なぜ"はだしの靴”なのか「あおり歩行」の復活と、人体弱体化の予防と再生

──踵を上げた現代の靴の弊害と体の歪み

ビューティフルエイジングM 河端一馬代表

はだし歩行に限りなく近づけた はだしの靴屋さんからの提言  

 "はだし歩行”ができる靴──これこそ、足に全く負担がかからない理想的な靴です。
 そんな靴を開発したのが、河端一馬さんです。河端さんは靴を作り続けて40年。はだし本来の歩行、人間本来の歩行である「あおり歩行」を復活させたいという思いで研究を重ね、2年前にやっと理想の靴「はだしの靴」が完成しました。
 実際、履いてみると、まるで靴を履いていないかのような感覚、飛ぶように歩けるような感覚を覚え、しかも1日中履き続けていても負担を感じない。こんな靴は、外反母趾で悩む編集子にとって初めての出合いでした。
 研究の過程で、河端さんは"本来の歩き方をさせない”現代の踵を上げた靴が、顎や体の歪みを形成させていることに気づきました。
 その研究成果は地元埼玉の歯科医師の研究グループ「NPO生涯健康ネットワーク」で発表され、多くの共感を呼びました。それが、「はだしの靴屋さんからの提言」です(表1)。
 この「はだしの靴屋さんの提言」に基づいて、現代の靴の弊害、理想的な靴がもたらす正しい歩行による健康効果等を伺いました。

人間の足の構造と歩行 ヒトが地上に降り 二足歩行になったのは

河端 私達の祖先である類人猿が樹上から地上に降り立ったのは、一般的には樹上に食料がなくなったために、自らの意志で地上に食料を求めて降りてきたといわれています。
 私は逆に、我々の祖先は樹上生活動物の中で一番弱者だったので、地上に逃げざるを得なかったのではないか、特にヘビとケムシが大量発生し逃げざるを得なかったのではないか、未だにヘビやケムシが嫌いな人が多いのは、その記憶が遺伝子に刻まれているのではないかと推測しています。
 そして、二本足で立ち上がったのは、地上に降りた時に四本足では視野が低(狭)く、弱者の恐怖から、視野を高(広)めるために立ったのではないか。さらに、立った時に警戒しながら踵からこわごわ小指をつき、こわごわ親指の方に移行し、遠くに目で捉えた食料のところまで歩いていったのではないのか。ですから「あおり歩行」の出発は、我々祖先が弱者だったからだというのが私の想定です。
 あるいは、二本足で立ち上がったのは弱者だからこそ、種族存続のために生殖行為を頻繁に行うために性器を見せ合う必要があり、それで立ち上がったとも考えられます。
 理由はどうであれ、二足で立つためには、四足動物よりも接地面積を大きくする必要があったわけですね(表2)。

人間の足の構造 ──アーチ構造と、重心の位置

河端 人間の足は、内側と外側にある縦のアーチと、小指の付け根の部分から親指の付け根にかけた横のアーチによって、ドーム状の土踏まずを形成し(図1)、足全体が縦と横のアーチ状に骨が組み合わされています(図2)。
 このアーチ状の形状は、直立歩行時に足にかかる圧力を吸収、分散するショックアブソーバー(緩衝装置)と考えられています。
 アーチが一番深い部分は第二楔状骨(だいにけつじょうこつ:第2指の中心よりやや内側の楔状の骨。図3)の部位で、その位置は横アーチと縦アーチの接点でもあり、足にかかる圧力を受ける点(重心)として最適と考えられます。
 その私の考えを証明したのが、フットビュークリニック(足圧分布測定器:センサーユニットに乗るだけで、足圧分布、荷重バランス、重心位置を測定できる)による検証です(図4)。第二楔状骨の位置よりも指側、踵側の、どちらかにわずかにずれても、足裏を全面接地することはできません(図4(2)・(3))。

ヒトの正常な歩行は 「あおり歩行」

河端 人がはだしで歩く時は、足を外(小指側)から内(親指側)へあおって歩く──この「あおり歩行」を発見されたのは京大霊長類研究所初代所長の近藤四郎先生で、1960年に「あおりの重要性」として論文発表されました。
ヒトの歩行即ち「あおり歩行」は、
@足を「背屈」して(反らして)まず踵の外側から着地し、
A次に「内返し」をしながら小指の付け根から、
B「外返し」しながら内側にあおって親指の付け根に到達し、
C「底屈」しながら、第1指、第2指、第3指で大地を後ろに蹴り出して前進します(図5)。
 このように、小趾球(小指)から大趾球(母趾・親指)に向かって足を「あおる」ので、「あおり歩行」といいます。
 私の「はだしの靴」は、このあおり歩行を復活、存続させたいという思いから生まれました。このままでいくと、あおり歩行が滅亡してしまいますから。
 なぜなら、踵を10mm(1cm)以上上げた靴(現代の靴)を履くと、踵の外側から着地して直接、親指の付け根(母趾球)に体重が移動されるので、あおらずに歩くことができるからです。
 靴の原型ともいわれるモカシン(一枚革で底から側面・爪先を包み、甲部分にU字型の革を当て革紐でつないだ靴)は本来踵がなく、靴に踵を着けたのは、欧米の合理主義の一つだったのかもしれません。

踵を上げた靴では 「あおり歩行」ができない ──その弊害
踵を上げた靴を履くと 常に"下り坂”に立脚 ──横アーチの退化

──確かにフラットシューズといえども、実際には真っ平らではなく、爪先よりも踵の方が上がっていますね。
河端 その通りですね。そして、踵を上げた靴では「あおり歩行」がうまくできず(図6)、いろいろと多くの弊害が起きてきます。
 足というのは、指の付け根から先は関節機能がありますが、指の付け根(中足骨)から踵(踵骨)までは関節機能がないので曲がらず(図7)、12個の骨が靭帯でガッチリ結ばれて1本の骨のようになっています(図2)。ですから、踵を上げると足が踵から踏みつけまでストレートになってしまうので、靴は踵を上げた位置から踏みつけまでを、下りの滑り台状にしないと履けないのです。
 そうすると、靴を履いている時というのは、常に下り坂に立っているような状態になり、その状態で立ち続けるには、
@膝を曲げて踏みつけ(指側)に体重をかける(前屈みになる)か、
A膝を伸ばして踵に体重をかける(姿勢が後ろに反る)か──のいずれかでないとバランスがとれません。
 @の場合は、横アーチの靭帯が上からの圧力に耐えられずに伸びてしまいますし、踏みつけ側に圧力をかけると指をうまく動かせません。また、膝を曲げた立ち姿は見た目も悪い。
 Aの場合は、立ち姿が一見綺麗に見えるのでハイヒールを履く女性に多く見られますが、踵に体重がかかって「浮き指」となり、指を使わなくなるので、さらに横のアーチが退化してしまいます。
 この横アーチは、あおり歩行時のクッションの役目と、樹上生活時代の枝を掴む、即ち指を動かす二つの役目があります。
 1歳未満の子どもの足裏の第2指の付け根辺りを押すと、足の指全体で押した物をイソギンチャクのように掴もうとします。この機能はミルクを飲んでいる間は存続し、離乳期以降は歩く時に大地を掴む働きとして使われます。
 靴を履いて歩く時も、足指で靴の中底を掴むようにして蹴り出すわけですが、靴下を履いていたり踵を上げた靴を履いたりすると、はだしで地面を掴んで蹴り出すようには足指に力を入れることができないので、あおり歩行もうまく行われず、横のアーチが活用されず落ちてきて、外反母趾などが起きやすくなるのです。

外反母趾の人体への影響 ──扁平足から 体全体の歪みに及ぶ

──私は生まれつき外反母趾で、親兄弟もそうなのです。ですから外反母趾はよくいわれる踵の高い靴より、遺伝的要素が強いのではないかと思っていましたが…。
河端 外反母趾には遺伝的、先天的なものもありますが、その場合もやはり靴が増悪因子になり、靴生活によって外反母趾が悪化・促進されていると考えられます。
 踵を上げた靴を履き、足の指を使わない生活が長く続くと、横アーチが退化し、靭帯が伸び、アーチが低平化し、アーチが伸びた分、母趾球が内側へ飛び出し、母趾が外反して外反母趾になるわけです(図8・9)。
 外反母趾になると、バニオン(母趾関節周囲にある滑液包に炎症を起こし腫れ上がる。多くは痛みが伴う)をはじめ、アーチの平滑化により扁平足(土踏まずの消失)、開帳足(幅広)、中足骨骨頭痛などを引き起こし(図9)、さらには顎や全身の歪みまでをも引き起こし、腰痛、肩こり、不正咬合等が引き起こされたりします。
〈横アーチが落ちると〉
 横アーチが落ちて母趾球が内側に飛び出す時に、第一中足骨が内側に捻じれ、長母趾屈筋が種子骨から外れて横アーチの耐圧機能がなくなると、内側と外側にある縦のアーチに全ての圧がかかるために、縦のアーチを支えている三角靭帯(内側靭帯)が伸びて、縦のアーチも落ちてしまうので、土踏まずの内側が床に着いて扁平足になります(図9)。その際、種子骨から外れた長母趾屈筋が手前に引かれ、母趾がますます外側へ曲がっていきます。
〈縦アーチが落ちると〉
 また、縦のアーチが落ちると、距骨は内側へ、踵骨は外側へ捻じれるので、距骨に立っている脛骨や腓骨も内側へ捻じれて内側に傾きます。その結果、左足が外反の場合は左の腰が前に出て下がり、左に傾いた姿勢になるので左の肩を上げてバランスを取ろうとします。そうすると首は右に傾きそうですが、視線が右下がりになるために視線を平行にしようとして首は左に傾き、首が左に傾くと下顎は右に動くのです。
〈足と口腔の構造は酷似〉
 口腔の構造も足と同じく縦横のアーチで構成され、ドーム状になっています。咀嚼時の圧力をアーチの構造で吸収、分散させて骨や歯を痛めることなく、食事ができる仕組みになっているからだと考えられます。特に酷似している上顎(じょうがく・うわあご)には第二楔状骨と同じようなアーチの頂点があり(図10)、その部分が咀嚼圧を最大限に吸収、分散していると考えられます。
 そのアーチが崩れると、顎関節症や不正咬合などを引き起こし、さらにそれが全身の歪みをもたらすという悪循環が起きてきますが、そうなる根源には、踵を上げた靴があるのではないかというのが、私の考えです。
 その証左の一つとして、椅子にかけた時の姿勢を考察してみました。踵を上げた靴を履いて椅子に腰かけた時は、姿勢への影響はありませんが、現在私達が使っている椅子の殆どが座面後部が前部より低くなっています(図11)。
 この椅子に座ると、踵の上がっている靴を履いて立った時と同じようにそっくり返り、上半身が後ろに倒れるので下顎が前に出ます。ダイニング椅子も同様です。幼稚園から中学までの椅子を調べましたが、全て同じような椅子でした。そうすると、下顎が前に動き、奥歯が噛み合わない状態で食事をしているようになっているのではないかと考えられます。

あおり歩行ができないと 全身に異常を起こす ──浮き指・外反母趾等から 腰痛・肩こり・不定愁訴等々

河端 今、子ども達に「浮き指」が多いといわれます。現在の踵を上げた下がり滑り台状態の靴は、先ほどに申し上げたように、体のバランスをとるために重心が後ろ(踵)にいって指がつかないので、浮き指になりやすいのですね。
 足指が浮いて地面に接地しないので踏ん張れない。そのために、原因不明のスポーツ障害や慢性痛、自律神経の失調などを引き起こしやすくなるといわれています。
 子どもの小さな靴でさえも踵が上がっていますから、着地と踏みつけの部分の高低差が9mmもある。これは6%の傾斜角度の下り坂道に立っているようなものですから、足の中心より前方が開張足のように発達して、踵の小さい、前後のバランスが悪い足になります(10頁図9写真)。
 そうすると、歯の成長は足と全く一緒に成長するので口の奥が狭くなるんです。現実にこの子は口の奥が狭かった。そうすると、舌の置き場が小さくなり、少し中に舌が入ってしまうんですね、
 そのまま大人になると、自律神経の失調、不定愁訴を起こす元になるということを歯医者さんの研究グループでお聞きしました。
 現代人に非常に多い腰痛も、踵を上げると、地面に対して垂直に立とうとすると、踵が上がった分だけ後ろに反ってバランスをとろうとして、特に体が硬いと骨格がずれてきて腰痛なども起こりやすくなるのではないかと思います。
──踵を上げた靴を履くと、バランスをとるために反った姿勢になり、重心が踵に片寄ったり、アーチが崩れたりして、外反母趾や浮き指を引き起こす。そうすると、足裏がしっかりせず不安定になるので、それを補うために首や腰に負担がかかってくると理解して良いですか。
河端 そういうことですね。
 靴の底がはだしの形ではなかったら、体に無駄な負担をかけている可能性があります。無駄な力が体にかかると、肩こりや腰痛の原因にもなります。イライラしたり、寝不足になったりする原因にもなり得ます。

正常な歩行「あおり歩行」が できる「はだしの靴」 こんな履き心地の良い靴は 今まで巡り合わなかった

──それらの弊害を解消するべく作られたのが「はだしの靴」というわけですね。
河端 そうです。
 あおり歩行は、人間が今の形になる過程で得たものだと思います。その前提としてはヒトは靴を履いて進化したわけではないですから、地球は球形ですが面はフラット(平ら)な平面ですから、平らなところをはだしで歩くと、誰でも自然にあおり歩行になるんです。
 ヒトは靴を足につけて進化したわけではありません。外反母趾に代表されるように、靴が、足の持っている本来の機能を否定し、美しさを追求した結果、足に障害をもたらし、さらに全身の障害をも引き起こし、足本来の持つ美しい形まで失う結果となってしまったのです。
 靴を履かないはだしの生活が理想ですが、現代では靴なしの生活は不可能です。それで、「はだし」の状態にできるだけ近づける靴を開発したわけです。この靴を履くと、はだしの形に靴底が減ってきます。これはとても大切なことなのです。
 私の開発した「はだしの靴」は
・爪先は、丸みを帯びたラウンドトウで足の五本の指それぞれを意識し、指運びをスムーズにさせ、
・アッパー(甲の部分)をできるだけ自由にすることで足の機能を最大限に活かし、
・履き口は、足の形通りの美しいカーブを描き、履きやすくし、
・ソール(靴底)は、足の「曲げ」を妨げない柔らかくて軽いEVAスポンジを使用し、
・綿密に設計されたフラットヒール(踵と爪先の高低差は0)
・内革は、吸水性が高く、ムレにくい、柔軟性に富んだ高級ピッグスキンを用い、足を自然な形に包んで抜群のフィット感を持たせ、
・ヒモの部分は、足の血流を妨げないために若干手前に寄せた設計──等々により、限りなくはだしの状態で歩けるように工夫をこらしました。
 特に、50を過ぎたらこの靴に履き替えて欲しいというのが私の希望です。1日で一番長く履く靴として愛用して欲しいと思います。
──最初にこの靴を履かせていただいた時、地下足袋を履いたような、地面をしっかり掴んでいる感じがして、もうすっかり手放せなくなりました。私も靴には苦労してきまして、ドイツの整形科学に基づいた靴をすすめられたり、ずい分靴にこだわってきましたが、これほどの履き心地は今迄になく、こんな良い靴に巡り合ったのは初めてでした。それで本誌でぜひ「はだしの靴」のお話を伺いたいと思ったわけです。
河端 ドイツの靴とは発想が全然違います。この靴ははだしと同じで、自力で歩く以外ないのです。
──ただ、履き慣れないうちは何度か躓きそうになりました。
河端 躓き予防にお年寄りの靴は先が上がっています。そうすると躓かない代わりに、蹴りではなくて、回転で歩く。かっぽれの動きですね。下駄の歩き方がそうです。それと同じで、トウスプリング(toe spring)の開きが高ければ高いほど転ばないのです。
 私の開発した靴は床面に対して10mm(1cm)しか上げていません。なぜ上げたかというと、上げがこれ以上小さいと逆に底の厚みを感じて爪先が引っかかる。ですから、底の厚みよりもほんの少し高くするか、同じにすれば理論的には引っかからないんです。
 ただ、今まで歩く時に蹴りが弱かった方は、慣れるまでしっかり踵から着地して、爪先の蹴りを意識されるのが良いと思います。

子どもの足の成長を考える

河端 最近の子ども靴は足を過保護に扱うことを目的にすれば売れるとばかりに、踵の部分にショックアブソーブ機能を搭載し着地時の踵への衝撃を和らげたり、踵を上げたり、形をスマートに見せるためにストレートに近い型にしたりして、あおり歩行をさせないように工夫しています。
 このような踵骨に着地時の衝撃を与えない靴ですと、それこそ、『自然食ニュース』がいわれるピエゾ電流が発生しないので、全身の骨が軟弱になる可能性もあります。バスケットシューズのエアーもそうですね。衝撃的な運動時には良いけれども、決して普段の歩行に適した靴ではありません。
 あるメーカーの小学生の上履きを分解したら、踵の厚みが16mm、踏みつけの厚みが7mmで、その差9mmでした。踵から踏みつけまでが150mmなので、6%の下り坂の上に立つことになります。また、踵部にはエアークッション機能が搭載されていました。人の身体は平面に立つように進化したはずですが、その上履きを履いた小学生は開張足のように爪先部分が広く、踵が小さく育ちました(10頁図9写真)。

本来の健康体を取り戻す ──はだしの靴と ハイハイ運動とはだし歩き

河端 ひと昔前は西欧人に憧れていた日本人にとって「踵の高い靴はかっこいいし、機能的」と考えたのですが、これが大きな間違いだったのです。踵が上がると自ずと体重が前のめりになるので、バランスをとるためにヒトはのけ反ります。いつしか"ノケゾリ人間”があちらこちらに徘徊することになりました。これはとても危険なことです。体全体のバランスを崩すので、肩こりや腰痛の原因にもなるのです。
 近藤四郎先生は、「人間が4億年もの長い年月をかけて成し遂げ、形成してきた手足の進化の姿が、赤ん坊から生まれて立って歩くようになるまでの、ほぼ一年の間に見られる」
「四本足の系統発生にならって、赤ちゃんが生後一年間に見せる動きを、大人になってからもやってみるのは大切なことである」といわれています。
 この「はだしの靴」と、ハイハイ運動、さらにできれば休日には野山や海岸を本当のはだしで歩いたりして、原始感覚を取り戻して、本来の健康な足と体を取り戻していただきたいと願っています。