習慣を子ども世代に伝える。それが大人の使命だと思っています。