急増する子供の成人病から学ぶ、

体質を良くする栄養学

国立健康・栄養研究所 臨床栄養部長 板倉弘重先生

子供の5人に1人は、 成人病の危険因子を持っている

 高脂肪食や動物性食品を多く摂るようになって、子供の体格こそ向上しましたが、逆に体質は悪化の一途を辿っています。
 5年前の調査では「子供の5人に1人は、高脂血症や動脈硬化などの成人病の危険因子を持っている」と報告されています(「小児成人病予防検診」)。
 子供、大人を問わず、成人病の危険因子には、高コレステロール、肥満、糖尿病、高血圧があげられます。
 このうち、高コレステロールや肥満、糖尿病は、高脂肪食と運動不足が、高血圧は塩分の多い加工食品の過剰摂取(特にカップ麺やスナック菓子)と、それに伴うマグネシウムの不足、そしていずれも過剰なストレスが原因になっています。
 脂質代謝学を専門とする国立健康・栄養研究所の板倉弘重臨床栄養部長は、「子供の高脂血症や動脈硬化は、将来的に早いうちに成人病になるリスクが多い。食生活を含めた生活様式全般の改善が急務」とその急増を憂えています。
 今月は板倉先生に、食生活を中心に、子供の健康の問題点、改善策等を伺いました。

感染症から成人病へ 体は大きくても、 血管のもろい大人に

・・子供の成人病が問題視されるようになって久しくなりますが、時代を追うごとに深刻化しているのでしょうか。
板倉 子供の病気というと、以前は感染症が多かったわけですね。それが、ワクチンなどの予防対策や抗生物質の発達、衛生環境が良くなったことなどで急速に減り、感染症による死亡は大変少なくなってきました。
 ところが、感染症が少なくなってきたと同時に、食生活を始めとする生活習慣全般が大きく変って、大人と同じ様な病気が子供にみられるようになってきました。
 特に表面化しているのは、肥満児が増えてきたこと、子供達のコレステロールが非常に高くなってきたこと、それから糖尿病が増えてきたことがあげられます(図1)。
 感染症とは違って、成人病によって子供の死亡率が増加したということはありませんが、ただ、高脂血症や肥満などの危険因子を子供のうちに抱えると、大人になってから困った状態になるケースが多くなることが心配されます。
 世界的にも、子供の時からコレステロール値が高い地域では、概して動脈硬化性の疾患やその合併症の発症率が高くなっています。
 このままでは今後、体は大きくて一見たくましく見えても、血管はもろいという大人が増える可能性が高いですね。

脂質・糖質の過剰 食物繊維の不足
アメリカより高い 日本の子供のコレステロール値

・・子供の食事で、栄養的に一番問題になる点は何でしょうか。
板倉 やはり、糖質や脂質が多くなって、反対に、食物繊維の摂り方が不足してきていることでしょうね。その結果、高脂血症(血清中にコレステロールや中性脂肪が異常に増える)や、動脈硬化、肥満、糖尿病を招いています。
 特に、コレステロールについては1960年代以降、動物性食品の摂取が急速に増え、それに伴ってコレステロール値も急激に上がり、特に子供のコレステロール値は、10年位前からはアメリカより高いと報告されるようになって来ています(図2)。
・・肉の摂取量はアメリカの方がまだ断然多いと思いますが、アメリカより日本の子供達の方がコレステロールが多いのは何故でしょうか。
板倉 一つは体質的なものが関係していると思いますが、コレステロールの増加は肉のせいだけではありません(表1)。
 また、アメリカでは1970年代からガイドラインを設けて国をあげて国民の総脂肪摂取量を減らす努力がされ(図2)、実際、心臓疾患にかかる率は下がってきています。日本人と違ってサーロインなど脂身の多い部分は、特に子供の場合はそんなに沢山は食べているわけではないと思います(表2)。
 それとテレビ、テレビゲームの普及、塾通いなど、生活習慣の変化もそれを加速させる原因の一つになっていると思います。
・・体質的な影響もあるということですが、伝統的に肉を食べなかった体質が脂質の代謝に影響していることがあるのでしょうか。
板倉 傾向として、日本人は高脂肪食、或いは肉が多い食事に対して慣れてない体質はあるかと思います。
 実際、私達の研究では、日本人は遺伝的にコレステロール値が上がりやすい体質の人が、欧米人より多くいることが分っています。日本からブラジルに移民した日系人などは肉を沢山食べるようになったことで、現地の人より糖尿病や高脂血症になりやすいことが分っています。
・・コレステロールの危険値は220とされ、成人男女では今、220以上の人が3分の1近くいるそうですね。子供はどうなのでしょうか。
板倉 血清中のコレステロールが1dl中に220mgを超えると、心臓病になるリスクは約2倍、250mg以上になってくると4〜5倍位に跳ね上がると言われています。
 かつては160mg/dl前後だった日本人の平均総コレステロール値は、1990年には204mgと日本人の半数が要注意領域(200〜220mg/dl)に入りました。
 これは子供でも状況は似たようなものです(表3)。子供の場合は200mg/dl以上になるとリスクが高いとされます。それで、子供が狭心症や心筋梗塞にかかっている場合は、コレステロール値が500〜600mg/dlという異常値を示しています。

糖分は澱粉質から、食物繊維を多く

・・糖質の摂り過ぎも問題ということですが、これは主に砂糖ですか。
板倉 そうです。主に甘いものの摂り過ぎですね。ご飯など穀類の摂り方はむしろ少なくなっています。
 日本人は糖尿病の遺伝体質を持つ人が結構いますから、恐らく砂糖に対しても感受性が高い傾向にあると思います。
 ですから糖質は、吸収の早い砂糖より、穀類や芋類のような澱粉質から多く摂る方が良いのです。おやつについてもそこら辺の工夫を是非、お母さん方にして欲しいですね。
・・お芋などは食物繊維も豊富ですしね。
 食物繊維はコレステロールなどを減らす意味で特に重要なのですか。
板倉 それだけではなく、糖の吸収の管理ですね。
 ですから、糖尿病の予防や、肥満が介する病態の改善にも大切です。
 日本人全体、食物繊維の摂取量が激減していますが、特に子供は口当たりの良い、繊維分の少ないものを好むので、食物繊維不足による成人病の危険性はより高くなっていると思います。

食生活の改善は  栄養学の進歩を 取り入れて 伝統食に新しい知恵を

・・和食は三大栄養素のバランスが良く、食物繊維も多いと言われていますね。食生活の改善はやはり、和食に帰れという方向で道を探っていくのが良いのでしょうか。
板倉 素材からみると、和食は魚や野菜、大豆や味噌、納豆、豆腐などの大豆加工食品、主食としている米や蕎麦・・など、すぐれた食品が多い。ですからその素材を量と質を考えて、上手に取り入れて行くことが大切だと思います。
 日の丸弁当に象徴されるように、和食は塩分が過剰で蛋白質が不足がちになりやすいという欠点もあります。ですから、単に昔の和食に戻るというのではなく、食品の生産や流通状況、加工技術の進歩なども考慮に入れ、時代に対応した改良も必要だと思います。
 その場合、どういう状態になると成人病になりやすいか、それを栄養学の進歩を取り入れながら正しい道を探っていくことが大切だと思います。
・・栄養学の進歩とは、具体的にはどういうことが分ってきたのですか。
板倉 ・栄養所要量やガイドラインで示されている質と量の関係。
 現在の所要量は、特にビタミンやミネラルなど微量栄養素に関しては、欠乏症を来さない、生きていくための最低限を目安に定めて来たところがあるので、これからは成人病の予防など病態という面も考えなくてはいけないと思います。
・個々の栄養素の機能面を考えて、それをある割合で摂った方が良いということ。
・さらに、個人個人の体質の違いがあるということが分って来て、これを考慮する・・ということですね。

フレンチパラドックスに見る  抗酸化物質の重要性

・・2番目にあげられた個々の食品、栄養の機能面ということでは?
板倉 例えば成人病に関して言えば、最近言われるようになってきた抗酸化力のある食べ物が重要だと思います。
 抗酸化物質とは今迄は必要とは考えられなかった食品成分で、例えばお茶の中のカテキンとか、いろいろな植物性食品に含まれているフラボノイド類とかのポリフェノール物質ですね。緑黄色野菜に多いベータカロチンもそうです。
 脂肪を摂っても、抗酸化物質を充分に摂っていれば、成人病にはなりにくいということがあります。
 フランス人は肉や脂肪の摂取量が他のヨーロッパの国と同じように高く、血中のコレステロールも高い。当然、心臓病になる率も高くなる筈なのに、フランス人には心臓病が非常に少ないのです(表4)。これを「フレンチパラドックス」と言いますが、それは何故かというと、一つは赤ワインを良く飲む、或いは野菜を非常に多く食べることと関係していると言われています。
 抗酸化物質は圧倒的に植物性食品に多いのですが、ぶどうの皮や種子も入っている赤ワインには、カテキンやアントシアン、タンニン、フラボノイドなどのポリフェノール物質が、白ワインに比べて約10倍も多く含まれているのです。
 また、フランスは他の欧米諸国に比べて、野菜の摂取量も多く、赤ワインや野菜に多く含まれている抗酸化物質が、コレステロールの酸化を抑えることで動脈硬化になるのを防いでいるわけですね。
・・抗酸化物質には、コレステロールそのものを下げる働きはないんですね。
板倉 コレステロールがたまって動脈硬化になるというのは、コレステロールが酸化されてそれが血管壁に蓄積されていくのが問題となるので、そういう意味で抗酸化物質は動脈硬化の促進を防いでくれるわけですね。
 また、現代の環境は大気汚染物質など活性酸素やフリーラジカルの発生源が非常に増えているので、それを抑えるためにも抗酸化物質がより多く必要とされています。

体質、地域性の違いも 考慮に入れる

・・3番目の体質の違いというのは?
板倉 例えば、同じ程度の質量の栄養を摂っても、太る人も太らない人もいる。食塩なども、高血圧になりやすい家系で食塩に感受性のある人は制限が必要ですが、感受性のない人はそれ程制限はしなくても良いということになります。
 コレステロールにしても、家系に心筋梗塞がないなどのコレステロールに対して感受性の低い人は、危険値といわれる240mg/dlに上げたところで、それ程危険ではないわけです。
 だから、栄養指導は各個人の体質と状況に応じても違ってくるわけです。
・・体質的な個人差は、家系の病歴などから判断するのですか。
板倉 家系的な病歴も参考になりますが、実際には遺伝子の反応をみるということがあります。しかし、これについてはまだまだ試行錯誤の段階ですね。
・・個人の特性を国民性までに広げると、日本人は脂肪や砂糖に対して抵抗力が弱い傾向があるということでしたね。やはり伝統的に摂ってきたものに対しては強いというようなことが言えますか。
板倉 伝統的に摂ってきたものは抵抗力がある、逆に、急に食生活が変わったものに対しては弱いということはやはりありますね。
 また、その土地でとれたものはその土地の人の健康を維持する大切な要素が含まれているということも分ってきました。ですから長寿県の沖縄の食事が良いといっても寒い地方にそれがそのまま当てはまるとは限らない。また、土地の物が良いというのは新鮮度も関係してきます。
 一方で、食事は時代や環境によっても要求されるものが違ってきて当然です。ですから、伝統食に先ほど言った新しい工夫を取り入れて食事の改善を目指すことが大切だと思います。
・・今までのお話を伺うと、栄養学の進歩は、生体の中で栄養物質の分子がどの所にどの位の濃度で必要かということを、各個人の体質も考慮しつつ考えていく方向にいくべきということでしょうか。
板倉 そういうことですね。もう、昔のように単なる食品栄養分析が主体の栄養学ではいけないということですね。
 栄養素と体の各機能とのかかわり、そのことがまた、個人の体質、年齢によっても違う・・そうした体の中での新陳代謝の状況が違った環境で、いかに適切なものを適量摂って、体の健康を維持していくかということを考えていかなければならないと思います。

食習慣の重要性

・・食事の内容以外にも、子供の食生活では個食や外食が増えるなどの問題点も上げられていますね。また、今のお母さんは自分も働きに出ているので、子供に食事をせかすのは多くの家庭で常識になっているようですね(図3)。
板倉 習い事や塾通い等、現代の子供はとにかく忙しすぎますね。朝食を摂らない子供も増えているのも問題です。
 こうした食生活では、子供はその時の食事の楽しみとか、或いは食事の知恵というのが中々身につかなく、こうした生活の変化による歪みは、子供に一番影響してくると思います。
 また、テレビやテレビゲームの普及で体を動かさなくなっているのも、成人病になりやすい要因になっていますね。
 脂肪分の多いものを食べて、甘いものを食べて、清涼飲料水を飲んで、そしてカップラーメンをかきこんで塾に急ぐ・・という具合に、子供の食習慣は本当に悪化しています。
・・具体的な改善策は?
板倉 子供の食習慣の形成には学校給食の役割が大きく、学校給食は栄養学的な健康教育の場として、それに沿った給食内容の実現、普及が重要だと思います。ところが、今の学校給食は、脂肪の供給が多かったり、経済性が優先になっているなどの問題点があり、そこら辺の改善を強く進めていく必要があると思います。
 また、お母さん方への教育も考えていかなければと思います。
・・今の世の中ですと、栄養補助食品や健康食品を利用するのも、ある程度やむを得ないところがあるでしょうか。
板倉 食事を充分にとれない場合、そうしたものを上手にとり入れるのも、現代ではある程度、やむを得ない面があると思います。
 特に、不足しがちになる抗酸化物質や、微量栄養素などの補助食品ですね。こうしたものに頼りすぎるというのではなく、上手に利用するというのは、現代人の知恵の一つであるのかもしれません。
・・今日は貴重なお話をありがとうございました。
(インタビュー構成本誌功刀)