糖尿病ではなぜ運動が必要か

運動は、インスリンの感受性を高める――食後のウォーキングが有効――

名古屋大学総合保健体育科学センター 佐藤祐造教授

運動は、インスリンの感受性を良くする

 日本人の糖尿病の大多数を占める2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)は、遺伝的な素因に食べ過ぎと運動不足が加わると発症する典型的な生活習慣病です。
 必然的に、予防と改善には、食事改善と継続的な運動が不可欠となります。
 名古屋大学附属病院第三内科で30年以上にわたって糖尿病外来を担当してこられた佐藤祐造教授は、その間、スウェーデンカロリンスカ研究所に留学され、帰国後、トレーニングによるインスリン感受性の改善を測定する方法ではゴールデンスタンダードといわれる「グルコースクランプ法」を日本に初めて導入。糖尿病と肥満と運動トレーニングのオリジナルデータを集め、糖尿病の運動療法では日本で指導的な役割を果たされています。
 佐藤先生に、糖尿病ではなぜ運動療法が必要なのか、なぜ運動するとインスリンの効きが良くなるのか、効果的で無理のない運動方法など、糖尿病の運動療法について伺いました。

 健康・長寿食こそ最高の糖尿病食
複合糖質(炭水化物)が少なく脂質が多いと、糖尿病になりやすい

――日本人の糖尿病の大多数を占める2型糖尿病では、食事療法と運動療法が改善の二大ポイントといわれていま
すが、今日はそのうちの運動療法について、その方面で指導的な役割をされておられる佐藤先生にお教えいただければと思います。
 運動の話に入る前に、現在の糖尿病の激増についてはどうお考えですか。
佐藤 糖尿病が現在大変増えている背景には、食生活の欧米化で肉や砂糖をとり過ぎていることと、体を動かさなくなったことがあると思います。
 糖尿病になりやすい食事は、
・総エネルギー(総摂取カロリー)が多い、・砂糖(庶糖)が多く、複合糖質(穀類・芋類・豆類などの炭水化物)が少ない、・動物性脂肪・動物性蛋白質が多い食事で、その反対が、糖尿病になりにくい食事となります(表)。
――糖尿病ではまずは食事制限つまりカロリー制限がいわれますが、昭和25年の厚生省の統計では総摂取カロリーは平均2000キロカロリーで糖尿病は700人に1人。ところが現在でも総摂取カロリーは平均2100キロカロリーと大差ないのに、糖尿病は予備軍も含めると7人に1人、高齢者では4人に1人とものすごく増えています。
 本誌では、食事は量を極端に制限するより、麦飯に納豆、野菜や芋、海藻など具沢山の味噌汁を基本に、良く噛んで食べることを提言しています。二分搗きの米に大麦や雑穀と豆類を取り合せれば蛋白質もアミノ酸スコアを満たせますし、脂質も油は極力控えて穀類や豆、胡麻などからとろうといっているのですが、これはどうでしょうか。
佐藤 それは絶対正しいです。長寿村、短命村を実証的に調べられた近藤正二先生が研究された結果からご自身も、穀物と豆、野菜がベースの食事を実践しておられましたね。
 岡山大学の山吹先生もおっしゃっていますが、糖尿病の食事は本来健康長寿のための食生活、すなわち「過食を避け、腹八分で、偏食せず、毎日規則正しく」という食生活と一致しているのです。
 しかし、食事は多くの日本人にとって人生の大事な楽しみの一つとなっていますから、粗食であればいいというものでもない。昭和25年頃は糖尿病が少なかったといっても、その頃の食事は本当に貧しく不味いですね。それを今の人にあてはめるのは無理であって、食生活は食事の楽しみも考慮して美味しくなおかつ、動物性蛋白、動物性脂肪、砂糖類のとり過ぎを減らすという方向にいかないといけないと思います。
 具体的には、量的にはある程度減らし、質的には特に高脂肪食と甘いものに気をつけ、動物性蛋白と動物性脂肪は必要最低限に、複合糖質は白米ご飯に偏らず芋、豆、雑穀をとり混ぜてある程度しっかりとり、野菜も種類と量を出来るだけとるように努めることだと思います。
――美味しさを追及するとどうしても、甘いものや、高脂肪・高蛋白の肉や乳製品、揚げ物などの油っこいものになりませんか。
佐藤 そうとも限りません。
 動物性のものは白身魚の刺し身、鶏のささ身、肉もしゃぶしゃぶにして脂肪を落とすとか、そういうとり方をすれば、美味しくなおかつ低脂肪になります。
 糖質はやはり複合糖質にしないといけないと思います。砂糖、果糖、蜂蜜などの単純糖質は吸収が早く血糖を急上昇させるので糖尿病の危険性が増えますから、砂糖や果物はできるだけ控えて、ある程度甘味が欲しいならノンカロリーの甘味料を上手に利用して工夫すると良いと思います。
――現代の日本人は、美味しいものを食べるのが生きがいになっている人が多いですからね。
 先生はスウェーデンに留学されていたそうですが、食生活はどうでしたか。
佐藤 スウェーデン人は食べ物はまずくても良いんですよ。彼らは家を造るとか、別荘を建てて美しい自然の中で余暇を楽しむということに価値観を見出すんですね。
 ですから食事は、お世辞にも美味しいとは言えない牛乳とかヨーグルトにパンが中心で、乳製品を受けつけない僕は昼にたまにスウェーデン食を食べればすぐに下痢してしまい、夜はいつも和食党で、お前は「ジキルとハイド」かといわれましたよ。
 栄養面からみると非常にカロリーの高い食事です。高カロリーでないと寒さに対応しきれないのかも知れませんね。

運動療法はなぜ必要か
"インスリン抵抗性”の改善 ――インスリンの感受性を良くする――

――さて運動療法ですが、糖尿病ではなぜ運動が不可欠なのですか。
佐藤 糖尿病で運動療法は、「インスリン抵抗性」という言葉がキーワードの一つになっています。
 日本人に多いインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)で一番問題になるのは、インスリンの感受性(効き)の低下です。インスリンの感受性が低下した状態を「インスリン抵抗性」と呼びますが、そのインスリン抵抗性を改善させるのには食事療法と同時に、運動トレーニングが必要なのです。
 糖尿病は二つのタイプに分けられ、インスリンを分泌する膵臓のベータ細胞が破壊されてしまう1型(インスリン依存型糖尿病)と、ベータ細胞は破壊されないでインスリンは分泌されているのに、筋肉や脂肪という末梢組織のインスリンの感受性が低下して、次第にインスリンの分泌が低下していく2型があります。
 この2型の初期では、インスリンは血糖値を正常に保つために、普通の人より多く分泌(高インスリン血症)されています(P9図2)。
 そうすると、ベータ細胞に負担がかかり、次第にインスリンの分泌が低下して、最後はインスリンが分泌されなくなってしまうわけです。
 ですから、2型糖尿病ではインスリンの感受性を高めることが重要になります。インスリンの感受性が良くなれば、少量のインスリンで効率良く食べ物を栄養として処理できますし、インスリンを分泌するベータ細胞の負担も軽くなり、その結果、長年にわたってインスリンの分泌能力が正常に近い状態に保たれ、正常な代謝を維持できるようになるのです。
――インスリンがいっぱい出ているのに糖尿病になるのは、インスリン抵抗性があるからで、この改善に運動療法が有効ということですね。
佐藤 そういうことです。適度な運動を続けると、筋肉や脂肪組織など末梢組織でのインスリンの抵抗性が改善されることが証明されています(図1)。
 従って、インスリンが十分分泌されている初期から、食事療法とともに運動療法を行なうことが、糖尿病の予防や血糖コントロールを良好に保つ上で非常に有効になるわけです。 

糖の、筋肉細胞へのとり込みを促す

――運動すると、なぜインスリンの抵抗性が改善されるのですか。
佐藤 ブドウ糖が筋肉細胞に入る時には、筋肉細胞の中にある糖輸送体の一つ「グルコーストランスポーター4(GLT4)」がインスリンの刺激で細胞膜上に浮き上がって、ブドウ糖が細胞内に通過できるようにします。
 GLT4は運動によっても浮かび上がってくるので、運動をすればするほど少量のインスリンで、糖の代謝回路が効率よく回って行くわけです。
 運動はまた、GLT4の数も増やしますし、同時にGLT4の蛋白量も増やして、より沢山のブドウ糖を筋肉細胞の細胞膜を通過させて細胞内にとり込むのに役立ちます。

インスリン抵抗性をもたらす"体脂肪”を減らす

――糖尿病で運動は、摂取カロリーを運動で消費して肥満を防ぐという目的もいわれますね。
佐藤 肥満は糖尿病の要因の一つですが、太るとなぜ糖尿病になるかというのは体脂肪が多いからです。脂肪細胞に脂肪の量が多いと、インスリンの感受性が悪くなるんですね。
 ですから、食事制限だけでも体重は減りますが、それだけでは体脂肪はあまり減らず、むしろ筋肉が減ったりしてインスリンの感受性は良くならない。
 例えば、同じ人が、・運動せずに食事制限で体重を維持したり減量するのと、・もう少し沢山食べて運動をするのとでは、・の方がインスリンの感受性は良くなります(図1)。ですから、食べ物からとったエネルギーは、運動で消費しないといけないんですね。
 運動はインスリンの感受性を良くするだけではなく、脂質代謝にも良い影響が出て、高脂血症や、高血圧、最終的には動脈硬化など糖尿病を促進したり合併症にもなって糖尿病と悪循環的にリンクしている生活習慣病(成人病)の予防になります(図2)。
 一方、運動しないで食事制限だけで肥満を予防しても、こうした生活習慣病の予防にはあまり役立たないだけではなく、むしろ安静にするとインスリンの感受性も低下するし、基礎体力や免疫力などいろいろな意味で体力の低下を引き起こします。

インスリン抵抗性に関わる肥満症・高血圧・高脂血症・動脈硬化も予防

――運動の効果は、適切な運動によってインスリン抵抗性が減り、インスリンの感受性が良くなって筋肉細胞の中にブドウ糖がスムーズに入るようになり、GLT4も運動によって増えてどんどんブドウ糖を燃やす、そうすれば血糖値が下がって、良好な代謝を維持できると理解してよろしいですか。
佐藤 はい。そういうことです。
 2型の糖尿病は遺伝的な素因に加えて、食べ過ぎや運動不足でインスリン抵抗性が出てきます。つまり、肥満するとインスリン抵抗性が出てくるわけですね。
 そういう場合、普通の人ではインスリンが余分に出る。しかし、インスリン抵抗性があってインスリンの働きが2分の1になっても2倍インスリンが出ていれば帳尻が合うように思えますが、その余分に分泌された過剰なインスリンが悪さを働くんです。
 例えば、過剰なインスリン(高インスリン血症)は、腎臓に悪さするとナトリウムの再吸収を高めて高血圧に、肝臓で悪さすると脂肪合成(特に中性脂肪)を高めて高脂血症が起き、中性脂肪が動脈で悪さすると平滑筋細胞を造成させたりして動脈硬化を起こします(図2)。
 ですから、インスリン抵抗性が出ても余分にインスリンが分泌されるから糖尿病にならないと思ったら、過剰なインスリンが様々な悪さを起こし、膵臓のベータ細胞も疲弊して、だんだんインスリンが出なくなってしまうというのが2型の糖尿病なんです。
 しかし、インスリン抵抗性をなくせば余分にインスリンが出る必要がないわけですから、トレーニングは糖尿病や肥満に良いだけではなく、高血圧にも高脂血症にも動脈硬化にも良いという考え方になるのです。

老化によってもインスリンの感受性は落ちる

佐藤 我々のデータで、高齢者と若い人とのインスリンの感受性の違いを測ったところ、歳を取ってくるにしたがって次第にインスリン感受性が低下してくることがわかりました。
 そういう変化に加えてさらに、歳だからとか、いろんな病気があるからと、動かないでいると、尚一層インスリンの感受性は低下します。
 一方、そういう人でもそれなりに運動するとインスリンの感受性がある程度改善されますから、やはり運動は必要なのです。

糖尿病の運動療法はこうして
ポイントは有酸素運動 ――理想的には、3度の食事後に早歩き――

――インスリンの感受性を高めるにはどういう運動がよいのですか。
佐藤 インスリン感受性改善には、ジョギング(体をほぐしながらの軽走)や、早歩きのウォーキング、スロースペースの水泳、水中歩行、ラジオ体操など、酸素を十分取り入れながら持久的に行なう有酸素運動(エアロビクス)が良い成績を上げています。
 一方、短距離走や競泳、パワーリフティングなど、息を止めて一気に行なう無酸素運動(アネロビクス)では効果はありません。
 有酸素運動の中でも特に、手軽に何処でもできるウォーキングがすすめられます。運動の時間がとれない人は、通勤時間や買物時間を利用して、1日1万歩を目標にとにかくよく歩くことです(図3)。私も、駅の階段などもエスカレーターを使わず必ず歩くようにして、日常よく歩く工夫をしています。
――強さは、どの位が適当ですか。
 運動強度は最大酸素摂取量の40〜60%に、心拍数でいうと40〜50歳代は1分間に120程度、60歳以上は100以下になるようにします。
――理想的なタイミングというのはありますか。
佐藤 やはり食後ですね。食後30分から2時間位の間が一番良いと思います。
 食事直後の運動は、胃袋が消化できないようになってしまうので、最低でも20分は経ってからするようにします。
――食後といっても、朝食後、昼食後、夕食後と3回ありますが、この中ではいつがいいですか。
佐藤 インスリン抵抗性の改善に限定すれば、運動すればする程効果がありますから、三度の食後の度にやった方が理想的です。
 選ぶとするならやはり、食事量が多い時、糖質などカロリーを沢山とった食事後が良いですね。
 また、毎日続けるのがベストですが、少なくとも週3日は行うようにします。

体にあわせて "Slow But Steady” 無理なく・ゆっくり・継続して

――中高年層には膝が悪い人が多いですが、そういう人は運動が良いといわれて中年になってからジョギングやウォーキング、あるいは山登りを始めた人に多いそうですね。今、中高年の山登りがブームだそうですが、下りてくる時に膝がガクガクになった後に悪くなる人が多いとも聞いています。
佐藤 それはあり得ることと思います。運動も画一的ではなく、体力や病状に応じて一人一人に違うということですね。
 加齢に伴って敏捷性や筋力は低下してきますから、例えばこの記事を読んで「よし、このトレーニング方法が良い」と思って隣のご主人が早朝ジョギングをやっているから自分も一緒にやろうとか、若い頃にマラソンしていたから「やっぱり走るのは良いのか、それなら昔走っていたから自信あるぞ」という昔とった杵柄はいけないわけですね。
――年寄りの冷や水になるわけですね。
佐藤 運動によってインスリン感受性は案外、簡単に向上します。
 筋肉量はすぐには増えませんが、インスリンの抵抗性は1週間も続ければ少なくなりますから、中高年から運動を始める場合は、運動の強さも持続時間も、"スローバットステディ”で少しずつ増やして着実に続けていくことが大事です。
 早歩きが良いといっても、ことさら歩く習慣がなかった人は散歩から始めて、体の調子が良くなるに従って少しずつ強化していくのが良いですね。
――ウォーキングのときの運動靴ですけれど、この頃、靴底に空気が入っている靴がありますね。あの手のものはショックが少ない分、いいんでしょうね。
佐藤 靴選びは大事ですね。
 学生にトレーニングをしてもらった成績があるんですが、最初の1年目は真面目に走った学生の多くが膝や足を痛めてギブアップしてしまい、もう1回やり直して、2年目には今度は全員にジョギングシューズで走ってもらったら大丈夫でした。
――合併症が進んでいる人は運動はどうでしょうか。
佐藤 増殖網膜症のある方は、目に振動が伝わる運動はいけませんね。
――NHKでやっている高齢者向けの簡単体操(みんなの体操)や簡単なゴム紐運動などは?
佐藤 力まず弾みもつけないでスローに体を動かす体操はまだしも、筋肉を強く引っ張って力むような運動は、目が悪くなってきた人にはすすめられません。どうしても運動をしたければ、散歩を静かにやったほうがむしろ危険が少ない。
 グーっと力を入れるようなことをすると眼圧も増えて、出血の危険も増えます。また、血圧が高い方や心臓が悪い方も、息をこらえて筋肉をグッと引っ張るような無酸素運動はいけません。
 我々のごく最近の研究によれば、週3回の筋肉を引っ張るレジスタンス運動では、インスリン抵抗性は殆ど回復しませんでした。ただ、中高年になって筋肉が萎縮してきた人は、ラジオ体操とかゴム紐運動とかストレッチ体操とか筋肉をゆっくり伸ばすような運動から始めると、関節や筋肉をいためなくていいんですね。
 ですから、合併症が進んでない人では、筋肉量を増やす運動と有酸素運動と両方組み合わせるのがベストと思います。

事前にメディカルチェック

佐藤 最後に、糖尿病の方が運動トレーニングを始めるにあたっては、医師に診てもらい、
・まず、糖尿病が運動しても良い状態かどうか
・目や腎臓、神経障害などの主な合併症がないか
・血圧や心臓など、運動で負担がかかるところはどういう状態か、
・さらに膝や足のチェック――などメディカルチェックを受けた上で、運動を始めることが大切です。