脳幹を活性化する「オルゴール療法」は根本的治療になり得るか

その1 原理とメカニズム

日本オルゴール療法研究所所長 佐伯吉捷先生

一台のオルゴールとの出会いから生まれた 「オルゴール療法」

 オルゴール療法は20年ほど前、日本で生まれました。
 創始者の佐伯吉捷・日本オルゴール療法研究所所長は1975年、欧州旅行の途上、音色も装丁も重厚なオルゴールと出会い、強く感動。さらに、長男の胎教にスイスオルゴールが良いとすすめられ入手。家族でスイスオルゴールを聞き、オルゴールの影響は「子供の成育に大きく関わっている」ばかりか、大人も心身が元気になることを体感しました。
 スイスオルゴールを日本に紹介すると同時に「スイスオルゴール友の会」を主宰し、それを母胎に全国各地で「オルゴールコンサート」を開催するようになりました。コンサートはすでに1万回を超えています。
 そうした活動を続けていく中、オルゴールを聞く人々の間に多くの病気改善例が出始め、オルゴールの響きが心身に良い影響を与えるのを目の当たりにし、本格的にオルゴール療法を研究するようになりました。
 1990年にオルゴール療法研究室を開設後、大学の研究機関と共同研究で「オルゴールの脳波への影響」、「高周波・低周波の測定」、「α波の測定」などを検証。その成果は5つの医学会で発表されています。
 2003年には日本オルゴール療法研究所を主宰し、2004年に大阪市梅田にオルゴール療法本部、横浜・元町にもサロンを開設して、オルゴール療法を実践しています。
 「オルゴール療法は、心身の恒常性を取り戻す根本の療法であり、未来の健康法」といわれる、佐伯吉捷所長に、オルゴール療法についてお話をうかがいました。
 今月号で「その1─原理とメカニズム」、来月号で「その2─療法の実践と改善症例」と、2回にわたって掲載します。

なぜオルゴール療法か ──"響き”は、 生命維持の基本 音楽療法との違い ──耳には聞こえない 高周波と低周波の音が 脳幹の血流を促進!

──オルゴール療法と音楽療法はどこが違うのか、なぜオルゴールなのかというところからお願いします。
佐伯 音楽療法は症状に対して曲で対処するのが基本です。一方、オルゴール療法は響きというものが重要です。特に生の響きを重要視しています。
 1995年、耳では聞き取れない響き、すなわち高周波から低周波の響きが脳幹と視床下部の血流を活発にすることを、旧文部省外郭機関(大学共同利用機関)と大橋教授ら京大脳病態生理学の合同チームが発表しました。
 欧州旅行の途中、一台のオルゴールと出会い、やがて「スイスオルゴール友の会」が発足し、それを母胎にオルゴールコンサートが生まれました。私自身、オルゴールコンサートを開くようになって、オルゴールを聴いている皆さんの中から「高血圧が良くなった」「自律神経失調症が良くなった」──等いろんな病気が改善されたという体験が出るのは、日本でも音楽療法は50年ほどの歴史があるわけですから、それと同じような影響によるものだろうと思っていました。
 しかし、耳には聞こえない高周波と低周波の音、響きが、「脳幹の血流を促進する」という研究が世に出て、オルゴール療法の効果はそれだ!と確信しました。
 すぐに阪大にスイス製72弁以上のオルゴールを携えて調べてもらいました。果たせるかな、オルゴールの響きには、熱帯雨林や深い森にある周波数と同じ、3・75Hz(ヘルツ)という超低周波から10万2千Hzという超高周波まで出ていることが測定されたのです(大阪大学の無響室で測定。図1)。
 これにより、超低周波〜超高周波まで出ているオルゴールの響きこそが、オルゴール療法の基本となっていることがわかりました。

生命維持の基本は、脳幹への響き

佐伯 海底で私たちの祖先は生まれ、海の中、海岸、森の中、熱帯雨林の世界で進化してきたといわれます。海の中でイルカやクジラが何10 kmも先の仲間と交信しているのが超低周波です(8頁図2)。
 太陽光線をはじめ宇宙から波動がやってきて、そして地球の空気層に触れた時に響きとなった。響きを原始として音というものになり、それを素材にして音楽が生まれたのであれば、そうした世界で進化してきた私たちは音がないところでは即死ということがわかりました。脳幹に響きを感じられなくなった時に脳死となり、響きのないところでは即死となるそうです。ということは、水や空気、食べ物よりも、基本的に生命を維持するのに必要なものは響きであることがわかります。
 しかし、脳幹が響きで維持されている、すなわち響きは生命維持の基本となっていることはほとんど理解されていません。

オルゴールが消えた要素こそ オルゴール療法の真髄 ──最大の特長は"倍音”

佐伯 200年前にオルゴールがスイスで生まれ、100年後にエジソンが蓄音機を発明し、瞬く間にオルゴールと代が替わりました。オルゴールがなぜ消えていったのかを考察してみると、七つほど欠点がありました。
 オルゴールが小さな箱の中からゼンマイ一つで小さなフレーズを繰り返し繰り返し、だんだん遅くなっていって止まる一方で、蓄音機は人の声まで再生でき、長時間演奏が可能、遅くなることも止まることもなく、それで蓄音機にもっていかれたわけですが、欠点とされた七つは実は、オルゴール療法では欠かせない特長になっているんですね(表1)。
箱の中から音が出る
 ですから、集中治療室では頭蓋骨を外したところへもっていけるわけです(写真参照)。
ゼンマイを巻くだけで生の演奏
が再生(電気再生音との違い)
 人の耳で聞こえる音の範囲(可聴域)は、20〜2万Hzまでです。CDなどの人工的な電気の再生音ではこの可聴域しか音が出ていませんから脳幹部へ届かず、脳幹部の血流を回復することができないのです。
 お腹の赤ちゃんの脳にも電気の音は届かないことが証明されています。胎教には生の音楽でなければならないのです。
倍音(表2・図2)
 療法用オルゴールの特長は、倍音がいっぱい出ることがFFTアナライザーでわかりました。
 倍音がいっぱいあるというのは森の中の音と同じです。葉っぱのざわめき、木々のこすれる音、大地のマグマ音、獣や鳥の鳴き声、そうした複合的な音がいっぱいある世界になっているわけです。
 ですから、オルゴールは単音より、例えば144弁で上げた方がさらに重なる音、すなわち倍音がいっぱい伴います。そうすると、倍音によって周波数は10万2千Hzまで上がり、3・75Hzまで降りてくるという、音響専門家たちの常識ではとても信じられないものが出てくるわけです。
 オーケストラはそれ自体楽器をたくさん持ち、音がたくさんあるわけですが、ピアノは高周波の全く出ない楽器で、ピアノで音楽療法をされている方に真実を申し上げると皆さんショックを受けます。ピアノとフルートなどを組み合わせればヒーリングコンサートが可能と思います。パイプオルガンもいいですね。笙(しょう)や篳篥(ひちりき)でしたら下へ琴を入れるとか、リコーダーなら下へチェンバロを入れるとかすれば、高周波と低周波の混ざったものになるかと思います。(図2)
 でないと、森に近づかないのではないか、いわゆる生命が欲している響きというものが足りないのではないかと思います。
繰り返しと、テンポが遅くなる音楽は脳を休める
 繰り返しと、だんだんテンポが遅くなるのも脳を休めます。15分、50分かかって止まるのもありがたいことで、不眠症対策にCD(一般の)を聞かれる方は絶えず「いつ止めたかな。いつ止めなければいけないかな」と頭が刺激され、しかも電磁波を受けますから脳が休まることがないのです。
 自然音のオルゴールは、だんだんテンポが遅くなって、例えば15分後に止まればリラクセーションの極致に達し、熟睡ができるわけです。

オルゴール療法の 原理・メカニズム 生命活動の中枢 「脳幹」を活性化させる 根本療法

佐伯 オルゴール療法の原理は、
オルゴールの持つ超高周波と超低周波の響きが、脳幹(図3)の血流を活発にし、機能を正すことにより、人間が本来持っている自然治癒力、免疫力を高めて、病気に打ち克つ体を作ることにあります。
 1995年に発表された、文部省外郭の研究機関と京大による、「高周波と低周波を豊富に含む音楽」に関する共同研究では、
全身の感覚を大脳に送る中継点「視床」と自律神経などを司る「脳幹」の血流を増大する
高周波を削った音楽では血流が減少する
22キロヘルツ以上の耳で聞こえない高周波だけの音では通常と変わらない──等のことが明らかになりました。
 すなわち、高周波と低周波を豊富に含む音楽は、脳の一部を活発化させ、人体に好影響を及ぼし、逆に、CDなど多くの電気的な再生音では高周波がなく、現代の音環境を見直す必要があることが証明されたわけです。
 病気が治っていく仕組みをいろいろ考えてみますと、まさに脳幹が生命活動の全てをコントロールしていることがわかります。

自律神経のバランスをとる

佐伯 脳の中枢部にある脳幹(図3。間脳、視床・視床下部、中脳、橋、延髄)は最も原始的な脳とされ、神経とホルモンをコントロールして生命を維持する重要な働きをしており、特に、視床下部は自律神経の最高中枢として、自律神経の働きを監督しています。
 自律神経は、アクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経があり、この二つがバランスよくコントロールされていることが健康の鍵を握っています(表3)。
 ストレス過剰な現代人は交感神経優位な傾向にあるといわれます。関西大学保健センター所長・飯田教授の研究では、昼間に興奮している交感神経がオルゴールで見事に鎮静化するデータが得られました(図4)。

脳波に及ぼす影響 ──リラックス波「α波」の検出

佐伯 オルゴールを聞いている時にリラックスして気持ちの良い時に出る脳波「α波」が検出されました(表4・図5)。脳全体が正常に働く時に出るα波は、脳の正常性をみるための指標にもなります。
 関西鍼灸短期大学の分析では、「健常者に対して確実にリラクセーションが得られる。脳梗塞患者に対しては大脳皮質の活動について病的な部分をも含めて活性化を促すことができ、かつ左右の偏りも是正できることがわかる。オルゴール療法を受けた人々がすっきりしたという感想を述べるということであるが、そのことを反映している結果だと思われる」という結果をいただいています(図5)。
 脳梗塞の快復期にある女性の症例では、オルゴールを聞いている間はα波の検出は認められませんでしたが、呈示直後に高いα波の検出が観察されました。このようにα波の出にくい方の脳でも、オルゴールの脳波に及ぼす強い効果が証明されています。
 「CDではα波がほとんど出ない」という結果を奈良教育大学の福井教授が発表されたことから、オルゴールでのα波の実測は必要なデータでした。
 α波1と2が検出されたスイスオルゴールでの実測データは、今後の脳梗塞患者の治療や改善にも活用できるのではないかと思っております。
 体温が上がる
佐伯 『体温を上げると健康になる』という本が出ましたけれど、体温が上がるとは血流回復のことをいってるわけですね。自律神経のバランスがとれると血流が回復します。そうすると、全身の細胞に栄養や酸素が行き届きますから当然元気になります。
 オルゴールの響きが脳幹に働きかけて自律神経が正常になると、血流が回復し、そうして末梢血管にまで栄養と酸素が送り込まれると、体内の老廃物の排出も促され、さらに血液は良好にサラサラ流れていくわけですね。
 実際、オルゴール療法を体験されているほとんどの方が、身体が熱い、手足が温かい、汗をかく、涙が止まらない──等とおっしゃいます。
 ウツに冷え症とアレルギーなどを複合していた女性は、オルゴール療法1ヶ月ほどでほとんどの症状が改善され、現在体温は36・8℃をキープしています。冷え症が改善し、平均体温が上がり、血液循環が正常になると、体内の全ての器官がうまく作動するのではないでしょうか。
 私どもが実際に計測したデータでも、表面温度は2〜3℃上昇しました(図6・写真)。