生命の根源「アミノ酸」が健康の鍵を握る

──脳の健康と アミノ酸──

京橋三條クリニック院長 三條健昌先生

肝性脳症の画期的治療から生まれた、今日のアミノ酸ブーム

 21世紀に入って、最も注目されている栄養素がアミノ酸といわれています。いち早く注目された筋力アップやスタミナアップ効果に次いで、ダイエットや美肌効果、最近は、脳の活性効果や免疫効果などでも注目されています。
 このアミノ酸ブームを作った仕掛け人が京橋三條クリニック院長の三條健昌先生です。
 三條先生は25年以上前、肝臓の働きが悪化し、アンモニアが多くなって昏睡に至る「肝性脳症」に対して、各種のアミノ酸を組み合わせて代謝を良くすることでアンモニア除去に成功されました。
 以来、アミノ酸の研究に取り組まれ、アミノ酸を用いて治療にあたられる中、「死ぬまでイキイキと活力的に過ごすために、アミノ酸は絶対不可欠なものである」ことを日々痛感されています。
 三條先生に、数多くあるアミノ酸の健康効果のうち、「脳」に的を絞って、アミノ酸のお話をうかがいました。

 アミノ酸は生命の根源
  タンパク質とアミノ酸
  〜人体は20種類のアミノ酸 でできている〜

三條 人間をはじめ、地球上のあらゆる生物はタンパク質で構成されています。そのタンパク質をつくる最小単位がアミノ酸です。従って、アミノ酸は例えば竹にもトマトにも存在し、竹をエサとするパンダは竹の中のアミノ酸を材料に、あの大きな体をつくっているわけですね。
 自然界に存在するアミノ酸は現在約500種が確認され、人間の体はそのうちのわずか20種のアミノ酸で構成されています(表1)。20種のアミノ酸は、DNA(遺伝子情報)をもとに、数個から数万個と複雑に結合して筋肉、骨、脳、内臓、中枢神経、血液、ホルモン、皮膚や髪や爪をつくり、さらに、遺伝子自体も、細胞の一つ一つも、代謝を担う酵素も、アミノ酸からつくられています。
 アミノ酸がなければ生命は存在せず、まさにアミノ酸は「生命の根源」そのものともいえる重要な物質です。

 体をつくるのも、 機能させるのもアミノ酸

三條 人体を構成する20種のアミノ酸のうち、他のアミノ酸や脂肪、糖などを材料に体の中でつくられる11種を「非必須アミノ酸」、体の中ではつくることができず、食物から補う必要のある9種類を「必須アミノ酸」といいます(表1)。
 全身にある約60兆個の細胞は新陳代謝によって、1日で約1兆個、1ヶ月で半分近くが入れかわります。その細胞の原料となるアミノ酸が体内に十分にないと、元気な細胞は再生されません。
 また、アミノ酸は体をつくるだけではなく、一つ一つが独自の働きを持ち(表1)、さらに組み合わせによってさまざまな働きを持ちます。つまり、体をつくるのも、それを機能させるのもアミノ酸なのです。

 脳とアミノ酸

  脳の働き
 〜「可塑性」と「長期増強」〜
三條 脳においてもアミノ酸は非常に深く関わっています。アミノ酸は神経細胞やDNA、神経伝達物質の材料になり、脳の神経活動全体を円滑に統括するのに大きく貢献しています。
 人間の脳(大脳)は、神経細胞(ニューロン)と、グリア細胞、毛細血管からできています(図1)。
 このうち、脳の機能の主役となるのが神経細胞です。神経細胞は20歳を過ぎたあたりから1日に約10万個ずつ減り、60歳頃には若い頃の約5分の4に減ってしまい、それに伴って記憶力など脳の機能は低下していきます。しかし、脳梗塞などで一部の神経細胞がやられても、リハビリで機能が回復するように、脳には補充機能(可塑性)があり、機能の回復は可能です。
 神経細胞はそれ自体では機能せず、神経細胞同士が結びついて、巨大なネットワークを形成することで、学習や記憶、運動の制御といった機能を発揮しています。
 この細胞間のネットワークは、神経細胞の樹状突起(入力部分)が外部からの刺激(情報)を受け取り、神経細胞内で電気信号(パルス)に変換され、電気信号が軸索を通って軸索末端のシナプスに達すると神経伝達物質を放出し、この神経伝達物質を次の神経細胞が受け取ることで情報を伝達しています(図2)。
 神経突起(軸索と樹状突起)は脳を使わないと次第に崩壊し、逆に脳を使うと発芽・再生します。こうした働きによって、いったんできたシナプスが消滅しても、新たなシナプスを形成して機能を回復できることがわかっています。つまり、シナプスは学習記憶によって、できたりも消えたりもするわけです。つまり、脳には「可塑性」があるということです。
 また、シナプスはかなり集中的にパルスを与えると、ポテンシャル(保存性)が持続して、刺激をやめてもずっと残ることもわかっています。これは脳の「長期増強」と呼ばれます。

 脳の活性化と ブレーンアミノ酸

三條 神経細胞が加齢で減っていくのは仕方ありませんが、減っていく分は、脳をフルに使って、刺激することが、発芽や可塑性、長期増強を促して、脳を衰えさせない一番の秘訣となります。50歳を過ぎたら、もっといえば、人間は30歳で峠を越すといいますから、そのあたりから若者以上に、読書、会話、書く、運動するなど、脳を一生懸命使わないとダメだと思います。
 認知症になったり、脳梗塞などで脳の一部が麻痺したら、長期増強における脳のインパルスと同じような、かなり速度をつけた、運動なり、会話なり、読書を進めることが大切だと思います。
 実は私は脳出血で右半身麻痺になり、書くことも歩くこともできなくなったのですが、自分で強力にリハビリをして、今はカルテも右手でしっかり書けます。パソコンを使わないで手で書くのは、神経突起の発芽を促すので認知症の予防になるのです。
 リハビリは、脳の可塑性とか長期増強をうまく利用することが効果を上げるコツです。私の場合は例えば、毎日必ず行くトイレなどにグリップを置いて、グリップを握り締めながらガチャガチャ何百回と手を強力に振りました。このようなパルス的な運動が、神経突起の発芽を促すのです。
 それと同時に、食べ物で必要なアミノ酸をしっかりとること。特にイソロイシン、チロシン、アルギニン、フェニルアラニン、グルタミン酸の5つのアミノ酸は「ブレーンアミノ酸」と呼ばれ、脳を守るために容易には脳に物質を入れない「血液脳関門」(図1キャプション参照)もスムーズに通過して(グルタミン酸を除いて)、脳をダイレクトに活性化してくれます(表2)。
  神経伝達物質とアミノ酸
 
三條 神経細胞間でのさまざまな情報伝達(シナプス伝達)を担っているのが「神経伝達物質」です(図2)。
 神経伝達物質は、アルギニンやグルタミン酸、ギャバ(γ─アミノ酪酸)などのアミノ酸そのもの、また、アミノ酸を原料に神経細胞がつくるアミン類、アミノ酸が数個結合したペプチドなどであることがわかっています(表3)。
 脳の情報伝達は、興奮と抑制がバランスを保つことで成り立っています。「興奮・覚醒」にはグルタミン酸や、ドーパミン(チロシンからつくられる)、「抑制・鎮静」にはギャバ(グルタミン酸からつくられる)や、セロトニン(トリプトファンからつくられる)などの神経伝達物質が特に重要になります。
 これらの神経伝達物質は、「学習記憶」においても重要です。学習中の脳内(記憶中枢の海馬)ではドーパミンが増えており、ドーパミンの神経系を壊すと学習能力がなくなることが、また、セロトニンが欠乏すると学習能力が低下するなどのことがわかっています。
 また、ギャバは脳の血流をよくし、酸素供給量を高め、初期の認知症の人の脳では減少していることがわかっており、脳内のアセチルコリン(セリンからつくられる)の不足はアルツハイマー病と関連があるとされています。
 脳の健康には、他の栄養素も
     バランスよく摂取
 
三條 もちろん脳のエネルギー源はブドウ糖ですからブドウ糖も必要です。細胞膜や核膜には脂質も必要です。
 ですから、三大栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂肪、さらに、代謝に必要なビタミン類、ミネラル類もバランスよくとることが必要です。

アミノ酸の効果的な摂り方
過不足なく摂取

三條 ではアミノ酸はどのように摂取すればよいのか。
 車やパソコンの部品は一つでも欠ければ機能しないように、人体に必要なアミノ酸が一つでも不足すれば体はたちまち不調をきたし、全く欠けてしまえば生きていくことすら不可能です。
 アミノ酸は1種類でも量が少ないと、他のアミノ酸は少ない方に水準を合わせてしまう性質があります(図3)。「必須アミノ酸」は当然のこと、自力でつくれる「非必須アミノ酸」も加齢と共に体内での合成量は減っていくので、健康に生きていく上では、人体に必要な20種のアミノ酸をバランスよく摂取し、体内に十分に備えておくことが大切です。
 20種のアミノ酸を過不足なく体にとり入れるには、魚や肉、大豆製品など、まずは必須アミノ酸バランスがよく、かつ豊富に含まれている食品をしっかりとること。さらに、穀類や野菜などいろいろな食品をバランスよくとることです。ちなみに、100グラム中に含まれるタンパク質量の多い食品としておすすめなのは、高野豆腐や湯葉などの大豆食品です。
 タンパク質は
  1食20〜30gを目安に
三條 タンパク質の所要量は、成人男性で1日約70g、女性は55gとなっています。しかし、脳を活性化させる量としては、最低でも男性で1日80g、女性は72g程度を目安に摂取するとよいと思います。
 タンパク質を1日70〜80gとるには、朝食・昼食・夕食に各20〜30gと均等に分けて食べることが大事です。アミノ酸効果は、食事の3〜4時間後に発揮されますから、均等に分けて食べることが、1日のスタミナ配分としても効果的です。特に、学生や働き盛りの人は、朝と昼にやや多めにとるとよいでしょう。
 一度に大量にとったり、体にいいからと過剰にとるのは、腎臓や消化器官に負担をかけることにもなります。

脂肪の少ないヘルシー食品で アミノ酸の摂取

三條 ブレーンアミノ酸を多く含む食品を表(表4)にあげました。これらの食品は他のアミノ酸類も多く含んでいます。
 豆類、大豆製品、種実類はアミノ酸だけでなく、ビタミンやミネラル、抗酸化成分も多く、コレステロールの少ないヘルシー食品です。
 特に、アミノ酸スコアがよく「畑の肉」ともいわれる大豆製品は、抗酸化作用のあるサポニンや更年期障害を軽くするイソフラボンが含まれています。高野豆腐、湯葉、きな粉、納豆などの大豆製品は、毎日摂取したい食品です。
 魚介類のEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は、血流改善や学習記憶効果もすぐれています。
 肉やバターなどの動物性食品は控えめにして、とる場合は、脂身の少ない赤身やヒレにするとよいでしょう。調理の際には、茹でる、蒸す、網焼きにするなど、脂肪分を落とす工夫をするとよいでしょう。

野菜もたっぷりと
ビタミンB6・C・Eで 吸収をよくする

三條 体内でアミノ酸が細胞をつくったり、酵素やホルモンの材料となって働くにはビタミンB6の助けが必要です。また、ビタミンCは、そうした化学反応を制御するのに非常に役立ちます。ビタミンEは末梢の循環をよくする働きがあり、アミノ酸が体のすみずみで機能するのを助けます。ですから、タンパク質はビタミンB6、ビタミンC、ビタミンEを含む食品(表5)とあわせてとるのが大事です。
 ビタミン類を多く含む野菜や果物もバランスよくとれば、栄養素全体のバランスもとれますし、もちろん野菜や果物からもアミノ酸がとれます。
 より効率のよい
  サプリメントでの摂取
三條 忙しくて食事ができないときや、疲れがとれないとき、また食が細かったり、消化吸収が衰えている場合は、数種類のアミノ酸が組み合わされたサプリメントの助けを借りるのも一考です。サプリメントは最新のバイオテクノロジーによって天然成分を原料にしてつくられているものが多く、安全性も高いといえます。
 食事からタンパク質をとると、消化酵素によってアミノ酸に分解され、小腸から吸収され血液にのって細胞へ届くまでに3〜4時間かかりますが、サプリメントは消化の必要がないため、約30分後には小腸で吸収され、すぐに血流にのって全身に運ばれ、すばやくアミノ酸効果を発揮します。食事と一緒にとるのがベストですが、空腹時なら20分程度で吸収されますから、大事な会議の前とか、スポーツの前後は、空腹時にとるのもよいでしょう。
 最近のサプリメントは、錠剤、粉末の他、液体やゼリータイプもあります。水分も一緒に補給したいときは液体、朝食代わりにはゼリータイプと使い分けるのもよいでしょう。