美肌からボケ予防まで"発芽玄米”の驚くべき効用

玄米の有効成分が増える上に、新たな機能性成分も

信州大学農学部応用生命科学科茅原紘

高齢化社会に光明を与える発芽玄米の若返り効果

 高齢化社会を迎え、健全な社会を営む上でボケを含めて成人病の克服が重要な課題になっています。
 そうした中、たんぱく質、脂質、糖質の三大栄養素がバランスよくとれる"お米”の良さが見直されています。しかし、三大栄養素を燃やしてエネルギー源とするには、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が必要です。糠や胚芽を残した「玄米」にはこうした微量栄養素が豊富ですが、一方で玄米は消化や食べやすさ、調理に難があります。
 最近、玄米を0・5〜1mmとごくわずかに発芽させた「発芽玄米」が柔らかくておいしい上に、玄米の栄養価がぐんと高まり、ボケ予防など新たな機能性成分も生まれるということで注目されています。
 発芽玄米には老化や万病の元といわれる活性酸素を強力に消去する「抗酸化物質」群、多彩な薬効で知られる「ギャバ」、さらに、アルツハイマー病の予防と改善が期待される「PEP阻害物質」など、高齢化社会に光明を与える多くの有効成分を含んでいることが最近の研究でわかってきたのです。
 発芽玄米の若返り効果に着目し、発芽玄米中に、「PEP阻害物質」を見出された信州大学の茅原紘教授は、天然の植物から作られた機能性食品に、"死ぬまでボケず元気に”という人類共通の夢の実現を賭けて研究に取り組まれています。
 中でも発芽玄米の「神がかり的なパワー」には驚かされると語られる茅原先生に、発芽玄米についてお聞きしました。

0・5〜1mmの発芽が 玄米を数段パワーアップ
発芽玄米を食べている人に多くの健康効果

――発芽玄米の研究はごく最近のことと聞いていますが、「発芽玄米健康法」というのは昔からあったそうですね。
茅原 玄米は体に良いけれども、うまく炊けない。玄米をどのように上手に炊けるかということで、発芽玄米が考えられたと思います。
 それで、発芽玄米を食べた人達の間に、肌がきれいになった、髪が黒くなった、貧血が改善した、血圧やコレステロールが下がった――など多くの健康効果が出てきて、その裏付けが必要ということで研究が始まりました。
 現在、農水省や企業も含めて共同プロジェクトが組まれ、私も昨年から研究に加わり、研究の過程でアルツハイマー症にも発芽玄米が役立つ可能性が見えてきまして今、機能性食品の素材として特許を申請しているところです。
――それは大変希望にみちたご研究ですね。

発芽は一大イベント
発芽時に増える有効成分

――豆を発芽させてモヤシにしたものを食べる「モヤシ健康法」というのも聞きますけれど、発芽玄米に共通していますか。
茅原 発芽玄米は、玄米を一定温度の水につけて、0・5〜1mmほど発芽させた状態のお米です。
 モヤシまでいくと、種子に元々含まれていた有効成分は成長にとられてしまって、種子にはほとんど残っていません。
――1mm程度の発芽がポイントですね。
茅原 玄米に限らず、種子にとって発芽する時というのは一大イベントで、それまで眠っていた酵素が全て活性化し、身内に化学変化を起し、新芽の成長に必要な栄養素を増やしていくのです(表1)。その酵素が一番活性化するのが、0・5〜1mmほどのほんの少し発芽しかけた段階なのです。
 事実、発芽玄米には、・玄米にもともと含まれていた優れた成分が増えるのはもちろん、・玄米に含まれていてもブロックされて使うことのできない成分が効率よく消化吸収されるようになったり、・玄米にはほとんど含まれていない成分が新しく生じることが私達の実験でも確かめられました。

発芽玄米の若返り効果と 成人病予防効果
皮膚や血管の若さを保つ "抗酸化物質”がいっぱい

――発芽時に増える有効成分にはどんなものがありますか。
茅原 細胞の老化や病変には、体内で過剰に発生した活性酸素が深くかかわっています。
 玄米には、活性酸素を消去するトコトリエノール、フェルラ酸、フィチン酸などの抗酸化物質が含まれていますが、発芽時にはさらに増えると考えられ、実際、発芽玄米には強力な抗酸化物質が豊富に含まれています(表2)。
〈皮膚の老化を防ぎ、
   シワやシミのない美肌に〉
茅原 皮膚では、活性酸素が紫外線によって大量に発生し、シワやシミなどの原因になります。しかし、抗酸化物質が豊富な発芽玄米を常食していれば、シワやシミを防ぎ、いつまでもみずみずしい素肌を保つことが可能です。
 例えば、ビタミンEとよく似た構造のトコトリエノールはビタミンEと同じように脂質の酸化を防ぎますが、紫外線から肌を守る働きはビタミンEより強く、一方で、皮膚のビタミンEレベルを維持する働きもあります。
 フィチン酸とフェルラ酸には、紫外線によって増えるメラニン色素の生成を抑える力があります。 特に、米糠に多く含まれるフェルラ酸は各種アミノ酸と結合すると非常にパワーが増し、グリシンと結びつくと活性酸素の除去効率が40%から75%に、フェニルアラニンと結びつくとメラニン色素ができるのを抑える働きが6%から88%にも高まり、またアラニンと結びつくと紫外線吸収力が78%から94%に高まることがわかりました。フェルラ酸には血液をサラサラにする働きもあり、最近大変注目されている成分で、国際学会もできていま
す。
〈成人病の予防〉
茅原 活性酸素は皮膚を傷つけるだけでなく、血管の老化(動脈硬化)や内臓の機能障害、がんの発生を促します。発芽玄米の抗酸化成分はそれらも強力に阻止します。
 フィチン酸には、貧血や高血圧を防ぐ働きもあります。
 フェルラ酸はイソロイシンやプロリンといったアミノ酸と結びつくと、血栓の引き金になる血小板の凝集を抑えることを私たちは確認しています。発芽玄米にはイソロイシンもプロリンも含まれているので、発芽玄米を常食していれば、血液がサラサラになって血栓が引き金となる脳梗塞や心筋梗塞の予防にも有効です。
 血管を正常に保つということでは、トコトリエノールの悪玉コレステロール値を下げる働きも見逃せません。善玉のHDLコレステロール値を低下させることなく、悪玉のLDLコレステロール値だけを低下させるので、高脂血症やそれが引き金の一つとなる動脈硬化に有効です。試験管の実験では、トコトリエノールは乳がんをはじめ、いくつかのヒトのがん細胞の増殖を抑制することが報告されています。ちなみに、発芽玄米100g中にはトコトリエノールが3・1mg含まれ、口臭の原因物質である揮発性の硫黄化合物に対しても、持続性のある
すぐれた消臭効果があります。
 玄米より10〜15%も多く含まれている食物繊維も、コレステロールを抑える働きがあります。食物繊維は、大腸がんや肌荒れの引き金となる便秘の解消にも有効です。

吸収のよいミネラル群

茅原 玄米にはマグネシウム(心臓病を防ぐ)、カリウム(血圧を下げる)、カルシウム(丈夫な骨を作る)、亜鉛(生殖機能の低下や動脈硬化を防ぐ)、鉄(貧血の防止)といった健康維持に欠かせないミネラルも豊富です。
 しかし、玄米中のミネラルは、先ほどお話ししたフィチン酸と結合して硬い顆粒状になっているために吸収がよくありません。
 ところが、玄米が発芽すると、フィチン酸とミネラルの結合が解け、遊離したミネラルが効率よく吸収されます。

アミノ酸は玄米の2・5倍
――特に注目のギャバ――

茅原 アミノ酸に関しても非常に興味深いデータが得られています。
 発芽玄米中の遊離アミノ酸は、玄米の約2・5倍、白米の約4・5倍も含まれ、日本人に不足しがちな必須アミノ酸のリジンは玄米の約2倍、白米の約4倍も含まれています(表3)。
 中でも、動物や植物など自然界に広く分布するアミノ酸の一つで通称ギャバと呼ばれる「γ―アミノ酪酸」は、玄米の約3倍、白米の約5倍も含まれています(表3・図2)。
 哺乳動物では、ギャバは神経伝達物質として脳や脊髄に存在し、精神不安定な状態や初老期の痴呆症では、ギャバが、脳のどの部位でも減少しているという報告があります。
 実際、ギャバは脳の血流をよくし、脳への酸素供給量を増加させる働きがあるので、古くから医薬品として、脳卒中や頭部外傷の後遺症、脳動脈硬化の後遺症による頭痛や耳鳴りなどの治療に用いられ、更年期障害や自律神経失調症、初老期に起きやすい不眠やイライラ、うつなどにも有効です。
 さらにギャバには、・腎臓や肝臓の働きを高める、・肥満の原因になる中性脂肪の増加を抑える、・血圧の上昇を防ぐ――などの働きがあります。

発芽玄米でボケ予防
血管型のボケ予防に期待できる有効成分

――動脈硬化や血栓の予防に働くフェルラ酸やトコトリエノール、脳の血流をよくするギャバなどが豊富な発芽玄米は、日本人に多い血管型のボケにも期待できそうですね。
茅原 ギャバの投与では、初老期の痴呆の改善も見られています。
 発芽玄米の抗酸化作用や免疫力を高める作用も、痴呆症の二大疾患である血管型とアルツハイマー型の両者に効果を発揮しますので、発芽玄米の常食は痴呆の予防につながると思います。

発芽玄米に含まれる "PEP阻害物質”は アルツハイマー症にも期待

茅原 さらに、私達が発芽玄米中に見つけた「PEP阻害物質」も、いまだに予防も治療も確立されていないアルツハイマー型の痴呆症にも役立つ可能性があるのです。
 脳が広範囲に萎縮するアルツハイマー型痴呆症では、いろいろな原因がいわれ、恐らくそのどれもが正しいと思われますが、その一つに、脳内の「プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)」という酵素が異常に多いことが指摘されています。
 PEPは普通の人の脳にも適量存在して、脳の機能を正常に保つ働きをしているいろいろな「ペプチド(脳機能関連ペプチド)」の新陳代謝を助けています。すなわち古くなったペプチドを切断して、また新しく再生するという新陳代謝のバランスを保っているのです。
 ところが、PEPの量が多くなると、ペプチドを余分に切ってしまってペプチドの量が減少し、それによって脳の正常な働きがかく乱され、それがアルツハイマー症を引きおこす一因になっていると推定されています。
 したがって、PEPの活性を阻害する物質があれば、アルツハイマー症をはじめ、健忘症などPEPに関連するさまざまな脳の機能障害の予防や治療に応用できる可能性が期待され、すでに、合成阻害剤や、酒粕や牛の脳からとり出されたPEP阻害物質が報告されています。
 しかし、安全性などの面から、植物性の天然素材、とりわけ日常的な食物、中でも主食となる穀類、その中でも我々が先祖代々主食にしてきた"お米”からPEP阻害物質をとり出すことができれば最高です。
 そこで、発芽玄米にPEPの活性を阻害する働きがあるか実験してみたところ、白米や玄米にはほとんど変わらないのに、わずかに発芽させただけで阻害活性はグッと上がり、発芽玄米には高いPEP阻害活性があることがわかりました(図3)。
 この結果から、玄米が発芽するときに、玄米にあった前駆物質が、発芽時に活性する玄米中の酵素の働きによって違う物質になったのではないかと考えています。
 現在、発芽玄米がアルツハイマー症を含めた脳機能障害の予防や治療に役立つ機能性食品の素材になりうるということで、研究中です。
――ボケや健忘症に適した機能性食品が誕生すればすごいことですね。期待しています。
茅原 まだ実験段階で、果して発芽玄米中のPEP阻害物質がアルツハイマー症に実際に役立つかは分かりませんが、いずれにしても発芽玄米を常食していれば、脳を含めて体全体、老化の予防につながることは間違いないと思います。

一日三杯の発芽玄米

――それは是非、食べてみたいですね。それでは発芽玄米の効果的な食べ方、入手方法などを教えて下さい。
茅原 発芽玄米はうま味の元になるアミノ酸が遊離しているので普通のご飯よりおいしい(図4)くらいですが、抵抗がある人は最初は白米と一緒に炊き、慣れるに従って発芽玄米を増やして、最終的には発芽玄米だけで食べるようにすればよいでしょう。
 理想的には発芽玄米を主食として1日3食、そして副食をいろいろな食品からとることが大事です。
 調理も簡単で、玄米に比べて柔らかく、普通の電気釜でふっくらと炊けます。混ぜご飯やピラフにしても、おいしく食べられます。
 製品としては3ヶ月保存可能な「発芽玄米」が売り出されています。自分で発芽させることも可能ですが、便利な「発芽器」も売られています。お近くの自然食品店にお尋ねになるとよいでしょう。
 常食すれば定められた寿命は伸ばせなくても、寿命までは体も脳も元気、つまり、死ぬまで元気で生きられる可能性が十分考えられます。
(インタビュー構成・本誌功刀)