現代型食生活の二大悪玉"油”と"砂糖”

現代病、慢性病の克服はアトピーに良い食事が基本に

堂園メディカルハウス院長 堂園晴彦先生

自然に元気がわいてくる…

 デイケア、2〜3日のショートステイ、在宅ケア、そして入院ケアを組み合わせた緩和ケアが行われている堂園メディカルハウスは、美術館であっても児童館であっても、あるいはリゾート地の快適なペンションであってもなんの不思議はない、温かくゆったりとした時間と空間が広がっています。
 ホスピス(末期医療)病棟を備えたこの医院は、がんの患者さんを中心に、広くアトピーなど慢性病の患者さんにも開かれ、2階の食養レストラン「ランドマーク」には一般の人も行き来し、ここでは病人と健康な人の差別はありません。
 堂園先生は国立がんセンターに勤務した後、米国ニューヨークのがんセンターなどで研修され、その過程でがんを治すことと共に、治らない人のケアにも心を砕くようになりました。その道筋でつきあたったのが、東洋医学であり食事医学です。食事と栄養をとりいれた堂園メディカルハウスの治療は、がんばかりでなく、アトピーの患者さんを中心に慢性病の改善・治癒に成果をあげています。「現代の日本人の多くは栄養過多で死んでいく」と指摘されている堂園先生に、アトピーを中心に現代の食事の問題点を伺いました。

がん治療の中で 突き当たった 食事・栄養の問題

|先生はもともとがんがご専門で、今はがんの末期医療も手がけていらっしゃるわけですが、がんだけではなく慢性病、特にアトピー性皮膚炎の治療に食事・栄養療法をとり入れて治療の成果を上げておられますね。食事や栄養面から病気をみるようになられたのはどういうことからですか。
堂園 西洋医学の中でも予防医学の分野では、例えば大腸がんと欧米型の食事には相関性があることが疫学調査でわかった時に、それがどのように悪さをするのかを研究します。そうすると、すでに大腸がんになっている人でも、欧米型の食事はがんを促進するように働くのではないか、逆にそういう食事を控えることで時速50kmのがんが時速30kmになるのではないか、つまり、食事療法でがんを治すことはなかなか困難ですが、再発をふせいだり、増殖スピードを遅くすることは十分可能だと考えるわけです。
 終末期の医療では、延命にはならなくても命を終えるギリギリまで元気でいられるようにしてあげることが重要になります。例えば、食べるという行為は非常にエネルギーがいりますから、体が弱って食べ物を十分摂取できない方には、西洋医学的に点滴による静脈栄養でエネルギーを少し補ってあげると食べられるようになります。
 また、がんが進行すると悪液質と言いますか、だるさが出たりします。だるさには活性酸素やフリーラジカル、また、末梢でのアシドーシス(体の酸性化)が随分関与していると考えられます。その時にビタミンCなどの抗酸化物質を与えてラジカルを減らしたり、クエン酸や重曹などで酸性化を改善してあげると良いわけですね。がんのだるさをいかに改善するかというスタディは、今後、十分研究されるべき分野ですが、その中心となるのはやはりビタミンやミネラルなどの微量栄養素だと思います。
 こうした考え方で学んできましたから、治療にあたっては食事や栄養の摂取がいかに重要な要素となるかが、自明となってくるわけです。

栄養過多による 難病・現代病が増えている アトピー、がん、難病・現代病の多くは〃自己免疫疾患〃

堂園 私はアトピーを皮膚病ではなく、自己免疫疾患の皮膚症状であると考えています。
 自己免疫疾患は自分で自分の体を傷つけてしまう病気です。アレルギーとは兄弟の病気で、ほとんど同じと考えて良いと思いますが、免疫細胞の機能に異常が起きて、本来は細菌やウイルスなど外からの異物を攻撃するはずの免疫細胞が、自己の細胞を攻撃したり、異物に過剰に反応することで起きます。
 現代で難病と指定されるものの多くは自己免疫疾患で、代表的なものには膠原病、リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病などがあります。共通しているのは症状を抑えるのにステロイド(副腎皮質ホルモン)が有効で、今の医学ではそれが治療の柱になっていることです。しかし、ステロイドは症状を抑えるのが主で根本的に治すわけではないので、急性期に用いるには良い薬であっても、慢性病に長期にわたって使う薬ではありません。上手に使わないといろいろな副作用が出て、だんだん強くしないと効かなくなり、最後には全く効かなくなってしま
います。
――根本的な治療はないということで難病に指定されているわけですね。今、こういう病気は増えているのですか。
堂園 自己免疫疾患は現代病とも言われ、増えています。例えばアトピーは先進国、それも都会に多く、僻地から先進地に移住した人にも多いことが分かっています。南太平洋のある島々の人々のアトピー発症率は0・4%くらいだったのが、オーストラリアに移住して4%と10倍も高くなっているんですね。これはやはり食事、特に油の食べすぎなどの栄養過多が大きく影響していると思います。
 アレルギーは食環境以外にも、衛生状態、住宅環境、大気汚染にも影響されますが、中国ではこうした環境が日本より良いとは思えないのにアレルギー性鼻炎の発症率は昭和30年以前の日本と同じくらいです。やはり食べ物が非常に影響しているということだと思います。今後中国も食事の欧米化がすすむとアレルギーが日本のように大問題になってくると思います。
――自分で自分の体を攻撃するということでは、広くはがんも自己免疫疾患に入ると考えても良いでしょうか。
堂園 良いと思います。がんを自己免疫疾患と考えている医者は結構います。白血病などの一部のがんにはステロイドホルモンが使われています。

最も悪玉となる 油脂のとりすぎ アトピーと大腸がんに共通する、 腸内環境の悪化と腸管免疫の破壊

──食べ過ぎ、特に油が問題だということですが…。
堂園 私はアトピーという病気と今、日本人に増えている大腸がんは非常に関連が深いと考えています。実際、成人型のアトピーには大腸病変が認められるという研究も発表されています(近畿大学皮膚科)。
 動物性食品や油の多い欧米型の食事でなぜ大腸がんが増えるかといいますと、油が多くなると胆汁や膵液が増え、過剰の胆汁や膵液が腸壁を傷つけます。それによって遺伝子の突然変異が起こって大腸がんができてくるのですね。大腸がんの全てがこのメカニズムで起きるとは思いませんが、大きな要素になっていると思います。
 同じように胆汁が大腸の中で増えると、腸内環境が乱れて善玉の腸内細菌が減っていきます。そうすると、大腸の免疫寛容が弱くなって、食べ物が腸の中に入った時に、そこですぐ、抗原抗体反応を起こしてしまうのです。
 免疫寛容というのは抗原となるようなものが入って来た時に「まあいいや」と優しく見てあげるということです。血液は寛容が乏しくて異物が入ってくるとすぐ敵とみなすのですが、腸管というのは優しいんです(寛容)。動物の血液を血管の中に入れるとすさまじい抗原抗体反応を起こして人間はすぐ死んでしまいますが、生血を飲んでも普通は何も起こらないのは腸に免疫寛容があるからですね。
 ところが腸内環境が乱れてくると、腸の免疫寛容が弱くなって、普通はアレルギーを起こさないものに対しても抗原抗体反応が起こってしまうわけです。
 それと過酸化脂質、活性酸素の問題。油の多いものを食べるとそうしたフリーラジカルが多く生成されますが、遺伝子が異常になった時には過酸化脂質が栄養源になりますし、フリーラジカル自身が腸壁を傷つけてしまうということがあります。

油のとりすぎは 抗原物質・炎症物質を増やす

堂園 油のとりすぎは腸内環境を悪くしたり腸管免疫を弱くするだけでなく、体内ではアレルギー反応を起こす物質や炎症を起こす物質が増えてきます。
 植物油に多いリノール酸は、体の中でアラキドン酸に変化します。アラキドン酸からはさらにアレルギー反応を起こすロイコトリエンという物質と、炎症を起こすプロスタグランディンという物質が作られます(図)。ですから油をとりすぎると、血液の中にはロイコトリエンやプロスタグランディンが増えて、アトピーや喘息などのアレルギー症状を起こすわけですね。アトピーの患者さんのかゆみが皮膚というより内側からかゆく感じるのは、毛細血管のあたりでロイコトリエンが悪さをするからです。
 炎症の炎という字は火が2つ重なっています。火に油を注ぐという諺がありますけれど、怪我をした時でも、アトピー性皮膚炎でも、風邪でも、炎症がある時に油物をとるのは火が2つもある炎症を悪化させることになるのです。

二番目に問題な砂糖のとりすぎ 特に果糖が悪さする

堂園 二番目に悪さをするのは砂糖です。
 砂糖の中でも特に、果糖(フラクトース)が良くありません。
 砂糖は分解してグルコース(ブドウ糖)とフラクトースに別れますが、日本人は平均1日に8グラム位の果糖しか処理出来ないんです。果糖はインスリンが効かないので、とりすぎるといつまでも体の中で高血糖の状態になってしまいます。ですから、糖尿病には果糖が本体の果物の方が砂糖よりもっと悪い。
免疫の司令塔「脾臓」を傷める
堂園 特にアトピーの関連では、砂糖をとりすぎると、免疫系の司令塔である脾臓を傷め、免疫細胞の異常を招いて自己免疫疾患になりやすくなると考えています。
 また、ストレスはアトピーを悪化させる要因となりますが、東洋医学では脾臓はストレスにも関係しています。脾臓を強めると元気になって、ストレスにも強くなるんですね。
 同じく東洋医学では脾臓は水分の代謝にも関係しています。アトピーの患者さんの目はどろんとして生気がなかったり、尿や汗が少なかったり、体温調節がうまくいかなかったりしますが、これはステロイドの副作用や腎臓の働きが悪くなっていることも影響してますが、脾臓の働きが悪くなっていることも関係しています。

皮膚のビタミン 〃ビオチン〃の不足を招く

堂園 糖の代謝には、ビタミンHといわれるビオチンが必要です。ビオチンは体内で腸内の善玉菌によってつくられますから、腸内環境が悪くなるとビオチンが不足してきます。アトピーの患者さんもそうですが、糖尿病の患者さんでは腸の中も甘い状態になってカンジダというカビが生じやすくなり、カビが生じることによって腸内環境が悪くなり、ビオチンがつくりにくくなってきます。
 ビオチンが不足してくると、砂糖が体の中でグリコーゲンまで代謝されないために血糖値が上がらなくなってしまうという現象も起きてきます。そうすると、さらに甘いものが欲しくなるという甘味依存症が起こってしまいます。低血糖になると、極度の空腹状態と同じ状態になりますから、イライラして怒りっぽくなります。
 ビオチンが不足すると、糖質からエネルギーを生み出すクエン酸回路もうまくまわらなくなるので、元気も出ません。今、無気力な若者や凶悪な非行に走る若者が増えている背景には、甘い物のとりすぎも大きく関係していると思いますね。
 アトピー治療の目的で腸内環境を改善するために砂糖をやめると、皮膚症状より先に元気が出てくるんですね。これはビオチンが腸内で作られ、エネルギーが効率良く産生され、血糖コントロールがうまくいくようになったからだと思います。
 ビオチンは糖代謝だけでなく、脂質の代謝にも、また体の中で解毒、消毒に関する殺菌の代謝にも必要です。ですからビオチンが不足すると、アトピーのひっかいたあとの傷が治りにくくなります。
 ビタミンHのHはHaut、皮膚を意味し、不足すると脂漏性皮膚炎や脱毛、フケ症など皮膚症状が現れますが、卵の白身を沢山とりすぎると皮膚炎ができるという実験があります。毎日大量に生卵を摂取させると被験者全員が、2週間後には全身の皮膚炎を起こし、食欲不振や嘔吐をもよおし、1ヶ月後には脱毛や鬱などの症状が現れてきます。これは、卵の白身がビオチンを壊してしまうからです。卵白中のアンビジンという蛋白質がビオチンと結合すると、ビオチンが働らけなくなるからですね。

民族食が 最も理にかなっている 現代病、慢性病の克服は アトピーの食事が基本に

――アトピーを治すには、腸を健康に保ち、脾臓を強くする食事を心がけることが非常に大切だということですね。それにはまずは油、砂糖を控える…。
堂園 私はアトピーの治療の極意を聞かれると、「江戸時代になかったものは食べない」、「江戸時代になかった調理法はしない」と答えるんです。江戸時代にはアトピーはなかったですからね。結局、民族が数千年つちかってきた食生活の方法、いわば民族食が一番理にかなっていると思います。日本人は農耕魚猟民族ですから、穀類、野菜、魚、海藻となるわけですね。
 私は今、第二次太平洋戦争中であると言ってるんです。日本の食事が勝つか、アメリカの食事が勝つかの瀬戸際ですね。これで、日本食が負けると、ハンバーガーなどファストフードを代表とするアメリカ食がアジアを席巻してアジア中にアレルギーが増えてきますよ。それこそ民族の戦いだと思います。中国はその試金石です。中国では今穀類が自給できなくなってきています。それは穀類を牛や豚の飼料にしてしまうからですね。中国人にもっと肉を食べさせることにより、穀類をアメリカから輸入させるというアメリカの経済戦略ではないでしょう
か。
 この表(表1)は、鹿児島大学医学部衛生学教室の吉岡先生との共同研究でわかったアトピーの患者さんに共通する食事です。この反対の食事を心がけていれば、アトピーだけでなく、喘息、花粉症、他の自己免疫疾患、がんや糖尿病などの現代病、慢性病を予防、改善していくことになります。
 具体的には、
・フライパンを捨て、揚物料理はやめる
 野菜をとってますかと聞くととっていますと答えが返ってきます。よく聞くと、朝は生野菜にドレッシングかマヨネーズ、昼は野菜の天麩羅、夜は野菜炒め…。もう油まみれなんですね。
 油を食用に使い出したのはつい最近のこと、フライパンが日本の家庭で一般化したのは昭和30年以降です。アトピーの人でなくても、フライや揚物は1月に2〜3回が限度だと思います。
・足で歩く動物食品は控える
 昭和30年を1とすると、現代人は植物油は4倍、肉類は6倍、牛乳は9倍もとっています(表2)。その結果、油脂だけでなく、蛋白質のとりすぎになっています。
 蛋白質は大事な栄養素ですが、蛋白質をとりすぎると体が酸性になります。よく血液のpHは変わらないと言われますが、それは動脈血のことで、体が酸性かアルカリ性というのは細胞間液の最も末梢な部分です。人間の体は弱アルカリ性がベストな状態ですから、体が酸性化すると骨や歯や血液のカルシウムを利用して、弱アルカリに戻そうとします。その結果、カルシウム不足が起こり、肩こり、腰痛、疲労感、イライラ、骨粗鬆症などを引き起こします。それと、酸性体質になると薬の効きが非常に悪くなります。薬の効き目の差も案外とこのよう
なところにあるかもしれません。
 また、蛋白質は腸の中で腐敗しやすく、いろいろな毒素を発生します。それが発がん物質となりますから、欧米型の食事では高脂肪だけでなく、高蛋白の害によってもがんになりやすい体質をつくります。特に、大腸の長い日本人は、腐敗物質が腸内に長く留まっていますから、腐敗物質の害を受けやすくなります。
 獣肉はそれ自体に抗原、炎症物質をつくるアラキドン酸を多く含んでいることも問題です。
・白砂糖、果物を控えて、
  甘味は麦芽糖や黒砂糖を
 先ほど果糖の害をお話ししましたが、今の果物1個で昔の果物3〜4個分にあたる糖分が含まれています。余分な果糖は中性脂肪になって、肝臓にたまったり、高脂血症の原因になります。中年の女性で脂肪肝の多くは果物のとりすぎが原因です。果物はビタミンCの補給源など良いイメージがありますが、今の果物は甘みが強すぎます。果糖は油と思って、その摂取には十分注意したいですね。
・穀類6・副菜4
副菜は豆、野菜、海藻を中心に
 穀類は玄米か胚芽米(分搗米)にします。繊維成分が腸内環境を良くして、それによってビオチンもうまく産生されます。
 蛋白質や脂質、糖質は穀類や豆類から多くとるようにし(決して獣肉をとるなと言っているのではありません)、ビタミンやミネラルの補給源として野菜や海藻を十分にとりましょう。野菜は温野菜にすると多くとれます。
 酢の物や梅干を積極的にとることも大事です。糖の代謝を円滑にするとともに、体が酸性になるのを防いでくれます。お酢の中にはボケ予防に重要なビタミンB12もたくさん含まれていますし、野菜のビタミンCの破壊も防いでくれます。発がん物質の力を弱めたり、抗原性を弱めたりしてくれる唾液の分泌を促す意味からも、酢の物は積極的にとるようにしたいですね。
――アトピーの患者さんには子供が多いと思いますが、こういう食事を嫌がりませんか。
堂園 それが、小さい子供こそ守るんですね。知恵がついた大人ほど守らない。
 親が可哀想だと思ったり、子供に隠れて肉を食べていると駄目ですね。子供にあわせて親も一緒になって頑張ると、この食事は成人病にとっても良い食事ですから、親自身も健康になってきます。
 かつて、日本人は世界で一番美しい肌で、頭が良いと言われてましたが、油と砂糖を減らして食事を変えたら成績が上がったという実験報告があります。ストレスに強くなり、集中力も良くなるんですね。
 実際に、こうした食事に代えてまずびっくりしたのは、元気になった、お腹が空くようになった、家の中で遊んでいたのが外に出て遊ぶようになった、よくしゃべるようになった、行動にメリハリが出てきたことだと多くのお母さん方に言われます。
 結局、体と心は互いに深く影響し合っているということですね。今の医学教育にはこうした視点が全く欠けています。緩和ケア、食事の問題、こうしたことを教える医学部をつくることが僕の夢でもあります。
(インタビュー構成・本誌功刀)