寝たきりにならないための健康作り

──"食事”と"運動”で、メタボ・認知症 ・ロコモを防ごう!

南越谷健身会クリニック院長 周東寛先生

寿命の延びと比例して増える寝たきり人口

 昨年10月発表の総務省「人口推計」では、65歳以上の高齢者人口は2千193万人、総人口の17・3%を占め、そのうち100歳以上の超高齢者は5万1376人(女性が4
万4842人)と1963年の調査開始以来初めて5万人を突破しました(昨年9月、厚生労働省発表)。
 寿命の延びと比例して、寝たきり高齢者の人口も急増。2010年には170万人が、2025年には230万人に達すると推定されています(図1)。
 寝たきり予防の名医として知られる周東寛先生は、寝たきりを防ぐ鍵は、日頃から病気の発症を未病の段階で予防する力「養生力」を高めることにあるといわれます。
 周東先生は、医学生時代から西洋医学、東洋医学、心身医学との連携を目指し、さらに社会面、経済面、心理面などの視点からも疾患を捉え直し、個々人に合った「全人医療」をポリシーに現在、南越谷健身会クリニックの院長として食事や運動、さらにカラオケ指導、最新の検査機器も取り入れて、予防医学にも尽力されています。
 多数の著書を著し最新刊はズバリ、『医者に頼らずに100歳まで寝たきりにならないための健康法』(中経出版刊)を出された周東寛先生に、死ぬまで介護要らずで元気に過ごす生活術をお聞きしました。

 ここに気をつけよう    高齢者の寝たきり
  寝たきりになる原因疾患

周東 「寝たきり」とは、入浴、衣服の着脱、排便、食事、歩行などが自分1人ではできず、寝たままの状態が6ヶ月以上続いている状態をいいます。
 高齢者の場合、寝たきりになる主な原因は脳卒中、認知症、骨折・転倒、関節炎、心臓病など(表1)があげられます。
 さらに高齢者の場合、原因となる疾患が治っても、入院が引き金になって寝たきりになってしまうケースも多くあります。
 例えば、4位の「骨折・転倒」では、脚の付け根の大腿骨頚部骨折の約20%は寝たきりになってしまいます。骨折は治っても、ギプス(Gips)で固定している期間に、@筋肉の萎縮、A関節の拘縮、B骨量減少が進み、その上、内臓機能の低下、精神機能の低下、床ずれなどの合併症などが追い討ちをかけるからです。
 できるだけ早く体を動かし、早期のリハビリを行うことが大切です。

 日頃の食生活と運動が鍵    ──重要なメタボ予防

周東 寝たきり原因の一番は脳卒中、二番が認知症です。
 脳卒中は、肥満、高血圧、動脈硬化、高血糖(糖尿病)、脂質異常症──等いわゆるメタボリックシンドローム(以下メタボ)の危険因子を取り除き、メタボを防ぐ生活習慣が鍵となります(表2)。
 メタボ予防の生活習慣は、日本人の三大死亡原因のガン、心疾患、脳血管疾患の予防になり、さらに認知症の予防にもなります。
 @健康的な食生活、A小まめに体を動かし思考系の脳を鍛え、骨格筋を鍛える運動を1日15分程度でも毎日継続(軽度で可)、Bストレスをためない、ストレスとうまく付き合う生活習慣が鍵になります。

元気で長生き健康レシピ  和食のすすめ ──薄味・多菜・バランスよく

周東 食事の基本は、過食、飽食を慎み、緑黄色野菜、淡色野菜を十分に食べ、穀物、豆類、魚介類などを幅広く摂取し、薄味を心がけ、よく噛むことです(表3)。
 洋食より和食の方が健康的といわれるのは、大豆や野菜、魚など生活習慣病を防ぐ食品が多く、また自然と多くの種類の栄養を摂ることができるからです。但し、和食で気をつけたいのは糖分や塩分の摂りすぎ。あとで述べる細胞の漬け物現象を起こします。塩分を控えて、七味や胡椒などの香辛料、柚子やかぼす、酢などを上手に利用するのが良策です。
 朝はパン食党が多いと思いますが、パンには食塩や油が含まれている上に、バターやマーガリン、ジャムを塗ったり、塩漬けのハムやソーセージと一緒に食べがちです。「朝パン」はなるべく控えます。
 野菜は食物繊維をはじめ、ビタミンやミネラルも豊富です。特に緑黄色野菜はカロテンなどファイトケミカル(植物性抗酸化物質)が豊富なので意識して摂りましょう。
 生野菜は一見ボリュームがありますが、実際に摂れる食物繊維はわずかです。おひたしや煮物などの温野菜で毎食茶碗1杯分を目安に摂りましょう。
 和食には魚介類がつきものです。特に青背魚は認知症を含めて生活習慣病予防に高い効果のある魚油(DHA・EPA)が豊富で、サケは抗酸化物質のアスタキサンチンも豊富です。但し、養殖魚の抗生物質、マグロなど食物連鎖の頂点にいる大型魚は有害金属に要注意です。

 糖化・塩化・油化・酒化による    細胞の「ミイラ化」・       「体サビ」を防ぐ

周東 塩分、糖分、油分、酒を過剰に摂ると体に悪いのは誰でも知っています。ではなぜ悪いのか。
 砂糖も塩も油も酒も過剰摂取すると、ゆっくりと細胞の水分が抜けていき、体の中で漬け物現象を起こし、細胞がミイラのように干からび、細胞の命が止まってしまうからです。
 必要な水分が外に出てしまった細胞は細胞としての機能を失い、「ゴミタンパク」・「ミイラ物質」になり、一刻も早く体外排出しなければいけないものですが、もはやまともな物質ではないので排出もされにくくなり、体の細胞をサビさせる元凶になってしまいます。例えば、血管に沈着して血管も錆びてきます。これが動脈硬化です。
 このように、糖・塩・油・酒の過剰摂取による「漬け物現象」は、細胞活性を障害し、すべての病気の原因になり得るわけです(図2)。

 血流を良くする ──「すったまねぎ」に「夜納豆」

周東 「老化は足から」といわれますが、年をとるとフラついたり転びやすくなります。筋力が低下するだけでなく、血流が悪くなるからです。運動(ゴキブリ体操など)やマッサージに加え、血流を良くする食べ物を心がけます。
 おすすめが「すったまねぎ」。たまねぎに含まれるイオウ化合物やグルタチオン酸が血管内皮細胞を浄化し血流を良くし、酢の血液サラサラ効果との相乗作用で脳梗塞や肥満などを防ぎます。
 スライスしたたまねぎ1個をリンゴ酢や玄米酢(大さじ3)とハチミツ(大さじ5)に3〜5日漬けます(冷蔵庫で2週間保存可能)。たまねぎは水にさらさず、空気に少々さらして置くのがコツ。私の朝食の定番メニューは、「すったまねぎ」に「茹でキャベツ」をのせたものです。
 血液ドロドロで血栓予備軍と指摘された人は納豆がおすすめ。納豆の酵素「ナットウキナーゼ」には血栓溶解作用があり、納豆1パックで必要量が摂れます。
 ナットウキナーゼの血栓溶解作用は体内で約8時間持続します。就寝中は筋肉が動かず血液が固まりやすいので朝より「夜納豆」を。
 香味野菜をプラスした「青シソ納豆」や「刻みトマト納豆」などはさらに効果大。脂質の摂りすぎが気になる人はオクラや亜麻仁油をプラスします。納豆が苦手な人はオリゴ糖を混ぜると甘味が加わり、食べやすくなります。納豆の善玉菌はオリゴ糖をエサにして増えていきますから、腸内環境も改善されます。

 大豆食品・青背魚で     認知症を防ごう

周東 認知症は寝たきり原因の第2位となっています(5頁・表1)。物忘れや集中力の低下を感じたら、豆乳、豆腐、おから、納豆、味噌などの大豆製品を。
 大豆に含まれるレシチンは細胞膜や神経細胞に多く存在し、ヒトの脳の約30%はレシチンで構成されており、記憶や認知症に深く関わっています。また、レシチンは細胞膜の主成分であり、必要な栄養分を吸収し不要なものを排出する作用があります。血中の脂肪は通常は血液に溶けませんが、レシチンが加わると脂肪が血液中に溶けて代謝され、それにより、血液中の余分な脂肪が減少し、血管壁に脂肪が沈着したり、血栓になったりすることが減少します。
 また、納豆のナットウキナーゼは、アルツハイマー病の原因にもなるアミロイド線維の異性化に効果があります。
 青背魚に多いオメガ3系脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は中性脂肪を下げ、さらに、EPAにはアレルギーやガン抑制作用、DHAには認知症予防や視力改善効果があります。
 イワシ、サバ、サンマなどの青背魚はできるだけ毎日、少なくとも一切れは食べるようにしましょう。なるべくなら蒸し煮、煮魚の場合は煮汁も一緒にいただきます。
 強力な抗酸化物質であるアスタキサンチンを含むサケも認知症予防におすすめです。アスタキサンチンは血液脳関門を通過して脳神経系に作用できるので、脳細胞の酸化を抑えて脳の血行を良くすることもいわれ、そうすると脳梗塞や脳出血などの予防にもなります。

運動嫌いの人でも超簡単  毎日15分・ながらでOK
    脳力・筋力アップ!  スポーツ継続群は長生き  ──「サイクリックAMP」が            増える

周東 運動が健康に良いのはよく知られています。
 実際に大学のスポーツクラブの出身者で、その後も運動を継続した人のグループと、ほとんどしてこなかった人のグループを比べると、継続していたグループの方が圧倒的に長寿と判明した調査結果が報告されています。
 運動は、肥満の予防や解消、心肺機能や筋肉を強くしますが、中でも私が注目するのは、運動によって「サイクリックAMP」という物質が増えることです。
 サイクリックAMPは細胞を活性化し新陳代謝を高め、細胞のゴミを除去し、血液をきれいにして、体を若返らせてくれるのです。
 一週間に一度、ハードなスポーツをするよりも、毎日15分軽い運動で良いので、継続することが重要です。

 筋骨を丈夫にして      ロコモを防ごう  ──室内で短時間にできる      「軽い運動」で十分

周東 人類がこれまで経験したことのない超高齢化社会に入り、運動器(身体の運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称)を長期間使い続ける人々が増えたことで、医療の側も対応を迫られました。日本整形外科学会は、運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態を「運動器症候群(ロコモティブシンドローム:略称ロコモ)」と名付け、表4のような自己チェック項目をあげました。一つでも当てはまる項目があれば要注意です。
 家の中でつまずいて骨折し、しばらく安静にしているうちに運動器の機能が一気に下がってしまったという人は意外に多く、運動器の機能が一気に下がったあとには「寝たきり」が待っています。
 メタボリック症候群、脳血管性認知症、ロコモ予防としての運動は、室内で10〜15分でできるもので十分。筋肉量や体力に合わせて行いましょう。特に、骨格筋の7割は足腰に集中しているので、足腰の筋肉を鍛える運動は重要ポイントです(表5)。
 なお、室内運動では部屋を片づけておきましょう。散乱した部屋ではつまずきのもとにもなります。
@ゴキブリ体操
 朝起きたら、ゴキブリがひっくり返り手足をもぞもぞ動かすイメージで動かします。
 腰に痛みがある人にも負担がかからないし、今ある腰痛を軽減する優秀な運動です。
Aつかまりスクワット
 「老化は足腰から」といわれます。スクワットは衰えがちな足腰の筋肉を抜群に鍛えてくれます。 初級者は椅子を支えに、無理せずできるところまで腰を下ろすのでOK。
 膝が痛い人は椅子に腰掛け、その状態から立ち上がり、またゆっくり膝を曲げて椅子に腰掛ける動作を繰り返します。
B仮想ボール蹴り
 つまずきやすいのは、知らず知らず「歩幅」が狭まり、太腿の筋肉が弱って、爪先が上がらなくなっている可能性が大です。また、年をとって転ぶと大腿骨を骨折し、そのまま寝たきりになるケースが多く、日頃の太腿強化はとても大切です。
 「前蹴り」で大腿筋を鍛え、さらに「後ろ蹴り」ができればお尻の筋肉が鍛えられます。
C中腰お能歩き
 大腿筋のほか股関節や膝の関節に効きます。
 腰を落とせば落とすほど足腰の筋肉に負荷がかかるので、きついようなら少し腰を高めに。また、前かがみになると負荷がほとんどかからないので、意識的に背筋を伸ばします。
DのYMA体操は肩の周辺の筋肉を鍛えます。座ってもOK。立ってやる場合は肩幅に足を広げ、腕はできるだけピンと伸ばします。
E踵持ち上げ運動
 膝の屈伸運動よりも、もっと簡単に膝の周辺の筋肉をつけられます。座ったままできて体への負担が少ないので、続けやすい運動です。上げた方の足の踵は反対の足の爪先にのせないように。
F両膝引き上げ運動
 大腰筋と腸骨筋を重点的に鍛えます。足を引き寄せるときは足先でなく、足の付け根から両膝を動かすように。筋肉の動きを感じながらゆっくり両膝を胸まで引き寄せるのがポイント。
Gへそ踊り
 簡単に腹筋が鍛えられます。腹式呼吸(3秒で鼻から深く吸いお腹を膨らませ、10秒で口から吐いてお腹を凹ませる)と組み合わせるとさらに腹筋力アップ。テレビを見ながら、料理の合間など、少しの時間があれば行えます。
Hコツコツ骨叩き
 骨を叩くと骨芽細胞が増えて、骨量が上がります。
 立ったままでも、椅子や床に座ったままでもOK。頭、肩、腕、胸、腰、脚の骨の部分を順番に拳で軽くリズミカルに、コツコツと叩いてください(同じ部分を30回ずつ、1日に2〜3回)。仕事の合間などちょっとした時間に、手の届く範囲の骨の部分をコツコツと叩くのも良いことです。

 こまめに体を動かすと       脳のボケを防ぐ    ──思考系の脳が働く

周東 テレビを見る合間にお茶を入れたり、身の回りを片づけたりすると、「運動系」を司る脳が働き、表面中央に分布している運動系の脳が活性化すると、脳全体の血流が良くなり、「思考系」の脳にも良い影響を与えます。
 身の回りを片づけることは、大脳辺縁系の「側坐核」を活性化させ、その「作業興奮」も思考系の脳に良い影響を与えます。
 このように脳は身の回りのものを片づけたり、室内をちょっと歩いたりするときにも活性化します。
 寝たきりになると脳細胞の使用頻度が落ち、脳はもう使うことがないと判断し、脳細胞が萎縮してしまいます。脳細胞の廃用性萎縮が進んだものが廃用性認知症。本態性認知症とも呼ばれ、高齢者が骨折などで1ヶ月間寝たきりになるだけで廃用性の認知症が進むこともあります。
 50歳を過ぎたら、お釣りの計算をしたり、新しい料理に挑戦して段取りを考えたり、意識して脳を使い続ける努力をしましょう。

 趣味や生きがいを持とう  「健康カラオケ」のすすめ

周東 目標を持つことが、日々の基礎代謝力を高めます。
 おすすめは「健康カラオケ」。健康カラオケは基礎代謝力が高まり、サイクリックAMPを増やすのでメタボなど生活習慣病に効果があります。
 声をしっかり出すと、自然と腹式呼吸になります。腹式呼吸で酸素を大量に取り込めば、血管の収縮と拡張が活発になり、血行が促進され、血圧がスーッと下がります。
 仲間とおしゃべりをしたり、人前で歌えば、神経が鈍らず若々しくいられます。
 大脳皮質の「前頭連合野」は、脳のあちこちにファイリングされている情報を集めて一時保存したり、集めた情報を組み合わせたり、ばらばらにしたりして、「これからどうするか」を検討したりすることもできます。その検討する働きを「ワーキングメモリ」といいます。
 ワーキングメモリが衰えると、何をしようとしていたかを忘れたり、人の話が理解できにくくなったりします。認知症の予防・改善にも、ワーキングメモリを鍛えようと努力することが、大きく役立ちます。
 歌詞を丸暗記するのは、ワーキングメモリの領域を広げるのに効果的です。カラオケの歌詞はぜひ暗記して脳を鍛えましょう。
 カラオケで腹式呼吸をすると、腹筋のほかに、腰を支える大腰筋と腰方形筋が横隔膜と連動してその上の肋間筋、大胸筋など呼吸器関連の筋肉も鍛えられます。舌筋もつくので声量も豊かになります。
 曲目は何でもOKですが、感情を込め熱唱する演歌は自然に腹式呼吸になります。上手に気持ち良く歌えば免疫力も上がり、歌詞を覚えることで認知症の防止にもなります。
 仲間とカラオケに興じたりするのが苦手な人は、自分に合った趣味や生き甲斐を持つことです。日曜大工や料理なども大いに結構。楽しみを持ち、毎日を生き生きと過ごしましょう。