老化の進行にブレーキ!

熟年期に活気がでると評判のDHEAとは?

九州大学医学部第三内科 名和田新教授

アメリカで大ブームのDHEA
(デヒドロエピアンドロステロン、dehydroepiandrosterone)

 今、アメリカで一番人気のサプリメント(栄養補助食品)はメラトニンを越える形でブームを起こしているDHEAだと言われています。
 メラトニンとDHEAは共に老化にともなって分泌量が減るホルモンですが、これを口からサプリメントの形で補充し、老化にブレーキをかけ、活力・精力を蘇らせるということで人気を呼んでいるようです。
 アメリカでの大ブームのきっかけは、カリフォルニア大学医学部の研究者モラレス・イェンが1994年に発表し、後に「モラレス・イェンの研究」として有名になった研究がきっかけで、「夢の若返りがDHEAで可能かも!」と注目を浴びたことからと言われます。
 さらに、DHEAの補充は老化にともなう種々の症状、例えば動脈硬化、骨粗鬆症、糖尿病などの発症や進行にブレーキをかけ、記憶力の改善効果もみられるという研究が相次いで発表され、日本でも関心を呼んでいます。
 そこで今月は、1970年代初頭より、世界に先駆けてDHEAを研究されてこられた九州大学医学部の名和田新教授に、DHEAについてあれこれお話を伺いました。
※サプリメントとしてのDHEA
 今のところ日本ではこの種のホルモン補充剤はサプリメントとしては認めないという規制があり、試してみたい方は規制のないアメリカの取扱い業者から個人輸入で入手するしかない。
※モラレス・イェンの研究
 平均年齢45歳の男女にDHEA1日50mgを3ヶ月〜半年投与したところ、殆どの人に活力の回復・気分爽快・熟睡できる・イライラがなくなった――等の効果がみられた。

老化の予防・若返りが可能という "DHEA”とは アメリカではサプリメントとして売られているDHEA

――今アメリカでDHEAのサプリメントが大人気ということですが、DHEAを栄養補助食品という形で口から摂取する場合も一種のホルモン補充療法になりますね。ホルモンを注射や舌下からではなく、口からとって果たして胃酸などで壊されずに吸収されるのか、また安全面で副作用などの心配はないのか、まずは一番気になるその辺りから教えていただければと思います。
名和田 DHEAは吸収がとても良く、サプリメントの中にDHEAが本当に入っているならば、口から錠剤やカプセルの形でとっても吸収されて血中のDHEA濃度は確実に増えます。
 DHEAが蛋白でしたら、胃酸や消化酵素などで壊れてしまいますが、DHEAは蛋白ではありませんのでそのままの形で血液中に吸収されるわけです。
――アメリカではサプリメントとして簡単に入手できるそうですね。
名和田 実はアメリカの学会に出席したついでにフィラデルフィアのドラッグストアーを何軒か見て回りましたが、DHEA−Sがもう山と積んであって大変驚きました。
 アメリカではFDA(米国・食品医薬品局)が薬ではなくサプリメントとして認可したわけですが、サプリメントの中にはDHEAの純度及び量については正確でないものもあると言われてます。また、安全性については長期にわたる検討が必要です。さらにどんなに良いものでも全てとり過ぎれば害になりますから、成人病が心配される年代の方でDHEAのサプリメントを試してみようという場合は、確かなものを選んだ上でとり過ぎないよう注意して欲しいですね。

老化との関連が示唆される、 加齢に伴って減るホルモン

――アメリカで出版され、日本でも翻訳されている『DHEA――奇跡のホルモン療法』(レイ・サヘリアン著、宝島社刊)の中に先生のお名前がありますが、先生は随分と昔からDHEAを研究しておられたのですね。
名和田 DHEAは研究者の間では以前から注目されており、私も1971年頃から先代の井林教授の下で研究を始めてもう25年以上になります。
 DHEA−S(DHEAサルフェート)は主に副腎から分泌されるホルモンで、化学的な構造からは男性ホルモンの一種に分類されますが、男性に限らず女性でも分泌され、末梢の組織で男性ホルモンのテストステロン、女性ホルモンのエストラジオールに変化します。DHEAはこれまでこうした性ステロイドホルモンの前駆体としての作用しか知られていなかったのですが、最近になってDHEA独自の作用も指摘されています。特に老化に密接に関係しているのではないかということで注目されるようになりました。
 DHEAは血液の中に大変多く存在するホルモンですが、人間の生命の維持にかかわるホルモン、例えばコルチゾールは生涯にわたって一定の血中濃度を維持するように分泌されています。ところが、DHEAや他の性ステロイドホルモンは加齢と共に分泌が減ったり止まってしまうのです。
 DHEAでは思春期に急上昇し、
20代でピークを迎え、それ以降は年齢と共にゆっくり減少していき、
75歳を過ぎるとほとんど分泌されなくなります(図1)。DHEAのほとんど(約90%)は体内で代謝されると、サルフェート(硫酸根)という化学物質と結合します。このDHEAサルフェートを血中や副腎静脈で測ったところ、男女共に加齢と共に減ってくるのが分かったわけです。
 この研究は世界で初のエイジングつまり加齢がらみの研究で、一部ではかなり注目されたのですが、その当時はまだエイジングへの関心が低く一つの現象として捉えられたに過ぎませんでした。それが、いよいよ高齢化社会になってこれは大変な問題であるということが再認識され、DHEAの減少が老化にどう関係するかが医学者の中でも世界的な注目を集めるようになったわけです。

性ホルモンそのものと違い、作用は強烈ではない

――DHEAはホルモンの一種ということですが、DHEA自身はそれほど強い作用はないそうですね。
名和田 DHEAは性ステロイドホルモンの前駆体としての作用があるとお話ししましたが、直接にはテストステロンの殆どは睾丸から、エストラジオールは卵巣から分泌されています。これらの性ステロイドは非常に強い作用を持っており、テストステロンでは男性化、エストラジオールでは女性化というはっきりした性作用があります。
 ところが、副腎は男女共にある器管ですから、そこから出るDHEAサルフェートは男女共に分泌量は殆ど同じでそれほど血中の濃度は変わらない、男性が少し高い程度です。
 血中濃度を比較してみますと、エストラジオールがピコ(十億分の1グラム)、テストステロンはその千倍のナノグラム(百万分の1グラム)なのに対し、DHEAサルフェートはさらにその千倍のマイクログラム(千分の1グラム)の単位でヒトの血中に存在します。それほどDHEAの血中濃度は高く、例えば女性ホルモン(エストラジオール)と比べると約百万倍も高い。それなのに生理作用が今まであまり分かっていなかったのは、エストラジオールやテストステロンに比べてそれほど強い作用がないからですね。
 エストラジオールやテストステロンは補充すると、すぐに強い女性化や男性化の効果が出ます。だからこそ、競技時のドーピングなどでは筋肉がモリモリし、活力が出てくるテストステロン系の物質がよく検出されるわけです。
――DHEAは作用が弱いのに、実際に動物実験などではいろいろな良い作用が見られるのはなぜでしょうか。
名和田 それは恐らく、末梢の細胞、例えば筋肉細胞とか脂肪細胞とか骨細胞とか血管内皮細胞とか脳にDHEAが運ばれて、そこにDHEAを基質として活性型のステロイドに転換する経路があるのではなかろうかと考えられます。
 ですから、カナダのラビリーという学者は、DHEAからエストラジオールへ、或いはDHEAからテストステロンへという経路があってDHEAはその前駆体として使われているということを盛んに言っており、実際、メインはそうなのかも分かりません。

DHEAの 老化・成人病への効果 性ステロイドホルモンの減少期と重なる成人病の発症時期
|有効なホルモン補充療法|

――いずれにしろ、加齢に伴ってDHEAが出なくなるということは逆に言うと、老齢期に入ってもDHEAを補充していれば老化にブレーキをかけられる可能性があるというわけですね。
名和田 寿命が飛躍的に延びたのにともなって、性ステロイドホルモンのバランスの失調が更年期障害や成人病をもたらす一因となりますから、こうしたホルモンの崩れを回復できれば高齢者の健康に役立てると考えられます。
 ホルモン療法は日本では過度に副作用が心配され、あまり普及はしていません。実際、薬としてのテストステロンやエストラジオールなどは強力なホルモン剤で、副作用の心配もあって医師の診断のもとで処方されるべきものです。しかし、ホルモン療法は適切に行なえば間違いなく効果があります。ですから私は医師の立場から、その人の症状に適しているかを十分に判断した上で行うホルモン療法は推進すべきものだと考えています。
 DHEAについても同様で、DHEAを補充療法的に使うことにより、活力が得られるとか、成人病の予防につながるといった効果が期待でき、さらに副作用の心配も格段と低いのですから、試す価値は大いにあると思います。
 テストステロンにしてもエストラジオールにしても、年をとってくるとある段階で急激に下がります。エストラジオールは女性の更年期がくると急激に下がる、そしてこの時期に女性では顕著に骨粗鬆症や動脈硬化などの成人病が出てきます。一方、テストステロンの減少は個人差があって減り方にばらつきがありますが、それでも大体は高齢になると下がってきます。
 ですから、こうした性ステロイドホルモンの減少がいろいろな成人病の発症に深く関わっているのではないかと推測されています。
 エストラジオールやテストステロンがそれほど加齢と関係しているならば、やはり加齢にともなって減ってくるDHEAも当然、老化や成人病に関係しているのではないかということからいろいろな研究が始まりました。

成人病への多彩な効果

名和田 その結果、多くの関連づけられる事実、例えばDHEAを投与すると動脈硬化、心臓病、糖尿病、肥満、骨粗鬆症などの発症や進行が抑えられ、免疫の抵抗力も復活する。また、老化にともなって脳の記憶力はグンと落ちてきますが、DHEAを投与すると記憶力が向上する。或いは発がんが抑えられるなど、非常に素晴らしい効果があることが動物実験、疫学より分かり始めたのです。
 これらの効果は主に動物実験や細胞を使った試験管の実験でデータで裏付けられたのですが、こうした多くのデータから、DHEAには成人病の発症を阻止するとまではいかなくても進展を遅らせる作用がある、また、これらの好ましい作用は人にも間違いなくあるだろうと考えられています。
 勿論、成人病は一つの原因で起こるわけではなく、第一に遺伝子の問題、それから厚生省が成人病に生活習慣病の呼称を取り入れたように食事や運動などの外部環境、さらに内部環境としてホルモンの失調など、いろいろな要因が重なって起こってくるわけです。
 そうした成人病を起こしやすいファクター(要因)を正常な状況に戻せるものは、食事にしても運動にしてもできるだけ正して、成人病を予防していく。DHEAの補充もそのうちの一つで、減衰に応じて若者並の血中濃度のレベル程度まで補充する方法があるのだと思います。
――決してオールマイティーではない。基盤を整備するということですね。
名和田 そうです。しかし、その基盤となるところでどのように関係しているかという分子レベルのメカニズムではまだよく分からないことだらけです。人間にとって良い作用を持っているのは間違いないと思いますが、今後さらにきちんとした科学的なデータを、特にヒトに対して積み重ねていかなければいけないと思っています。
 人間においても成人病の発症や進展にブレーキがかかるというはっきりしたデータを得るには少なくても1年位は飲んでいただく、そして実際に、糖尿病でも、高脂血症や動脈硬化や心臓病でも、肥満や骨粗鬆症でも、また免疫力の低下も抑えられる――というデータが多く得られれば、これは日本でもGOサインを出さないといけないと思います。
――人と動物では必ずしも結果が一致しませんから、人への試みが待たれますね。その辺りの研究は進んでいるのですか。
名和田 最近、医学の世界でDHEAサルフェートがいろいろな病気に対して試みられており、その中で「緊張性筋ジストロフィー」という神経疾患にドラマチック(劇的)に効くことが大阪市立大学の大沢先生のグループの研究で実証されました。緊張性筋ジストロフィーに効く薬は今までなかったのですが、DHEAサルフェートの注射で全く動かない筋肉が動くようになったんですね。
 それで緊張性筋ジストロフィーの患者さんに限っては、注射でDHEAサルフェートを投与する試みが始められて、そういう中で、そういう患者さんは、糖尿病を持ったり、動脈硬化を持ったりしている人がたくさんいるはずですから、同時にそうした疾病も比較対象のデータとしてみることは可能ですね。

肥満を抑える

――DHEAの補充で肥満が抑えられるというのはどういうメカニズムが働いているのですか?
名和田 それもはっきりしたことはまだよく分かっていません。
 直接ではないのでしょうが、脂肪合成を抑えるとか脂肪細胞を分化させて脂肪細胞を小さくするとか、そういう形で効いているということが文献で少し出てます。
 私もラットで実験したところ、同じ餌を同じ量与えた場合も、DHEAを与えたラットは瘠せるんです(図2)。やはり何か脂肪代謝に関係しているのではないかと思っています。
――DHEAはどの位の量で?
名和田 大量投与という薬理量ではなく、通常の生理量です。
――それは頼もしいですね。

糖尿病では・型だけではなく 自己免疫疾患タイプの・型にも

――糖尿病などではDHEAを与えていると老化が遅れるので、なりにくくなるというのはわかりますけれど…。
名和田 糖尿病では私共も少しデータを出していますが、糖尿病の原因は一つは膵臓のランゲルハンス島ベータ細胞からのインスリンの分泌が悪くなることと、もう一つはインスリンは分泌されているけれど感受性が悪くてインスリンの末梢での糖の取り込みが落ちる二つの原因によって発症します。
 DHEAはインスリンの感受性や抵抗性のところに関係しているのではないかと考えられます。
 糖のほとんどはインスリンにより脂肪細胞や筋肉細胞に取り込まれますね。糖が取り込まれなければ血糖値は高くなるわけです。その糖を取り込むのが、インスリンレセプターを介して細胞内にある糖輸送体(グルコーストランスポーター)です。
 DHEAはこのグルコーストランスポーターの発現を高めて、インスリンとの相乗効果によって、糖を細胞の中に取り込みを促進する(図3)のではないかと思われます。
――ということはグルコーストランスポーターの数を増やすんですか?
名和田 数を増やすのでしょう。
――例えばグルコーストランスポーター4を増やすのは食後30分のきつめの運動療法が有効ということですが…。
名和田 運動療法でも増えます。グルコーストランスポーターが増えるメカニズムはいろいろあって、その一つとしてDHEAはグルコーストランスポーターを増やす方向に働くんですね。
――・型の糖尿病ではどうなのでしょうか。
名和田 横浜市立大の関原先生のグループの研究では、先天性の自己免疫性の糖尿病のマウスにDHEAを与えたところ劇的に効いたという素晴らしいデータを出しておられます。ということは、DHEAは筋肉細胞と膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞の両方に作用しているのかも分かりません。つまり、インスリンの抵抗性を取るのと、インスリンの分泌量を増やす両方ですね。自己免疫疾患の場合では、膵島の炎症を抑えているのかも知れませんね。
――自己免疫疾患型の・型糖尿病は遺伝のせいなので治らないと思われていますよね。
名和田 そうなんです。
 自己免疫疾患では、全身性エリテマトーデスという膠原病のマウスにDHEAを投与しますと検査所見が改善し、寿命が延びたというデータもあります。
――今、糖尿病も自己免疫疾患も増えていますから、これが人にも作用するとなると本当に福音ですね。
名和田 糖尿病ではインスリンの注射や非常に強い薬があるでしょう。基本的にはそれらのお薬のお世話になるとしても、疾患のベースに身体があるわけです。糖尿病で、かつDHEAの出方の少ない人にはDHEAを補充してやると、インスリンの注射の量とか、或いはいろんな薬の投与もずっと量が少なくても済む可能性があるし、合併症を抑える可能性もありますね。
 DHEAの分泌量の低い人に、薬剤を与えるとどうしても薬の量を多くしないと効かないということで薬害が心配になります。そういう分泌量の低い人が年をとると、その分余計に心配になります。
 骨粗鬆症の改善
――骨粗鬆症では女性ホルモンの補充療法が行なわれていますね。
名和田 女性は閉経後、卵巣の機能が全くなくなりますから、卵巣で殆ど作られるエストラジオールは例外なく50歳前後で女性は極端に低値になってしまいます。この更年期で女性で一番起こりやすいのは骨粗鬆症です。
 にもかかわらず、更年期以降の女性で骨粗鬆症を起こす人は半分にも満たない。ということは、エストラジオールが骨粗鬆症を起こす非常に大きな要因だとしても、エストラジオールだけでは全部説明できないわけです。
――エストラジオールがもともと極端に少ない男性の場合、70過ぎまで骨粗鬆症は起こしませんしね。
名和田 そうですね。男性ホルモンのテストステロンは、女性のような更年期がないからジワジワ下がっていくわけです。だから、それは一つの理由になるのかも分からない。女性の場合は、更年期で女性ホルモンのエストラジオールが急激に下がり、骨粗鬆症だけではなく、糖尿病にしても、動脈硬化にしても更年期を過ぎると発症率が急に高まりますが、それでも全員がなるわけではない。
 一方、副腎でできるDHEAは、血中濃度がエストラジオールに比べれば百万倍ほど沢山あるわけですから、老化にともなってDHEAの分泌量も確かに減るけれども、血中のエストラジオール濃度に比べればまだずっと高いわけですね。そうすると、それが前駆体として必要とされる現場でエストラジオールに変わる機構があるとするならば、血中のエストラジオールが低くてもDHEAが豊富でそれが骨においてエストラジオールに変換するのであれば骨粗鬆症になりにくいのではないかということが考えられます。

動脈硬化の抑制

――老化は血管からと言われますが、動脈硬化ではどうでしょうか。
名和田 ウサギの実験では、コレステロールの高い餌にDHEAを混ぜたところ、動脈硬化の発生が抑えられました。
 動脈硬化は血中のコレステロールなどの脂質が免疫細胞の一つマクロファージ(大食細胞)に取り込まれて動脈に付着するのが主な原因ですが、DHEAにはマクロファージの脂質の取り込みを抑える働きがあると考えられます。

サプリメントで DHEAを補充する
アメリカでは医薬品ではなく サプリメント扱い

――この他、動物実験ではがんが小さくなったという結果もあるそうで、本当にいいことずくめのDHEAですね。実は私も実際にDHEAのサプリメントをとってみて感じているのは、集中力が高まると同時に気分爽快感がみなぎる気がしています。
名和田 DHEAは薬などの外因性のステロイドではなく、もともと自分の体の中で作っている内因性のステロイドホルモンですから、分泌量が減ってきた時に外から補充した場合もそう害はないだろうと考えられるわけです。
 勿論、薬理量といわれるほどの多量ではなく、少々補充して若年レベルに上げれば、成人病(生活習慣病)の進行を遅らせたり、また、予防にも働くのではないかという考え方で人にも試みられることになったわけですね。
――アメリカでは薬を手に入れるには医師の処方がいる一方で、DHEAは薬としては認めていないので医師の処方はいらないと聞いています。
名和田 そうです。アメリカは、DHEAを薬と認めなかったのでビタミン剤と同じような扱いですね。ですから、ドラッグストアで簡単に買えるわけです。

副作用と安全量

――ステロイドとか性ステロイドホルモンの前駆体と聞くとやはり、副作用が心配になりますね。
名和田 DHEAを大量に与えると、ネズミに肝臓がんが出たとか、或いは女性が少し男性化したというデータが出ています。
 アメリカでもDHEAは好ましい作用がある一方で副作用もあるのではないかとFDA(米国・食品医薬品局)がチェックしています。しかし、ごく常識的な量、つまり薬理量ではなく生理量の範囲でとっているのであれば重い副作用はないということで、こうした経緯もアメリカでDHEAがサプリメントとして出回るきっかけになったようです。
 勿論、若者が分泌する量の10倍も20倍もとれば、テストステロンやエストラジオールと同じように、とり過ぎによる副作用は当然出てくると思います。例えば、過剰なエストラジオールでは子宮内膜がんや乳がんが、また、過剰なテストステロンでは前立腺がんが出るのと全く同じことがDHEAについても言えるかもしれません。
 今のところ、生理的な範囲でとり続ける分にはあまり問題はないだろうとは思えますが、そのあたりのヒトに対してのデータが全く欠落していますから、とり過ぎないようにしないといけません。
 サプリメントだから安全だとばかりに、ブームにのってワイワイ買って飲むという風潮は科学を研究している者にとっては危惧されるところです。
――サプリメントとしてとる場合、1日どの位が生理量の範囲と言えますか。
名和田 多いものでは1カプセルにDHEA50mg含有というサプリメントも売られているようです。恐らく、その程度であれば大丈夫だということなのでしょうが、日本人はアメリカ人に比べて体重も少ないですし、もう少し少ない含有量のものから徐々にとっていく方が安全でしょう。

将来的には医師の管理下で 安全な"お年寄の福音薬”として用いられるのが望ましい

――本によると、DHEAのサプリメントの原材料はヤムイモからとっているそうですが。
名和田 そうですか。
 薬というのは99%ピュア(純粋)で、他のものは何も含まれてはいけない、それは非常に厳しい審査の下に認可されているわけですね。
 サプリメントの場合、薬ほどの管理、監督が行き届いていないので、例えばDHEA"50mg含有”と書いてあったとしても実際に50mg入っているかどうか分からない。また、我々医学者が研究する場合も、サプリメントでは薬と違って何か他の成分が一緒に配合されているものが殆どで純粋ではありませんから、実験には使えないんですね。その辺りが我々研究者にとってはちょっと問題がある。サプリメントのDHEAでは正確なデータはとれませんから、臨床を試みるのにはやはり純度の高い製品を作って、人間でテストを積み重ねて、明快
なデータを出さなくてはいけないんですね。
 FDAも副作用が少ないということでビタミン剤のような形で認可しているわけですが、本当に効くのでしたら、もっと純度の高い薬として医師の管理の下に、皆さんに安全かつ効果的に提供する方向に持っていくべきです。
 DHEAはいろいろなトラブルの予防にかかわっているので非常に面白い。だからこそ、皆さんも興味をおしめしになるわけですが、科学的なはっきりしたデータがヒトにおいてももっと出てくれば、DHEAは薬としてもそう高い価格ではないし、わずかな量をとれば良いのですから、お年寄には大いなる福音になる可能性を高く秘めていると言えるでしょう。
――安全かつ安価で、老化にブレーキがかかり、成人病にもなりにくくなる、改善効果もあるとなれば、こんな結構なことはありませんね。とりあえず、今すぐにも欲しい方はアメリカに行った時に信頼のできるサプリメントを買うか、個人輸入で手に入れるということになりますが、サプリメントのレベルでもDHEA本来の効果があがるとすれば、やはり日本でも今後人気は出てくるのでしょうね。本日は大変興味深い貴重なお話を有難うございました。