食の不安は自分で 防ぐ

食品を安全に 食べて、長生き健康!

増食品問題研究家 元東京都消費者センター試験研究室長
増尾 清先生

誰もができる、無理のない、継続可能な安全術を!

 不安がいっぱいの現代の食生活。食の安全は、行政や企業任せにはできず、自分で守らなければなりません。しかし、同じ問題でも不安情報と安全情報が錯綜し、100%の安全性を目指しても土台無理。では、こうした問題に対してどう向きあったらよいのか。
 40年間、食の安全問題に携わってこられた増尾清先生は、ご自身の体験を通して会得した、
・まずは買い方で防ぐ
・調理の下ごしらえで除毒
・栄養素の摂取で、除毒・解毒
・毒性に対する免疫体質づくり──の「確率的安全体系」を提案されています(図)。
 そのノウハウは、家庭で誰もが簡単にできる工夫で、食の安全性を高められるという定評があり、増尾先生ご自身、80歳とは思えぬ若さと健康でそのことを実証されています。
 「サリン事件以来、いつも濡れたタオルハンカチをビニール袋に入れて携帯し、異臭や火事に遭ったら、これを口にあてて自分だけ助かっちゃう。エゴイストの批判もあるけど、安全を確保するにはみんながエゴイストになればよい。しかも、自分でする安全対策は、完璧主義を目指さず、ちょっとした工夫で長く続けられることがポイント。食の安全も健康確保も同じで、これで私は120歳まで生きるつもり」と笑いを交えて語る増尾先生に、普段の生活の中で無理なくできる、実践的で継続的な、食の安全術、健康確保の心得を伺いました。

不安がいっぱいの 現代の食生活
〜自己防衛しなければ健康確保は難しい〜

増尾 農作物の残留農薬をはじめ、加工食品などへの添加物、遺伝子組み換え食品、食肉に残留する成長促進ホルモンや抗生物質、牛肉のBSE、鶏肉のVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)や卵のサルモネラ菌汚染、鳥インフルエンザウイルス、魚介類に残留する有機水銀やダイオキシン(どちらも魚介類が最大の摂取源)、養殖魚の抗生物質不安、その他、偽装表示などなど、現代の食生活は多くの不安をかかえています。
 これら食の安全問題は、「食べる人」、「つくる人」、「売る人」等、さまざまな立場の人が情報を発信するので、同じ問題でも不安情報と安全情報があり、どちらが正しいのかは、私にも明確ではありません。問題になり出してまだ歴史が新しすぎるのです。
 自己防衛についても、必要と考えるのも必要ないと考えるのも、個人の考えによりますが、私は自己防衛の努力は必要であり、食の不安が多い現代では、食への自己防衛力を身につけなければ、健康確保はむずかしいと考えています。
 それはなぜか。
 1955年〜70年にかけて起きた、森永ヒ素ミルク事件、水俣病事件、カネミ油症事件、植物油脂混入牛乳事件等から、40年近くたった最近の、牛乳中毒事件、BSE問題などにみられるのは、改善どころか、巧妙かつ劣悪化したかのようにみえる、一部企業の利益第一主義と、行政の企業優先、消費者保護軽視、危機意識の欠如です。
 食品添加物や農薬問題などについていえば、1960〜70年代にかけてが一番ひどく、その反省で70年代後半から80年代後半のバブル前までは、企業も行政も消費者の健康を担っているという自負をもっていました。しかし、金金金のバブル経済でモラルは地に落ち、バブルがはじけると今度はデフレで、安ければよいという時代になり、安くするためには質を落とし、添加物を入れざるを得ません。レトルト食品や市販の惣菜がおいしいのは、おいしくするための添加物(グルタミン酸主体の旨味調味料など)が入っているからです。特に保存料(ソル・br> rン酸カリウム等)を使うと味が一段と悪くなるので、甘くしたり、塩辛くしたり、旨味調味料を沢山入れて味をごまかすのです。
 食品添加物は、91年に国が全物質名表示にしたため、消費者はかえって安心し、表示をあまり見ず、それを企業が悪用しているという面もあります。例外も設け、食品添加物が複数の組み合わせで使われ、個々の成分を表示する必要性の低いもの(イーストフード、軟化剤、乳化剤等)は、用途名表示でよいという一括表示。キャリー・オーバー(持込み)添加物には、原材料に使われていた食品添加物を表示しなくてもよいという例外規定もあり、例えばカマボコのすり身に使われた魚にリン酸塩が使われていても、カマボコのラベルには表示されてい
ないという不安があります。
 遺伝子組み換え食品は、原材料の5%以下の混入であれば、「遺伝子組み換えでない」と表示できます。
 ダイオキシンは、EUでは食品ごとの基準値があり、魚は1グラム中最大レベル4ピコグラムを超えると市場には出せませんが、日本には基準がなく、輸入マグロには1グラム当り10ピコグラムを超すものもあります。
 農薬も、単一では心配なくても、2〜3種類を混合した場合は致死性や催奇形性が出てくる恐れがあります。
 さらに、現代の生活環境は大変多くの化学物質が存在し(表1)、それらが体内で一緒になった複合汚染の影響(表2)については、ほとんど調べられていません。
 このように、食の安全は、行政や企業に任せ切ることはできず、行政や企業に頼り切れない部分は、自己防衛で補うしかないのです。

食の安全は自分で確保
4つの確率的安全体系
安心と継続の鍵は "良い加減”

増尾 私が80年間健康で過ごしてきた体験から、食べる側の安全策は、「あの方法も、この方法もある」と幅広い考え方をする、偏らずバランスよく何でも食べ、身体が自然にもっている解毒効果を高める、十分な栄養と、笑いを忘れず、有害物質に負けない抵抗力をつくる体質づくり──が基本であり、これらの基本を継続してこそ健康確保が可能なのだと思います。
 いずれも一緒になって効果を生み、ほどほどにやってこそバランスが成り立ち、継続もしやすいわけです。
 こんな例があります。東京から富士山麓まで、放し飼いの鶏が生んだ抗生物質のない卵をマイカーで排気ガスを吸い、まき散らしながら買いに行く。抗菌剤による肝臓がんの危険は減っても、大気汚染を増長し、自分も排気ガスの吸いすぎで肺がんになるかもしれません。
 私自身がそうなんですが、例えば、真夏の暑い最中、夏祭りなどでたまには人工着色料の赤いシロップをかけたかき氷を食べてもいいではないですか。
 皮がむけないという理由で、例えば旬のほんの一時期に出るサクランボを絶対避けるなども、食が豊かな感性を育てる面からは考え物ですし、年に1〜2回食べたくらいでは安全性にも問題はないと思います。
 自衛策にはバランス、本来的な意味での、良い加減≠ェキーポイントですね。

1.安全な食品を選ぶ

増尾 最初のステップは、選び方で安全を高めます。この段階での安全防衛ウエイトは25%くらいとしました(4頁図)。購入時の経済的、労働的負担、また、食品表示への信頼度などを考慮すると、これくらいが妥当だと思います。
 表示は、原産地表示、トレイ・パック表示、店頭表示等がしっかりしている店を選び、加工食品は製造年月日まで表示されているものを選びます。
 野菜や果物は、産地表示は「○△県」だけでなく、「○△県○△町」あるいは「栽培者名」まで表示されているものは、責任の所在がはっきりしているとみることができます。今は残留農薬試験が各都道府県や各団体で数多く行なわれているので、このような野菜や果物は「いつ検査が行なわれてもOK」といっているようなもので、残留農薬の不安も少ないのです。山積みされている野菜、果物が多い店も、直接手にとって選べるのと、新鮮なものが多いのですすめられます。そして何より、農薬が少なくてすみ、栄養も豊富で、味も最もおいしい、旬
の国産のものを選ぶことです。
 肉は、「黒毛和牛」、「和牛」、
「黒豚」、「地鶏」等の「ブランド表示」は偽装表示等の不安もあり、「ブランド肉」表示が目立つ店はダメです。ブランド肉と同じくらい、通常の国産肉、輸入肉が並べられている店がすすめられます。
 魚介類は、解凍表示や養殖表示のものが目につくほど売られていて、狭い水域(○△沖等)の原産地表示のものが多く並んでいることが良いお店の条件です。また、アジ、イワシ、サバ、サケ、サンマ、タラ、トビウオ、マグロ、カツオ、ブリ等の回遊魚は(このうち、アジとブリは養殖魚の方が多いようですが)、群れをつくって季節ごとに移動するため、一ヵ所に留まっていない分、ダイオキシン等の汚染が少なく、安全性は比較的高いといわれます。一方、アナゴ、アマダイ、イシダイ、イカ、カレイ、カマス、キス、キンメダイ、タコ、クロダイ、
クルマエビ、サヨリ、サワラ、スズキ、タチウオ、メバル、ヒラメ、ボラ、ワカサギ等(うち、クルマエビ、ヒラメは養殖物と天然物が半々)の近海魚は、汚染の危険度が高く、漁獲水域表示は、「○△県産」や「○△港産」より、環境汚染地域かどうかがわかる、なるべく狭い地域のものを選ぶようにします。
 加工食については、なるべく食品添加物の少ないものを選び、たとえ表示が少なくても、表(表3)の添加物が表示されているものはなるべく避けます。遺伝子組み換え食品が混入していない加工食品を選ぶには、日本ではまだ遺伝子組み換えがほとんどされていないので、原料が国産のものを選ぶのがポイントです(表4)。

2.おばあちゃんの下ごしらえで除毒・解毒

増尾 第二のステップは、調理での下ごしらえで除毒。これによる安全防衛ウエイトは、私の独自調査や実験では、例えば茹でこぼしによる農薬除去率は、ある農薬は約90%、ある農薬は10%とバラつき、平均すると30〜40%くらいだったことなどから、15%程度に抑えました(4頁図)。
 1960年から70年代にかけて使用されていた豆腐のAF2(殺菌剤)や酒のサリチル酸(防腐剤)などの猛毒な添加物をとって、その割に日本人が元気でいられたのは、当時の食生活では有害物質を減らす調理法が行なわれていたからではないかと思います。
 そのことに思い当たったのは、東京都消費者センター試験研究室時代のテスト結果です。紅茶に入れたレモンから防カビ剤(TBZ)がどれだけ溶出するかを調べたところ、溶出量は予想以上でした。こうした物質は湯に浸出する、つまり、湯につければ除去できるわけです。これは伝統的な下ごしらえ(湯通し)に通じる手法だと気づき、私は同センターをやめた78年以降、わが家の小さな試験室で、調理の際の有害物質除去テストに取りかかりました。
 その結果わかったのは、明治、大正、昭和中期頃までのおばあちゃんやお母さんたちが、当り前のようにしていた「水洗い」「刻む」「皮をむく」「湯通し」「茹でこぼす」「湯むき」「酢洗い」等の調理の下ごしらえの基本には、いろいろな除毒のテクニックが入っていることでした。
 野菜や果物は、農薬やダイオキシンの大部分は表面か、表面下の油層(クチクラ層)に溶け込んで移動することが少ないとされていますから、水で洗う。特に流水につけてよく水洗いする。芋類や大根などの根菜類はタワシでこすり洗いし、キャベツやレタスは外葉を除くのが第一歩です。
 一部は、野菜や果物のクチクラ層に溶け込んで、水では洗い落とせません。そこで、皮をむく。トマトは湯むき。キュウリは塩をふって板ずりにすると、塩の浸透圧作用で水分が吸い出される時に、洗っただけでは除けない農薬やダイオキシンも一緒に出ます。
 ホウレンソウ、コマツナ等は、切ってから茹でこぼし、流水につけてアクを取って絞り、醤油をまぶしてまた絞ると、残留農薬などの約30%が取り除けます。
 野菜の化粧、漂白に使われるリン酸塩や亜硫酸塩等も、水洗い、アク抜き、茹でこぼすことで結構除かれます。
 肉類や魚類は、有機塩素系の、農薬、PCB、ダイオキシン等は脂肪にたまりやすいので、脂身や内臓(魚は頭やエラも)を取り除き、熱湯をかけて霜ふり、煮ながらアク取り。また、調味液や、醤油、味噌、酒粕に漬けるのも、環境汚染物質等を引き出す力が強く安心度が高まります。漬けた調味料は捨てます。魚は酢洗い(半分に薄めた酢に魚をくぐらせたり、洗ったりする)も効果的です。
 貝類は、環境汚染の不安大で、砂抜き、水洗いをしっかりします。カキは昔からの大根おろし洗い。大根おろしは、汚れだけでなく、環境汚染物質を引き出す力が強いのです。酢のものも安心料理ですが、環境汚染物質が溶け出している酢は飲まないことです。
 加工食品も、サッと湯通しすることで、添加物や余分な塩分や油分が抜け、味も良くなります。ハムやカマボコなどは薄くスライスしてから熱湯にくぐらせると、溶出面積が増すので、その分除毒効果も増します。

3.おばあちゃんの献立で解毒
〜活性酸素スカベンジャー
栄養素・成分の摂取〜

増尾 下ごしらえで除毒しても、一部の有害物質が残り、体内に入ってしまいます。
 第三ステップは、いろいろな栄養素の摂取で除毒・解毒することで、この安全防衛ウエイトは30%と少し高くしてあります(4頁図)。自分で努力すれば実行が可能で、必要な栄養素は簡単に手に入り、安全効果も比較的高いと推定できたからです。
 農薬、抗菌性物質、食品添加物、ダイオキシン等は、体内で活性酸素を生成し、過剰な活性酸素は老化や万病の元になります。下ごしらえでも除毒し切れなかった有害物質は、体内での活性酸素の発生に大きく関係していると考えられます。
 この活性酸素の害を減らす食事は、おばあちゃんの献立が威力を発揮することがわかりました。
 「削り節をかけたホウレンソウのお浸し・ゴマ和え」「里芋やじゃが芋の煮ころがし」「ふろふき大根」「南瓜・薩摩芋の甘辛煮」「切り干し大根とうす揚げの煮もの」「ヒジキと油揚げの煮もの」「湯豆腐」「炒り豆腐」「きんぴら牛蒡」「大豆と昆布の煮もの」「けんちん汁」「味噌汁」「菜飯」「鰯の生姜煮」等々、どの料理も活性酸素の除去・解毒に働くスカベンジャー栄養成分が豊富に含まれていたのです。
 スカベンジャーとは英語で掃除屋という意味ですが、まず体内でスカベンジャー酵素(SOD、CAT、GPO)を蛋白質と共につくるミネラル(マンガン、銅、亜鉛、鉄、セレン)や、スカベンジャービタミン(A、B2、C、E)、ポリフェノールやカロテノイドなどのスカベンジャー成分と、昔ながらの献立は、いろいろなスカベンジャー成分の宝庫だったのです。

免疫力アップ

増尾 最後に、安全体系の最終ステップとして、毒性に対する免疫力アップで安全を確保します。これによる安全防衛ウエイトは、第三ステップと同じ理由と、同時に、それまでの防衛策と重複している面が多いので20%くらいとしました(4頁図)。
 免疫力は年齢と共に衰え、またストレスによっても低下するので、食事と精神面の両方からバックアップします。
 免疫力をアップさせる食事術として、毎日次のこと、
・いろいろな食品をバランスよく食べる
・大豆・肉・魚などアミノ酸スコア100の食品のうち、1品
・ファイトケミカル(植物性生理活性物質で、活性酸素のスカベンジャー成分が多い)野菜の「アブラナ科」「ナス科」「ユリ科」「セリ科」「マメ科」の各科から2〜3品
免疫力を高める多糖類の多いキノコを1品
海藻・ヌルヌル野菜のうち1品
発酵食品のうち1品──などに留意します。
 ストレスを追い払うにはやはり「笑い」です。「笑い」は、自然免疫系でガンの殺し屋といわれるNK細胞を活性化します。
 食の安全性にすごく気を付けている先生方の中には比較的早死にの方が多い。なぜかと考えると、皆真面目一方で笑わない、発散しないんですね。無農薬、無添加の食材で、スカベンジャー料理とか免疫料理を中心に、食生活に気を付けている人の最大の欠点は、これで大丈夫だと思ってそれで終わり。笑いが少ない。食材に気を付けているから、大丈夫というのではないんですね。これが私の80年の長き人生から得た悟りです。