この人に聞く 37

カセを取っ外ずしてみんな、もっと遊ぼうよ
脱都会で遭遇したゴルフ場問題 天王山ゴルフ場立地承認撤回まで

ときがわみどりの会代表 笹沼和利さん

行動派・笹沼和利さんが、
脱サラ・脱都会で、ゴルフ場問題に出遇う迄

 行動派だ。高校卒業後の経歴がそもそも多彩である。
 某国立大学農学部入試に失敗した笹沼さんは、静岡県立浜松商業高校卒業と同時にクズ屋さん稼業に飛込み、ゴミと格闘して丸二年過した。その後二十で一転して背広姿のサラリーマンに変身、三年間は比較的無事平穏に過すが、その間ボランティアとして、県内にある福祉施設をしばしば訪問し、施設教育の問題点にぶつかっている。
 二十三歳でサラリーマンをやめた笹沼さんは、経済的労働から離れ、北海道から沖縄まで日本全国を放浪する。放浪の途中にも全国の福祉施設を訪問し続け、福祉施設の存り方にいよいよ疑問を抱くようになっていく。
 体をこわしたのをきっかけに笹沼さんは半年で放浪生活にピリオドを打ち、東京へ出た。上京の経過は、病気療養もさることながら「東京に集中している情報に魅力を感ぜずにはいられなかったから」だと笹沼さんは説明する。
 療養生活中に、施設と本格的に関わることを決意。東京のある成人精薄施設に生活指導員として勤務することになった。施設では主に施設通勤者の就労の世話を担当。施設勤務の合間には、消費者運動のボランティアとしても活躍している。
 以後十五年間にわたった障害者との関りあいの中で「人と人との向き合い方」を学んだという笹沼さんは、「障害者を施設に閉じ込めてはいけない」、「既存の施設では精薄者の人権は守り得ない」という思いを深くしていった。
 三年前に福祉施設に見切をつけ、埼玉県比企郡都幾川村に一ヘクタール(約三千坪)の土地を友人と共同購入。
 〈農業〉・〈障害者の生活寮(通勤生活寮)〉・〈遊び〉の三つを柱とする生活を目指して一昨年、都幾川村に移り住んだ。
 土地に付随していた豚舎を住居に改造し、ここを根城に都幾川村・村民としての根をいよいよ張り出そうとした時、地元のゴルフ場問題にぶつかった。この時より行動派・笹沼さんの本領発揮となる。
 集会に続く集会、村民へのチラシ『ときがわみどりの会つうしん』の週一回の発行、ゴルフ場問題公開学習会、反対署名運動、公開質問状の提出と、昼夜分かたずの活動が、昨年九月から三月現在まで既に半年以上も続いている。住居にいる時間は睡眠時間合せて日に数時間もない。
 「大変ですね」のこちらの言葉に、人生半ばで既に結婚二回、離婚二回の経歴を持つ笹沼さんは、「生涯遊び続けていきたいですから」と言って大きく笑った。
 生きる過程で取り付けてしまった諸々のカセをはずしさえすれば笹沼さんの様な生き方は何なくできるそうである。

入村半年で
ゴルフ場問題にぶつかる

 引っ越しが一段落して、さー、目指す三本柱の生活(農業・障害者の生活寮・遊びの)に取り組むこうかというところで、ゴルフ場問題にぶつかっちゃいましてね。
 もうこれは、ぶつかったらやるしかないと。
 天王山ゴルフ場は全体で百十四ヘクタールも予定されています。これだけ大規模に山林が破壊されたら、先祖代々受け継がれてきた都幾川村の生活環境は台無しになってしまう!

ゴルフ場建設反対要望書より

 (天王山ゴルフ場建設反対
都幾川村村民の会90・11・18)
 森林は気温と湿度環境を緩和し、風を防ぎ、霧を防ぎ、自然災害を防ぐ。更に大気を浄化し、教育教養の場にもなる。
 そんな大切な森林を破壊したとき、森林に降った雨は平準化されず一時的な出水となり下流に洪水を招くこととなる。
 更に浸食防止機能を失った森林は土砂に流出し山裾の住宅をも破壊しかねない。
 一方、ゴルフ場で使用する農薬は水質を汚染し河川に流れ込む。この河川から取水する水道水、更には山林からの湧き水を時には使用する住民にとっては死活の問題である。
 「守る健康から作る健康」を目的とする都幾川村にとっては有り得べからざる事である。
 又、農業用水が汚染される時水田農業は壊滅する。
 かくも害あって益なしの森林破壊につながるゴルフ場建設は「快適な環境で水を守る」とした都幾川村の総合基本計画にも反する重大な事である。

ゴルフ場問題を表に出す 「ときがわみどりの会」 の発足

 僕がゴルフ場問題を知った時は、村は既にゴルフ場建設の同意書を埼玉県に出していたのです。一昨年のことです。
 ゴルフ業者は陰でこそこそ動く。
 地権者の殆ど全員は、ゴルフ場がどのように建設され、それによって生活環境がどれほど破壊されるか全く知らない状況で同意書にサインさせられている。
 そこで僕達が先ずしたのは、「ときがわみどりの会通信」などを通じ、ゴルフ場の問題を表に出す事です。
 「ときがわみどりの会通信」は、自分たちで印刷し、毎週、毎週、村三〇〇〇戸に新聞折り込みを利用して配布しています。このちらしを通じて、業者や自治体に情報公開させたことなどゴルフ場問題の実態を、どんどんオープンにしてきました。それと並行して学習会を開いたり、また新聞の地方版で大きく取り上げられたこともあって、村民のゴルフ場に対する理解はどんどん高まっていったのです。
ときがわみどりの会より
ゴルフ場予定地の地権者殿へ

●90年9月26日付け通信
第一回学習会の出席状況

 先日、九月九日に開催致しましたゴルフ場に関しての学習会では皆様にお会いすることができずとても残念でしたが、何分にも急なお知らせでしたので御都合のつかない方が多く、こちらの不手際を反省した次第です。

ゴルフ場ができなくても、買収済の土地は宅地として何倍にも売れる

 現在立地調整中の天王山ゴルフクラブがもし県から承認され用地の買収が始まったとします。しかし、もし私達のゴルフ場反対運動が実を結びゴルフ場ができないことになったとします。すると業者は買収済の土地を宅地として造成します。
 宅地として造成する際の基準はゴルフ場のそれよりももっと緩やかで、森林として残さなければならない広さはゴルフ場が五〇%のところ宅地では二〇%と少なくなり、安全面での不安は増すばかりです。宅地になれば排水の問題、水道の問題など新しい課題ができてきます。
 業者にとって、ゴルフ場として安い価格で取り引きできた土地は、たとえゴルフ場でなくても宅地として転用すれば一〇倍以上の利益をうることができるのですから、どちらにころんでもいいわけです。(天王山ゴルフクラブの場合、坪八千〜一万円が、宅地価格だと坪約九万円)

どうか、ゴルフ場業者に 大切な土地を渡して しまわないで下さい

 現在の日本で、林業が振るわないのは政治の不策のためという気がしてなりません。農業にしても同じです。淡路島のゴルフ場など農協が先頭に立って、農家に農地をゴルフ場業者に売るよう指導しているというひどい話もあるほどです。安い方、安い方へとなびく業者の犠牲になっている熱帯雨林の木々、アジアの森。そして日本の林業家。
 先日アメリカのオレゴン州が日本への木材の輸出を禁止しました。
 …この何年かうちに世界中の国が日本への木材の輸出を規制しないと誰がいえるでしょうか。
 今、日本中で行われている森林伐採、森林破壊が数十年先の日本をどのように変えてしまうでしょう。好景気が終わった時ゴルフ場は価値を失い、朽ち果てた山谷だけが村に町に残されないことを祈ります。

村が ゴルフ場賛成意見書を 取下げた!!

 昨年十月頃から、ゴルフ場建設の同意書にサインした地権者の中で同意取消書を出す人がぽちぽち増えてきました。地権者九十%の同意がなければ、ゴルフ場は建設できません。僕達の運動はあと一歩迄にこぎつけたのです。実に速い展開でした。
 そして十一月、都幾川村村議会では、十八議員中十六人がゴルフ場反対を表明、県に提出した「賛成意見書」の取下げを決定したのです。この決定の背後には都幾川村村民の「ゴルフ場反対」の総意があります。
 反対運動が村民を動かし、村政を動かしたのです。ゴルフ場反対運動が実って、地元の自治体に意見を一転させたのは、埼
玉県内では初めてのことです。県知事の承認を待つばかりになっていたゴルフ場建設は、ここで暗礁に乗り上げたのです。
 こうなって今、ゴルフ場は撤回される見通しが強くなって来ました。おそらく天王山ゴルフ場建設は取り止めになるでしょう。
 次に来るのは、ゴミの問題です。夜中にゴミ業者がこの山までゴミを捨てに来る。ゴミは、ゴルフ場以上に深刻な問題を含んでいます。山を都会人のゴミの捨て場にされたらかないません。
 僕は都幾川村村民の一人として、村に含まれるあらゆるひと、もの、ことと一緒になって、これからも生きて行きたいと思っています。
(インタビュー構成功刀)