これでも、牛乳を飲みますか?

乳がん・前立腺がんなど「ホルモン依存性がん」と乳・乳製品

山梨医科大学名誉教授 佐藤章夫先生

佐藤章夫先生のHP※「生活習慣病を予防する食生活」

 佐藤章夫先生には本誌2002年9月号(bR45)で「牛乳・肉に警告──糖質を中心とした日本型食生活を見直そう」というタイトルでお話をしていただきました。
 その後先生は06年より、ご自身のホームページで、乳・乳製品をはじめとする動物性食品摂取の有害性・糖質中心の食事の優位性について、新しいデータを次々に取り入れて、その詳細を一般の人々に広く開示されています。
 中でも昨年8月に開示された、J・プラント教授の『Your Life in Your Hands』の抄訳、「プラント教授の乳がんとの闘い」・「プラント教授の乳がんとの闘いー実践編」は、乳がんになった女史が乳がんの主因は乳・乳製品であることを突きとめ、それを断つことで乳がんを克服した大変衝撃的で、かつ示唆に富む内容です。
 日本でも今、女性のがん罹患率トップは乳がん、男性では前立腺がんの急増が問題になっています(図1)。
 そこで今回改めて佐藤先生に、これら「ホルモン依存性がん」を中心に牛乳の問題点をお聞きしました。

プラント教授の 『あなたの生命はあなたの手の中に』乳がんの克服と「乳・乳製品主犯説」

──先生のホームページを読者から紹介されて拝見しましたところ、プラント教授と乳がんのお話など大変興味深い内容が満載されていて、これは是非もう一度お話を伺いたい。特に今回は、牛乳と乳がんなどのホルモン依存性がんとの関連でお話をお願いしたいということで参りました。
佐藤 J・プラント教授(Jane Plant,1945年生)はイギリスの高名な地球化学者で、日頃から健康に気をつけ、環境汚染物質などを遠避け、食事も低脂肪食を心がけていたのに、42歳で乳がんになりました。
 彼女は、そんな自分がなぜがんになったのか、また、子供が小さいうちに死ぬわけにはいかないということで、科学者の目で自ら、発生原因や克服法など乳がんの研究を始めました。
 その中でプラント教授は、
乳・乳製品を多く摂取する国ほど乳がんや前立腺がんなどの、「ホルモン依存性がん」の発生が多い(図2)、
中国や日本に乳がんが少ないのは「大豆を多食するからだ」──という学説に着目し、
中国人や日本人、特に中国人は「牛乳・乳製品をほとんどとらない」という事実に瞠目しました。彼女は牛乳・乳製品の愛好者だったからです。
 プラント教授は最終的に、乳・乳製品をはじめ動物性食品を断って、再発を繰り返す乳がんを克服しました。
 その体験に基づいて書かれた『Your Life in Your Hands』の中でプラント教授は、女性が乳がんになり男性が前立腺がんになるのは「人間が本来口にすべきではない牛乳・乳製品を飲みかつ食べるからである」と断じ、不幸にも乳がんあるいは前立腺がんになった人は「自分が乳がん・前立腺がんになりやすい遺伝的資質(体質)であることを自覚して、牛乳・乳製品を完全に断つ」ことをすすめています。
 乳がんや前立腺がんの急増が問題になっている日本でも当然出版されるべき本であり、私もプラントさん本人から直接日本での出版を頼まれましたが、市場価値がないのか日本での出版は今のところ困難で、私がHPで一部を紹介している次第です。何とか日本でも出版されればと思っています。  

牛乳奨励の張本人
スポック博士は 晩年は否定論に

佐藤 昨年夏に出たプラント教授の本の増補・最新版には、『スポック博士の育児書』(1946年初版・日本語訳は1966年初版)に「牛乳は牛の飲むものであって、人間の飲むものではない」と書いてあるとありました。
 スポック博士(1903年〜1998年)は1日に700〜800mlとか、「牛乳を飲め飲め」といった方ですね。その育児書は日本の母子健康手帳や副読本にも取り入れられ、日本での「牛乳奨励」の端緒になった本です。
 疑問に思って早速アメリカで出ている『スポック博士の育児書』第7版(1998年刊)を求めて読んだところ、確かに昔のものとは全く違っていました。
 スポック博士は晩年病気になったのを契機に180度考えを変え、第7版を出し(アメリカでは共著者によって現在第8版が出されています)、第7版を見ずに亡くなりました。
 しかし、日本での最新版は第6版の翻訳で、これは初版本とほぼ同じ内容です。私のHPの読者がそれについて出版元の暮しの手帖社に問い合わせ、出版元は最新版を出すかどうか検討中という電話を私に寄越しましたが、さてどうなりますか。牛乳有害論は根拠なし!?

メディアの牛乳礼賛と 酪農乳業団体の後押し

佐藤 こういう問題は出版界に限らず、新聞などのメディアも同様です。
 酪農乳業業界は、例えば研究者だとか、あらゆるところに資金提供をして、「牛乳はこんなに良いものだ」ということを日本で50年間くり返し言い続け、その片棒を新聞メディアが担いできました。
 例えば、今年1月に載った地元Y新聞の「牛乳飲んで健康生活」という特集記事は、下段に乳業業界の宣伝が入った提灯記事です。それは意見広告ではあっても、特集記事ではない。それを「特集」と銘打って、あたかも自分たちが調べて書いたようにしている。これはもう新聞倫理綱領違反ですので早速私のHPに書きました。
 朝日新聞、日経新聞然り。牛乳の良い点ばかりを書いてある。広告記事ではないけれど、コメントを寄せている顔ぶれを見れば業界に縁のある人ばかりということがわかります。
──朝日新聞では今年1月28日夕刊の「食の健康学─牛乳有害説をどう考えるか」で、牛乳擁護に傾いた記事を載せていましたね。
佐藤 WHOが「カルシウムの最良の補給源として牛乳は最適」と位置づけていると書いてありますね。WHOは「カルシウムが牛乳・乳製品にたくさん含まれている」と述べているだけで、「最良の補給源」などとは言っていない。
 大ベストセラーになった新谷弘実先生の『胃腸は語る』の主張に「科学的根拠は全くない」という学者のコメントや、「牛乳有害説は典型的なフードファディズム(一つの食べ物や栄養が、健康や病気に与える影響を過大に信じること)」という意見も紹介されていますね。
 フードファディズムとはとんでもない。牛乳有害論には非常に多くの科学的根拠があります。
 2006年10月にアメリカのボストンで、ハーバード大学とカナダのマギール大学主催の「牛乳・ホルモン・健康」という国際ワークショップが開かれ、私も「牛乳中女性ホルモンの健康影響」と題して講演しました。その内容もHPに載せています。
 タバコ愛好家の全てが肺がんになるわけではないように、乳・乳製品を好んで口にする人の全てが乳がんや前立腺がんになるわけではありませんが、集団的レベルで見れば牛乳・乳製品の摂取量が多い国に、乳がんや前立腺がんが多いのは明らかです(5頁図2)。
 乳・乳製品にはタバコと同様、「牛乳・乳製品の摂取は、あなたにとってがんの危険性を高めます」とか「健康を損います」とか書いてしかるべきものなのです。

牛乳・乳製品と 乳がん・前立腺がんなどの 「ホルモン依存性がん」
乳は乳児のための 「生化学的液体」

佐藤 プラント教授もいわれるように、牛乳は仔牛用の白い血液、生化学的液体であって、人間の飲料ではないのです。新生児の成長はめざましく、お乳にはその成長を促進する強力なホルモンや、ホルモン様物質などが非常に多く含まれています。これは、お乳は哺乳類がある一定の期間だけ飲むことが許されている、生化学的な液体だということです。
 全ての哺乳類は離乳後、乳糖(ラクトース)分解酵素のラクターゼの活性が急速に低下し、お乳を飲むとお腹をこわし、自然に乳離れするようになっています。これは哺乳類が子孫を残すための仕組みではないかと考えられます。子供がいつまでもお乳を飲んでいると、吸乳刺激で分泌されるホルモン(プロラクチンとオキシトチン)が排卵を抑えるので、次世代が生まれにくくなるのです。
 寒冷地で動物性食品に頼らざるを得なかった西洋人は、やむを得ず成人後もラクターゼ活性が持続する体質を獲得しました。彼らは我々を「乳糖不耐症」と呼んでいますが、私は彼らこそ「乳糖持続症」と呼ぶべきだと思います。
 牛乳であれ、人の乳であれ、お乳には種独自の成長に合った特有の成分配合、濃度になっており、生長の速い動物ほど濃度が濃くなっています(表1)。
 例えば、牛は40 kgぐらいで産まれ、約3ヶ月で120〜140kgになり、1日で約1kg増える計算ですから、牛乳には人乳の4倍のカルシウム、3倍の蛋白質が含まれ(表2)、仔牛の成長を促進するIGF─1(インスリン様成長因子。Insulin-like growth factors)も非常に多く含まれています。

IGF─1と 「遺伝子組み換え牛成長ホルモン」
──ホルモン依存性がん

佐藤 IGF─1は特にウシ成長ホルモンを投与された牛に顕著です。アメリカの牛乳の最大の問題は、大腸菌につくらせたウシ成長ホルモンを使っていることです。「遺伝子組み換えウシ成長ホルモン rconbinant Bovine Growth Hormone,rGBH」といいますが、それを注射しますと、同じ量の餌でより多くのミルクが出ます。今、アメリカの消費者団体は表示を求めていますが、なぜかFDA(米国食品医薬品局)はこれを拒否しています。
 IGF─1は成長促進の他に、最近の研究では、がんとの関連がいわれ、がんでは前立腺がんと乳がんの細胞の成長を刺激することなどが明らかにされつつあります。
 日本では牛乳は特に成長盛りの子供たちに奨励され、学校給食にも取り入れられています。
 日本で乳・乳製品を最も多くとる前思春期(7〜14歳)と幼児期(1〜6歳)(図3)は、内分泌撹乱作用を最も受けやすい時期で、性の発達過程にある幼少期に与える「ホルモン入り牛乳」は性発達だけではなく、成人後の前立腺がんや乳がんなどにも大きく影響していると思われます。

妊娠牛からの搾乳と 女性ホルモン
──ホルモン依存性がん

佐藤 哺乳類は出産後にお乳を出し、母親は子供がお乳を飲み続けている間は妊娠しません。ところが近年は、牛を人工授精で絶えず妊娠させながら、妊娠中にも大量のミルクを出せるように、牛に穀類などの濃厚飼料を与えて、搾乳器で搾りとっています(図4)。ですから、今の牛乳は非常に女性ホルモンが多くなっています。
 妊娠中は血中の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)濃度が高まりますから、当然牛乳にも血液と同等かそれ以上の高濃度の女性ホルモンが含まれるわけです(図5・6)。
 私たちの調査でも、モンゴルで飲まれている昔ながらの非妊娠牛から絞った生乳は日本の市販牛乳に比べて、はるかに女性ホルモン量が低いことが明らかになっています(図7)。
 牛乳中のエストロゲン(卵胞ホルモン)は主に硫酸エストロンという形で存在し、硫酸エストロンは口から入ると体内で速やかにエストロンやエストラジオール-17bに変換され、女性ホルモン作用を発揮すると考えられています。
 乳がんの約7割、また、子宮体がん、卵巣がんなどにもエストロゲンが大きく影響を与えるといわれています。エストロゲンはこれらのがん細胞のエストロゲン受容体と結びついて、がん細胞の増殖を促すのです。
 アメリカでは今、牛乳は貧困層に多く飲まれ、特に黒人の思春期が非常に早まり、12〜13歳で避妊が必要になるなど社会問題化しています。他の理由もあるかもしれませんが、牛乳が一因になっているのは確かだと思います。
 一方で、男性は女性ホルモンの影響による精巣の発育不全、精子形成の阻害が報告されています。最近日本では、7カップルのうち1カップルが不妊といわれていますが、乳・乳製品の摂取は不妊や少子化にもつながる可能性があると思います。

日本人の生命線は米と大豆
日本国政府の 牛乳飲用の強制と 伝統的食文化の破壊

佐藤 日本の食文化にはウシの体液(乳汁)を飲むという習慣はありませんでした。日本でも農耕・運搬用に牛は飼われていましたが、その乳を仔牛から奪ったり、屠殺して食うなどということはしませんでした。例外はありますが、これはアジア・アフリカに共通しています。牛乳を飲むのは西洋人(皮膚の色の薄い人たち・コーカソイド)だけです。
 一般の日本人が牛乳を飲むようになったのは敗戦後のことです。1954年には学校給食法が施行され、その中で文部省(文部科学省)は今に至るまで学童・生徒に牛乳飲用を強制してきました。古今東西、ある特定の食品を国民に強制した国家は日本を除いて皆無です。日本国政府は日本の子供に「パンとミルク」を強制して、日本の食文化と伝統を破壊したのです。
 厚生省(厚生労働省)も、妊婦に「牛乳を飲まないと丈夫な子供が生まれない」、老人に「牛乳を飲まないと骨粗鬆症になる」、一般国民には「足りない栄養素はカルシウムだけ」と牛乳を強要しました。このような政策で1960年代以降、日本の牛乳・乳製品の消費量が急増しました(図8)。

佐藤 かつては「骨粗鬆症に牛乳を」という宣伝がいっぱいありましたが、2003年からは全くなくなったのにお気づきでしょうか。アメリカなどではもっと以前から、「骨粗鬆症に牛乳を!」などという宣伝を自主規制しています。
 「牛乳の摂取は骨粗鬆症の予防にはならない」のは世界の常識で、いろんな論文を読んでも「牛乳が良い」などということをいっている人は酪農業界の息のかかっている人だけ。中立的な立場の人では皆無です。この「皆無」というのが重要なんです。
──骨からカルシウムが出ていく(脱灰)のは動物性蛋白のアミノ酸、中でも含硫アミノ酸が悪さをするからですか。
佐藤 他にも、肉などの摂取で体内でできる酸を中和するのにカルシウムが使われることもありますが、蛋白質を沢山とれば骨からカルシウムが出ていくのは、人でも動物でも繰り返し確認されている事実です。蛋白質の多いものは動物性食品ですから、動物性食品を多くとればカルシウムは出ていってしまいます。
 しかも今のカルシウムの摂取基準は、カルシウムの摂取量が増えれば基準も上がるという、ゼロ・カルシウムバランスという方法によっています。これが間違っています。
 昔の日本人、江戸時代から明治、戦前までを含めて、カルシウムの1日の摂取量は大体200〜400mg程度だったと思います。だからといって、歯が生えなかった、骨が弱かったということはない。足りなくなれば植物だって地中に根を3m、5mと伸ばしてカルシウムをとります。人間だってカルシウムが少なければ無駄なく吸収して、必要とすべきところに持っていくと思います。
 「日本人は他の栄養素は全て足りているけど、カルシウムは唯一足りない。だから、カルシウムをとらなくてはいけない」というのは、基準が間違っているからで、足りないわけではない。ちゃんと足りているんですよ。

エネルギーと、蛋白質は お米と大豆から

佐藤 日本人の生命線は米と大豆(表3)。それさえ十分確保できれば大丈夫なんです。
 エネルギーは基本的に、糖のエネルギーを使わないといろいろ問題が出てきます。脳も、心臓(心筋)も、副腎髄質も、赤血球なども唯一グルコースをエネルギー源としていますから、糖質(澱粉質)は重要です。肉を食べても糖質はほとんど補給されません。
 成長期や運動選手で筋肉線維を太くしたいという人はそれなりにアミノ酸や蛋白質が必要ですけれど、我々成長期を過ぎた者には量としては毎日20g程度のものではないでしょうか。
 アミノ酸をエネルギー源として使うようになりますと、クレアチニンが増えて腎臓に障害を与えます。特に糖尿病の人では腎臓の問題からも少な目が良いですね。
──「冷え性」の人に高蛋白食をとらせると体熱が上がるという実験をNHK「ためしてガッテン」でしていましたが…。
佐藤 蛋白質をとると体温が上がる、熱を産生するのは特異的動的作用(speci f ic dynamic action)といって、昔からいわれています。でも、それをやっていると危ない。1日や2日はいいけれど、そういう作用をもたらすためには高蛋白食、すなわち摂取エネルギーの30%ぐらいを蛋白質からとらないといけない。そんなことをやっていたら腎臓障害を起こします。
 体熱は主に筋肉細胞で産生しますから、冷え性の人は筋肉をつけるといいんです。私は高層ビルでもない限りエレベーターなどは使わない。自宅から職場までの30分も歩いています。
 植物蛋白にも含硫アミノ酸は含まれていますが、やはり動物性蛋白に多い。ファイトエストロゲン(植物性エストロゲン)の点からいっても、大豆蛋白の方がずっと良いと思います。骨粗鬆症や乳がんなどの予防に働くんですね。また、植物性カルシウムの方が、リンやマグネシウムとのバランス比が良いといわれています。
 私の毎日の食事は極めて簡単。朝と晩は、一汁一菜の玄米菜食。昼は家から海苔で包んだ玄米おにぎり。玄米には必ず、いろいろな豆を入れます。大豆にしたり、小豆にしたり、赤豆にしたり、世界中の豆を入れます。
 ただ、滋味に溢れてうまいんですけど、毎日やっていると楽しくない。だから1週間1回ハレの日をつくる。その時は飲めや歌えで、魚が主ですが、2週間に1回くらいは肉も食うし、時にはチーズだって食べます。
 お蔭で、今の食生活にしてメタボリックシンドロームとは全く無縁の健康生活を送っています。