"納豆”は時代が要求する最高の「長寿食」・「解毒食」

――納豆のパワーは無尽蔵相次ぐ機能性・健康効果の発見――

倉敷芸術科学大学機能物質化学科 須見洋行教授

納豆が売れる時代とは…

 衰えるところを知らぬ勢いの納豆人気。豆やタレにこだわったいろいろの納豆が売り出され、納豆を混ぜるためのかき混ぜ棒まで登場しています。多様で優れた機能性からは、多くの健康食品や、最近では納豆を原料とする美容液や石鹸も生まれています。
 この納豆ブームのきっかけとなったのが、須見洋行先生が1980年代初頭に発見、86年に発表された「納豆の強力な血栓溶解作用」でした。折しも健康食として和食が世界的な評価を受け、中でも大豆の健康効果が注目される中、その大豆の優れた栄養価や健康効果が一段とパワーアップした納豆が人気を呼ぶのも道理です。
 機能性の研究も、須見先生を筆頭に国内外で大きな広がりをみせ、今も新たな機能性、健康効果が相次いで発見、報告されています。
 「納豆という神秘的な食品が持つ機能は、いくら研究しても尽きることがない」と語られる須見先生はその一方で、納豆がこれほど人気を呼んでいるのは「現代人が解毒食品の納豆を潜在的に要求している可能性も大きく、喜んでばかりもいられない時代」と警告されています。
 須見洋行先生に今回2度目のご登場を願って、納豆の最新情報を伺いました。

納豆は時代が要求する解毒食品・長寿食品

──先生が納豆の酵素「ナットウキナーゼ」の強力な血栓予防効果を発表されて以降、納豆人気は衰えを知らぬ勢いですね。
須見 納豆菌は100度でも死なないほど強い菌で、それが納豆1g中に10〜100億個もいて、それを生で、しかも1000年以上にわたって食べている食品は世界でもおそらく他にないと思います。その昔ながらの納豆菌を食べているという安心感と、健康への期待感、そして時代の要求というのがあるのでしょうね。
 私も納豆の研究を始めてかれこれ25年になりますが、まだまだ納豆の中には面白いものがどんどん見つかっています。
 納豆菌そのものが面白いですし、ナットウキナーゼもそうですが納豆菌が作る作用物質がいろいろあり、本体は未解明でも作用だけはわかっているものも沢山あって今、いろんな細胞や動物を使って実験しているところです。
 例えばヨーロッパやアメリカでは、納豆は放射能除去物質として有名で、チェルノブイリ事故の時は納豆や味噌がずいぶん向こうに持っていかれたといわれます。では納豆がどうやって放射能物質を除去するかは解明されていない。働きしかわかってないんですね。
 放射能物質に限らず、納豆は解毒効果が非常に高い。酒でも酢でも発酵食品には解毒効果がありますが、特に大豆の発酵物、味噌や納豆は一番強いんです。
 江戸時代の食べ物事典『本朝食鑑』にも、「納豆は食をすすめ毒を消す」と記載されています。昔は抗生物質などなかったですから、食中毒だけではなく、結核でも肺炎でも納豆くらいしかないという経験の中で、「納豆は毒を消す」という言葉が生まれ、かなり幅広く納豆の毒消し効果が用いられたと思います。特に昔の納豆は匂いもネバリも強く、活性も強かったですからね。
 実際、納豆菌は病原性大腸菌O157や胃がんの原因菌であるピロリ菌もかなり抑えますし、血栓溶解作用にしても血栓は一種の異物ですから、体内の異物を取り除くということでは広い意味での解毒の一つといえると思います。
──今、知らず知らずのうちにいろいろな毒物が体の中に入ってくる時代、普段から納豆を食べておくのは解毒力を高めるという意味でも重要ですね。
須見 そのへん大変重要だと思います。現代人は放射能物質や食中毒菌だけでなく、環境汚染化学物質など怪しいものがいっぱい体の中に入っていますから、そういう意味での解毒食品として、納豆は非常に信頼できるわけです。
 今あれだけ納豆が売れているのには、体が要求しているものを美味しく感じるという、人間の本能的な感覚があるのだろうと思います。裏返せば人間がちょっと危なくなっていて、本能的に納豆を食べたくなるような時代が来ているのかも知れませんね。
──長寿食としても世界的に注目されているそうですね。
須見 納豆は明治の初期に"ベジタブルチーズ”という名前で世界に紹介されています。その納豆は今、世界一長寿の日本人だけが食べている極めて神秘的な"薬餌”として関心が高まっています。
 日本でも食生活の欧米化や高齢化で、心筋梗塞や脳梗塞などの血管病が増え、胸と頭に起こる血栓症を合わせるとがんよりも多いですし、日本人に多い脳血管型の老人性痴呆症も血栓性の病気です。骨粗鬆症で寝たきりになる人も多い。
 納豆に含まれる血栓溶解酵素「ナットウキナーゼ」や、骨粗鬆症を防ぐ「ビタミンK2」などが日本人の長寿体質をささえてきたということで、健康長寿食として注目されているわけですね。

抜群の血栓溶解力
血管病予防のオールマイティ
世界の医師が注目する血栓溶解作用
──ロングフライト症候群・眼の血栓症──

──須見先生には本誌97年10月号(・286)でもナットウキナーゼを中心に納豆のお話を伺っていますが、その後どんな展開がありますか。
須見 一般の人が関心を持って、臨床でもだんだん取り上げざるを得なくなり、今いろんな試験がされています。その中でアメリカやイタリアの臨床医がナットウキナーゼの入ったサプリメント(栄養補助食品)で治験をとっているのが「ロングフライト症候群」です。
 長時間飛行機などで座り続けていると、特に脚の血行が悪くなり、脚の静脈にできた血栓(血の塊)が肺に飛んで、肺塞栓とか肺梗塞を起こして倒れる。乗客もですが、パイロット自身がその病気になりやすい。アメリカからはパイロット専門の医師が、ナットウキナーゼによるロングフライト症候群の効果を調べたいと私のところに来るんです。
 そこで約300例でいろいろデータをとってみたところ、長いこと座っていると足がむくむ「エデーマ」という状態が起こるのが、ナットキナーゼをとっていると、エデーマが非常に抑えられるという良いデータが出ています。
──臨床では、眼底の血栓症に素晴らしい効果があったと伺っていますね。
須見 初期の網膜中心静脈閉塞症に薬を用いず、納豆食で効果を上げている松山の別所眼科。
 眼底出血が出て急激に視力低下した男性に、毎夕納豆1パック(100g)を内服薬と止血剤の点滴と一緒に19日間とって、10日後には視力が快復し、退院後も1週間に2回納豆をとり続けて2ヶ月後には正常になったケース(鳥取大学医学部)。
 また、網膜動脈分枝閉塞症でも、納豆食で1週間後には改善がみられたという報告もあります。

薬並みの血栓溶解力
──ナットウキナーゼの二重に血栓を防ぐ効果──

──薬並みあるいは薬以上のナットウキナーゼの血栓溶解効果は、どういう作用からきているのでしょうか。
須見 血栓症には尿からとったウロキナーゼが血栓溶解剤として用いられ、納豆1g(3〜4粒)で通常処方の約1600IU(国際単位)のウロキナーゼに相当し、1パック(約100g)では発作直後の危篤状態に与えられる20〜30万IUにも相当します。
 しかもウロキナーゼは持続効果が4〜20分と短く、それで点滴注射するんですが、ナットウキナーゼは食後2時間で効果があらわれ、4時間をピークに8時間以上も持続します。これはナットウキナーゼが口から活性を持ったまま胃から腸に到達し、じっくり時間をかけて効果を発揮するからですね。これまで世界200種以上の食品を調べましたが、納豆ほど高い血栓溶解力を持つ食品は他にはありません。
 血液には血を固まりやすくする働き(凝固活性)と、血栓を溶かす働き(線維素溶解活性‖線溶活性)があり、それぞれに働く複数の酵素が産生され、ウロキナーゼも体の中で作られる血栓溶解酵素(線溶酵素)の一つです。
 血を固める働きと溶かす働きはうまくバランスをとって、体を防御しています。例えば怪我をしたり、動脈硬化や高血圧などで血管が切れると、フィブリノーゲン(線維素原)というタンパク質が、血小板や血液凝固に働く複数の酵素によって、血栓の本体であるフィブリンという不溶性のタンパク質(繊維素)に変わって止血し、血管を修復します。修復すると不要になった血栓(フィブリン血栓)は、プラスミンという人の体内では唯一、血栓を直接溶解する酵素によって分解されます(図1)。
 ナットウキナーゼはこのプラスミンに非常によく似た性質を持ち、血栓(フィブリン)を直接溶解するのです(図1)。
 また、プラスミンはプラスミノーゲンというタンパク質が、プロウロキナーゼから作られるウロキナーゼやt|PAの働きで活性化してプラスミンに変わるのですが、ナットウキナーゼにはこのプロウロキナーゼやt|PAの活性を高める働きもあります(図1)。
 つまり、ナットウキナーゼは、・直接、血栓を溶解する働きと、・他の線溶系を活性するという二重の働きで、血栓を強力に防止してくれるわけです。
 高齢になると、一連の血栓溶解系の酵素の産生が悪くなり、血が固まりやすくなります。血栓は内臓などの毛細血管にできることもあり、日本人に多い痔も局所的な血栓症の一つといえます。心筋梗塞や脳梗塞をはじめ、体のあちこちに起こり得る大小の血栓症の予防にも、ナットウキナーゼは大変注目されているわけです。

血液サラサラ効果で動脈硬化や高脂血症の予防

須見 また、最近の傾向として、血栓まではいかないけれど、納豆を食べ続けることで動脈硬化や高脂血症が改善されるというデータも増えています。
 納豆の匂い成分の一つピラジンや、納豆菌が作り出す抗菌物質のジピコリン酸、また、女性ホルモン様物質として最近話題の大豆のイソフラボンにも、血栓を作る元になる血小板の凝集を強く抑え、血液が固まるのを防いで血液をサラサラにする効果が最近わかっています(図2)。
 動脈硬化では"悪玉のLDLコレステロールの酸化”も問題になりますが、納豆のいろいろな抗酸化作用が血管の老化を防ぐ、つまり動脈硬化の予防に役立っていることはもちろんですね。

一番の効果は血圧低下作用予防薬への大きな期待

須見 納豆を食べ続けて一番よく聞かれるのは血圧が下がった、正常になったという効果です。臨床からも血圧の薬が不要になったなどの報告が多く出されています。
 大豆には体内で血圧を上げるアンジオテンシン変換酵素を抑える物質がありますが、この物質は大豆そのものより納豆の方がはるかに多いんですね。
──血栓だけではなく、納豆は血管病の予防に正にオールマイティなんですね。
須見 高血圧で一度薬を用いると一生薬漬けになって、血圧を下げると今度は血行が悪くなって痴呆症になったりということも考えられるわけです。
 日本では予防薬をはじめ、本当に良い薬がなかなか認められない一方で、アメリカの2・5倍くらいも薬漬けになっています。1人の患者が病院に行く回数も多いけれど、使われる薬の量もものすごい。昔は世界のモルモットだといわれたこともあります。
 これからは納豆をはじめ、予防専門に使われる食品がどんどん伸びていくと思います。

骨粗鬆症の予防効果
骨を強化するビタミンK2が断然多い

須見 臨床では納豆菌の作り出すビタミンK2(メナキノン7)も、骨粗鬆症との関係が注目され、いろいろ試験されています。骨にカルシウムが結合する際には、オステオカルシンというタンパク質が一種の糊の役目を果たしていますが、オステオカルシンを作るのにビタミンK2は必須なんですね。
 疫学調査では、・納豆を食べない人は納豆を食べる人より、また・60歳以上の骨粗鬆症患者はそうでない人よりも、血中のビタミンK2濃度が低いことがわかっています(表1・表2)。
 ビタミンK2は微生物が作り出すビタミンで、食品では圧倒的に納豆に多く、他の食品の何百倍も多く含まれています(14頁・表5)。また、腸内でも腸内細菌がビタミンK2を作っています。高齢になったり、抗菌剤(抗生物質)を飲んだりしますと、腸内細菌が弱ってきてK2の量が減るわけです。
 逆に納豆をとっていると、納豆中のビタミンK2や、腸内でK2を生産する菌として納豆菌を利用することで、骨粗鬆症が予防できるわけです。
──ビタミンKには血液凝固の働きもあるそうですが。
須見 血液凝固にはいろいろな要因が働き、ビタミンKもその一つですが、いくらビタミンKをとってもこれが原因で血栓ができやすくなるという心配はありません。血栓症の予防には血栓溶解力が十分にあるかないかが問題なのです。
 私達の実験では納豆をとると2〜4時間後をピークに血中のビタミンK2濃度が高まり、その効果はかなり長時間続き、中でも100g食べた場合は48時間後でも食べる前の9倍以上の濃度を示しました(表3)。さらに、血液凝固|線溶系に変化はみられませんでした。
 ただ、ワーファリンという血栓予防薬を飲んでいる人は、ビタミンKが薬の効果を抑えてしまうので納豆との併用はよくありません。逆に、ワーファリンを飲んでいる人には骨粗鬆症が多いという報告もあり、私自身は血栓予防にはワーファリンより納豆食をおすすめします。

他にもある骨粗鬆症の予防成分

須見 女性ホルモン様物質のイソフラボンも、閉経後の女性の骨粗鬆症の予防にも役立ちます。女性ホルモンは骨から過剰にカルシウムが溶け出すのを防ぐんですね。
 また大豆タンパクは牛乳タンパク(カゼイン)より、カルシウムの尿中排泄が低いことも指摘されています。牛乳にはリン酸が多く、小腸でリン酸がカルシウムと結合すると不溶性になって、カルシウムが尿に多く排泄されると考えられています。
 納豆菌が大豆のタンパク質を分解して作り出す、納豆のうま味の元となっているポリグルタミン酸(アミノ酸)が、カルシウムの吸収を助けることも最近の研究でわかっています。
 納豆には骨の主要な基材であるタンパク質やカルシウムも豊富に含まれていますから、納豆は骨粗鬆症の予防にかなり期待できると思います。
 納豆の広範な解毒作用抗菌・溶菌作用──O157では納豆のジピコリン酸が増殖を抑えるということでしたね。
須見 そうです。ジピコリン酸には抗菌作用の他に抗放射能活性もあることがわかっています。ジピコリン酸は熱にも強く、昔は海軍が抗生物質代わりとして納豆を研究していました。
 納豆菌には胃潰瘍や胃がんの原因菌のピロリ菌の殺菌効果もあります(図3)。
 解毒に働く物質では納豆には、リゾチームという溶菌酵素があることが最近わかりました。リゾチームは細菌の細胞壁を分解する働きがあり、人には涙や唾液、鼻汁などいろいろなところにあります。風邪を引くと鼻水が出るのは殺菌のためにリゾチーム量が増えるという意味もあります。これまで納豆のリゾチームが見つからなかったのは熱に弱く、PH6で安定するという、酸にもアルカリにも弱い物質だからだと思います。 

プロバイオティクスであり
プレバイオティクスの納豆
──腸内の悪玉菌を抑え乳酸菌を強力に増やす──

──納豆菌は乳酸菌を増やす効果が大変強いとか。
須見 納豆菌があると乳酸菌が増えるのは確かです。例えば、クロレラや乳酸菌を増やすのにわざわざ納豆菌を入れたりするんです。
 人間の腸においても同じです。乳酸菌はあまり生命力が強くなく、お腹の中で乳酸菌を増やそうとしていくら乳酸菌製剤を飲んでもなかなか増えない。そこへ納豆を入れると乳酸菌が増える。そうしたデータが最近増えてきました(図4)。
 乳酸菌と納豆菌が同時に存在すると乳酸菌の増殖率が条件によっては1桁くらい増えます。だから、納豆と漬け物を一緒に食べたり、キムチに納豆を混ぜたりするのは理にかなっています。
 生きたまま腸内に到達し、・腸内細菌のバランスを改善して有益な作用を与える菌は「プロバイオティクス」、・腸内の有用菌のエサとなって増殖させる働きのあるものは「プレバイオティクス」といわれますが、納豆にはその両方の働きがあるわけです。
 こうした働きは単なる整腸効果だけではなく、腸内の細菌をちゃんと育てていれば、体に必要なビタミンも作ってくれます。ビタミンK2もそうですね。

活性酸素を除去しがんやアレルギーを抑え、免疫力を高める

──万病の元といわれる活性酸素を解毒する抗酸化作用については?
須見 大豆のイソフラボンには、穏やかな女性ホルモン様作用と共に抗酸化作用があります。これも大豆でとるより、大豆を発酵した納豆でとる方が吸収率も活性も高まることがわかっています。
 アメリカは日本の15倍くらい前立腺がんが多いといわれ、日本でも最近急増していますが、前立腺がんや乳がんの予防にも納豆が注目されています。
 女性ホルモン療法では乳がんになる率が高くなるといわれていますが、イソフラボンは人間由来の女性ホルモンを抑えてくれる作用があるといわれています。一方、男性の前立腺がんには女性ホルモンが効くといわれ、イソフラボンの女性ホルモン様作用や抗酸化作用ががん予防に大変注目されているわけです。
 納豆独自の抗がん作用については、金沢大学の亀田教授がマウス実験で確かめています。有効成分の本体や、人への効果はまだ不明ですが、納豆の抗がん作用は、大豆の持つ抗酸化作用と納豆菌の抗がん作用とあいまって、原料の大豆より強力であることが予想されます。
 抗酸化作用では納豆菌が作り出す「カタラーゼ」も活性酸素に対する消去酵素の一つですし、納豆菌が作り出す抗酸化物質には他にもいろいろあって目下研究中です。
 納豆の抗酸化作用では、最近、アレルギーなどの炎症の元になるヒスタミンを抑制する抗炎症作用とか、アレルギー抑制作用などの研究も盛んです。納豆にはかなり強い抗ヒスタミン効果があるのでジンマシンにも期待できますね。
 納豆菌には免疫の働きをよくする働きもあると思われます。魚のうろこにカビが生えたりする皮膚病があって、納豆菌を食べさせるときれいになるんですね。皮膚は免疫を一番あらわす部位で、おそらく人間にとっても皮膚がきれいになる効果があると思います。
 実際、納豆を使った化粧品が売られ始めていますね。美肌ということでは納豆の血液サラサラ効果もあると思います。

アルコールも解毒

須見 納豆はお酒を飲んだ後にアルコール濃度を下げたり、アルコール分解物で猛毒のアセトアルデヒドを早く分解して排泄してくれます(表4)。
 酒をよく飲む人は納豆をよく食べますが、理にかなっていますね。

日本人に最も適した最高の長寿食
畑のチーズ「納豆」
──大豆を上回る栄養価
消化吸収力も抜群──

――機能性だけではなく、納豆は栄養的にも元の大豆より数段優れているといわれますね。
須見 大豆は長い間日本人の貴重なタンパク源だったわけですが、その他にもビタミンBやE、必須脂肪酸のリノール酸、神経伝達物質アセチルコリンを作るレシチン、抗酸化作用に優れているサポニンなど体に有効な成分が豊富に含まれています。
 納豆はこうした大豆の栄養が全て含まれているだけでなく、大豆が納豆菌によって発酵されると、タンパク質などが分解されて、吸収率がグンと高まって栄養効率が非常に良くなる上に、納豆菌の介在によって、ビタミンの含有量が高まったり、新たに生成もされます(表5・6)。ビタミンBが大豆の約5倍以上も多く含まれていることは知られていますが(表5)、最近発見されたPQQという新しいビタミンもB群の一つで、これがやはり納豆に多いんです(表6)。
 さらに、納豆はナットウキナーゼだけではなく、生体内でさまざまな働きをする酵素を多種類合成します。タンパク質を分解するプロテアーゼ、澱粉を分解するアミラーゼをはじめ、繊維質を糖に変えるセルラーゼ、ショ糖をブドウ糖に変えるサッカラーゼ、尿素をアンモニアにするウレアーゼなど多くの分解酵素を含んでいます(表6)。これらの酵素の多くは消化を助け、大豆自身の消化を良くするだけでなく(表7)、一緒にとった食物の消化も助けてくれる、まさにスーパー発酵食品ともいえる酵素の宝庫となっています。

1日1パックの納豆で健康長寿

──最後に、解毒食、長寿食として、効果が期待できる納豆のとり方をお願いします。
須見 ナットウキナーゼは納豆100gで心筋梗塞発作直後に与えられるウロキナーゼ20〜30万単位の血栓予防効果があります。血栓は早朝にできやすいので血栓予防には夜とるといいですね。
 ビタミンK2は1日体重1kgあたり1μg(マイクログラム)とればいいといわれています。納豆100g中には約1000μgのビタミンK2を含みますから、体重60kgの人は納豆10gで十分なわけです。腸内細菌が弱っている高齢者も納豆1パック(50g〜100g)で十分補給できるわけです。
 イソフラボンは納豆100g中約50mg含まれ、これはアメリカで推奨されている前立腺がんや乳がん予防のための必要量になっています。1パック50gなら朝晩とるといいですね。
 食べ方としては生が一番です。納豆にはナットウキナーゼをはじめ、納豆菌が作る沢山の酵素が含まれていますが、これらは熱に弱いんですね。緑の野菜やネギ類などを一緒に加えれば血液サラサラ効果もグンと増しますし、納豆に足りない栄養素のビタミンAやCも補えます。
──先生ご自身は?
須見 最低でも朝と夕方パック1つは食べます。人にすすめているからだけではなく、美味しいんですね。やはり一種の解毒を体が要求しているのでしょう。

納豆の善し悪しは豆の善し悪しで決まる

須見 納豆も豆を選ぶことが最も重要です。
 納豆菌が煮た大豆に付いてきれいに発酵する率と発芽率は非常に関係があります。微生物の方が感度が良いもんだから、元気でうまいものに取り付くんですね。それで良い納豆ができるんです。
 発芽率の良いものは、抗菌性とか抗酸化性が良いから納豆造りに良い状態が守られているわけですね。100個のうち何%発芽するか。98%ならいいけれど70%を切ったら駄目だとか、我々は食べても味がわからないけれど、微生物にはわかるんですね。
 そういう意味でも国産の良い豆から作られた納豆をおすすめします。