古くて新しい発調味料「塩麹」の魅力

こんなに簡単、こんなに美味しく、からだに"いいこと”たくさん

イラストレーター 麹料理研究家 おの みささん

おいしくって、体にいいことたくさん、「塩麹」に魅せられて

 今、大人気の「塩麹」。ブームの火付け役、おのみささんは、持ち前の実験魂から味噌作りに挑戦。その過程で出会った麹に魅せられ、その魅力やおいしさを日々研究されています。
 中でもはまったのが、「塩麹」。塩の代わりに塩麹で調味した料理は味わい深く、毎日食べても飽きない。おのさんは普段の食事から、仕事場へのお弁当、大好きな酒の肴も、おかずはオール塩麹でしつらえているそうです。
 簡単に作れて、何にでも使えて食材をおいしくする、クセがなくて奥深い味わいが、塩麹の人気の源泉でしょう。取材した編集子も早速、塩麹作り(写真)や塩麹料理に挑戦。たちまちその魅力にとりつかれてしまいました。
 そればかりか、おのさんは塩麹料理を常食するようになって、身体の調子は一まわり程良くなり、子供の頃からのアトピーも「ずいぶん良くなった」といわれます。
 研究の成果を、インターネットブログ「 糀 料 理 研 究 室 [ 糀 園 ]」をはじめ、一昨年秋に出版した『からだに「いいこと」たくさん─麹のレシピ』(池田書店刊)、昨年夏に出版した『毎日が楽しくなる─塩麹のおかず』(池田書店刊)等を通して公開し、塩麹の魅力を広く伝えているおのみささんに、塩麹の様々な魅力について教えていただきました。

酵素の宝庫 「麹」・「麹菌」はすごいやつ
麹は生きている!

──味噌作りが麹との初めての出会いだったそうですね。
おの もともと実験が好きで、料理もいろいろ素材を掛け合わせたり、これを混ぜたらどうなるか、実験的なところがありますよね。
 味噌作りは難しいと思ってたのですが、圧力鍋で大豆を茹でてフードプロセッサーで潰し、塩と麹を混ぜればOKと聞いてつくってみたんです。
 本当は寒仕込みといって冬に樽に仕込んで、重しもするのでしょうけれど、何もわからないまま、雑菌が繁殖しやすい真夏に、大きめのジッパー付き保存袋(ジップロックなど)に仕込んだら、しばらく経つとプウッと空気を含んで膨らんで、空気を抜いてもまた膨らむ。
 「ああ、これ生きてる」。その「生きてる感」、麹菌という目には見えない微生物が、けなげに働いている様子が目に見えた感じで、これが愛しくも面白かったですね。また、発酵の過程で、原材料の大豆の味や香り、色、質感が変化していくのも神秘的でした。
 その後でたまたま、きくち正太さんの和食グルメ漫画『おせん』で塩麹を知り、塩麹を使った料理があまりにおいしそうで、試しで漫画をまねてつくってみたら、それが本当においしかったんです。
 塩麹を野菜にまぶして保存パックに入れて空気を抜いてしばらく置くと、漬け物がおいしく出来上がっている。料理が上手になった感もあり、実験好きも手伝って、日々麹料理を研究するようになったわけです。
 味噌を仕込むのはやはりちょっと手間なのですが、塩麹は麹と塩と水だけで仕込みも簡単。程良い塩分とうまみがあり、塩の代わりに普段の料理に使えば簡単においしくなり、素材のうまみも引き出してくれます。
 また、塩麹に漬けると、野菜でも肉でも魚でも、麹菌が素材のでんぷんやたんぱく質をブドウ糖やアミノ酸に分解して、うまみを引き出してくれるのですね。

「麹菌」がつくる 日本独自の発酵食品「麹」

おの 麹は、蒸した穀類や豆類に麹菌(麹カビ)というカビの仲間を繁殖させた発酵食品です。米に繁殖させれば米麹、麦なら麦麹、豆なら豆麹と原料によって呼び名が変わります。
 麹菌には、黄麹菌(Aspergillus oryzae :アスペルギルス・オリゼー)、白麹菌、黒麹菌があり、最もよく使われているのが黄麹菌です(図1)。
 味噌、醤油、味醂、米酢、酒、甘酒、漬け物──など、日本の醸造食品の多くは黄麹菌を用いた麹が使われ、塩麹も黄麹菌を使った米麹(麦麹なども)でつくります。
 カビを使った発酵食品は、中国や韓国、東南アジアなどにもありますが、麹菌を使うのは日本だけです。日本では1000年以上も昔から、麹菌とそれからつくられた麹を利用していたといわれて、安全性もお墨付きです。

100種もの「酵素」が 発酵を促し、うまみを醸成

おの ふっくらと蒸された米の中で麹菌はぐいぐい菌糸をのばし、繁殖を続けます。麹菌はこのときに「酵素」を生産します。
 麹菌が生産する酵素は100種類以上にものぼるといわれ、酵素が食材を分解することによって、発酵が促されます。
 中でも代表的な酵素が、でんぷんを分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼです。
例えば、味噌や醤油をつくる場合、原料の大豆に含まれるたんぱく質をプロテアーゼが分解してアミノ酸を、でんぷんをアミラーゼが分解して糖を生成します。
 でんぷんやたんぱく質そのものは無味ですが、糖(ブドウ糖や麦芽糖、オリゴ糖などの糖類)や、アミノ酸(グルタミン酸など)に分解されることで、主に糖は「甘み」となり、アミノ酸は「うまみ」になって、味噌や醤油にただ塩辛いだけではない、独特のおいしさ、風味を生み出しているのです。
 その上、麹の原料である米そのもののでんぷんやたんぱく質も、麹菌の酵素によって分解されます。調味料にしても、漬け物にしても麹は単独では食しませんから、麹を用いる食材と麹の原料がダブルで分解され、おいしさが増すという相乗作用も生まれるのです。

麹は、健康効果も、 すごいやつ

──麹は健康効果もすごいといわれていますね(表1参照)。
おの 健康効果については詳しくはわかりませんが、酵素がたんぱく質やでんぷんを分解するということは、人間にとっては、麹があらかじめ食べ物を消化吸収しやすい状態に変えてくれているということですね。
 例えば、吸収された糖は体や脳のエネルギー源となり、アミノ酸は人体を構成するたんぱく質をつくる他にも、神経伝達物質として働いたり、エネルギー源としての働きもします。
 麹の料理を日常食べていれば、こうした栄養素を効率的に摂取できるようになり、健康維持や体力増進につながりますし、体の機能を正常に保ち、元気に過ごすための原動力になると思います。
──おのさんご自身は毎食のように麹料理を食されているとのことですが、本当に肌がきれいでお若いですね。
おの 麹は薬ではないので風邪も引く時は引きますが、体の調子がひとまわり良くなったというのは実感しますね。
 便通も快調ですし、子供の頃からのアトピーも完治とまではいきませんが、ずいぶん良くなりました。
 お酒が好きなのですが、塩麹のおつまみで飲んだ翌朝は、二日酔いもなく、すっきり一日がスタートできます。
 麹を料理に使うと、食材のうまみが増すので、塩や醤油、砂糖などの調味料をあまり使わなくてもおいしくなり、塩分や糖分の摂りすぎも防げます。
 以前は合成出しや添加物等も使っていましたが、これも今はあまり使わなくなりました。健康面ではそういう点からも、プラスになっていると思います。
──編集部で塩麹を食しての血液の流動性を観察してみましたが、塩麹の血液サラサラ効果、すごいです(本誌16頁)。
おの 血液サラサラ効果にも通じるところがあるかもしれませんが、酵素健康法というのがありますね。酵素は熱を加えると変性し、働きも失効するので、酵素そのものを摂りたければ、お漬け物とかサラダとか生食がよいですね。

素材のうまみを引き出す 万能調味料「塩麹」
つくるのも使い勝手も 簡単・シンプルで 食材は大変身!

──「塩麹」という調味料は知らなかったのですが、昔から使われている伝統的な調味料だそうですね。
おの 私も『おせん』という漫画を読むまで知らなかったのですが、塩麹は東北地方を中心に古くから使われている調味料で、麹に塩、水を混ぜて、常温で1〜2週間程熟成させると出来上がるという、とてもシンプルな調味料です。
 つくるのも使い勝手も簡単で、シンプル。普段のおかず作りに塩の代わりに使えば、簡単においしさが増しますし、麹の酵素のお蔭で食材そのもののうまみも引き出されます。
 友人を招いて塩麹料理パーティーをよく開いたりするのですが、塩麹があれば、手軽にたくさんのメニューがつくれて、しかも手間ひまかけたような深みのある上品な味わいに仕上がるので、友人たちにも大好評です。
 塩分調味料として味つけに用いる他に、食材に塩麹をまぶして漬けておけば、食材の細胞が麹菌の酵素によって分解され、食感がやわらかくなるというメリットもあります。

塩麹をつくる。
基本は、麹1・水1・塩3割 ──生麹と乾燥麹

おの 材料の割合は基本的には、麹と水は同量、塩はその3割。麹自体は保存性が悪く、塩が雑菌の繁殖を防ぐので、塩の分量は3割を切らないようにして下さい。秋田とか昔から地元でつくっているお婆ちゃんは、塩分を強くして3年ものの塩麹などもあるらしいですね。
 作り方は、表(表2)の要領でつくり、麹がふっくらとし、甘い香りが立ったやわらかいおかゆのような状態になり、麹の粒に芯がなくなっていれば出来上がりです。
 発酵が進むにつれて形状が変化し、3週間程経つと米粒が溶けて、3ヶ月後には熟成がほぼ完了し、麹の粒が溶けて水分が多くなります。色も少し黄色っぽくなります。
 保存は、冷蔵庫保存で半年はもちます。フレッシュもおいしいですが、発酵が進んだものもそれなりの味わいが楽しめます。発酵が進むと少しずつ褐変して味噌のような風味が増してきますが、使用には問題はないです。ただし、赤く変色したり異臭がしたり嫌な味がするのは腐敗しているので捨てましょう。
 私は一度に大量につくって、密閉容器に小分けし(蓋はきっちり閉めない)、食卓に常備して、食卓調味料として野菜や納豆やお刺身などに、塩や醤油代わりに使ったりしています。
──取材にあたって塩麹をつくろうと思って麹を探したのですが、なかなか手に入りにくいですね。
おの 私はネット注文で取り寄せていますが、デパートの食品売り場や大手のスーパー、自然食品店などに置いてあると思います。最近は塩麹人気で、それで手に入りにくいという事情もあるようです。
──麹には生と乾燥がありますね。
おの 乾燥麹は日もちを良くするために乾燥させたものです。1年程もつものもありますが、冷凍庫保存をおすすめします。生麹の賞味期限は冷蔵庫に入れて約1〜2週間ですが、冷凍庫に保存すれば2〜3ヶ月は使えます。使うときは常温解凍します。
 麹そのものを使う場合は、どちらもお湯で戻してふっくらさせてから使いますが、塩麹ではその必要はありません。乾燥麹を塩麹に用いる場合は水は多めにします(表2)。
 玄米麹や麦麹も独特の風味があるので、米麹に慣れたら挑戦するとよいでしょう(表3)。
 それでもつくるのが面倒という方や、最初は味わってからという方には、市販の塩麹や、水だけ混ぜればよい塩麹の素というのもあります。

 何にでも合う万能調味料

〈調味料として〉
──塩、醤油、味噌の代わりに、塩麹は塩分調味料として幅広く使えるわけですね。
おの 塩麹は、味噌や醤油のようなクセがなく、カドの取れた味わい深い塩みたいな感じですので、和・洋・中・エスニックまでどんな料理にも合いますし、まぶす・和える・焼く・炒める・蒸す・漬けるなど、どんな料理法でも合います。
 お酢や油(オリーブ油やごま油など)、マスタード、カレー粉、唐辛子などとも合います。いろんな調味料や香辛料と合わせて、ご自分で工夫したドレッシングやタレをいろいろつくってみるのも楽しいものですよ。
〈食材を漬ける〉
おの 野菜の漬け物はもちろん、豆腐、卵、肉、魚介類を漬けると、水分が排出されて肉質が締まるのでうまみが凝縮し、しかも、肉質はやわらかくなるので冷めても固くなりません。ただ、例えば山芋などでんぷん質の多い食材だと分解が進んでダレてきますので、そこは要注意です。
・野菜を漬ける
 野菜は、漬け物にすれば食べやすく量の確保もでき、保存もきくし、体にもいいので、作り置きするといいですね。
 野菜を塩麹に漬けると、水分が排出されると同時に、麹に含まれる酵素が野菜に含まれるでんぷんを分解してつくった糖と、野菜にもともと付着している乳酸菌によって発酵が起こり、風味が増し、保存性も高まります。
 基本は、洗って水気をよく切った野菜に対しその約1割の塩麹をまぶし、漬け物容器や密閉容器に入れて、空気を抜き、ねかせます(表4)。
 浅漬けはもちろん、食材に付着した乳酸菌の発酵が進んで少し酸味が強くなったのも、好みですがおいしくいただけます。
・肉や魚などを漬ける
 食材の水気をよく拭き取り(青魚などは内臓を取り除く)、容量の約1割の塩麹をまぶし、ラップで包んでジッパー付き保存袋に入れて冷蔵庫で一晩以上置きます(表5)。1〜2時間後から食べられますが、やはり一晩おいた方がよりおいしいですね。
 焼くだけでなく、煮物や蒸し物にしてもおいしいです。イカなど本当においしいんですよ。ぜひ試してみて下さい。
・菜食者も大喜び「塩麹豆腐」
──チーズ・生クリーム代わりに
 よく水切りした豆腐を塩麹に漬けると、時間が経つにつれて味も食感も濃厚になり、2〜3週間経つとクリームチーズのようになります。
 そのまま食してもとてもおいしいものですが、塩麹豆腐を潰してペーストにするといろいろアレンジできます。例えば、ペーストを納豆や冷や奴のタレにしてもよいし、「スパゲッティ・カルボナーラ(風)」など、チーズや生クリーム代わりに使うとさらに料理の幅は広がります。
 この塩麹豆腐は、自然食やマクロなどで乳・乳製品をとらない友人にとても感謝されています。ダイエットを気にする方にもおすすめですね。
 豆腐は木綿でも絹でもOKですが、酒のつまみには木綿、ペーストには絹が合うようです。
 3日後くらいから食べられますが、2〜3週間経つと濃厚なチーズ味になります。腐敗臭もなく、色も変色していなければ2ヶ月でもOKなのですが、3週間以降は酸味が強くなるものの味は特段変わらなくなるので、安全性も考えて3週間頃には食べ切って下さい。

毎日、毎食 麹・塩麹にまみれて 心も体も元気いっぱい

おの 麹を使った料理は、おいしくて健康的というだけでなく、実に効率的で経済的です。私がハマッた大きな理由も、そこにあります。
 私は、イラストレーターとして画を描く仕事をしていて、自宅近くの事務所にはお弁当を持っていきますが、そのお弁当の中身も・麹まみれ・です。
 麹を使った料理はしっかりと味がしみ、味がしっかりしみているのに肉や魚は固くならず、冷めても食べやすいし、保存性も高いので、まさしくお弁当向きです。
 冷蔵庫につまった試作品をサッとつめて出かけられるし、前日の晩につくったおかずの残りを無駄にすることもありません。忙しいときこそ、麹のおかずと玄米ご飯(最近は七分搗き米がおいしいです)で、心と体に元気をもらっています。
 食べることと飲むことが大好きな私。わが家では友人たちが集まって「麹パーティー」もしばしばです。塩麹に漬けておいてサッと焼いたり、塩麹とパッと和えたり、麹の料理は手軽にできます。飲みながらつくり、つくりながら飲む、という「家飲み」にも最適です。
 塩の代わりに使うだけで、味に深みが出て、驚く程料理がおいしくなるし、どんな食材とも相性がよいので、アレンジは無限大です。
 優しい味で体にも良い。いいことずくめの塩麹。多くの方がこのすばらしい調味料に出会い、各自いろいろ工夫されて、ご自分の味をつくり出し、食卓をより健康で、よりおいしく、より豊かなものにされていくことを願っています。
 わが家の台所での麹料理研究も、楽しみながら、味わいながら、さらなる成果を期待しながら、今後も続けていきたいと思っています。